1)
レナード・スラトキン指揮セント・ルイス交響楽団、ナレーター:ノーマン・シュワルツコフ(録音1991年、 RCA Victor Red seal 09026-60983-2)
「市民のためのファンファーレ」で始まり、「リンカーンの肖像」で終わるアルバム。題して「アメリカの肖像American Portraits」。この2曲のあいだに、スーザの「エル・キャピタン」、バーグレイの「国民の象徴」といった行進曲の定番、あるいはウィリアム・シューマンの「アメリカよ、喜べ」(「ニュー・イングランド三部作」第1曲)、ヴァージル・トムソンの「〈ヤンキー・ドゥードゥル〉によるフーガとコラール」…などが入っていて、アルバムタイトルに恥じない内容といったところでしょうか。アメリカのナショナリズム、パトリオティズムを感覚的に教えてくれるアルバムです。
2)
ウィン・モリス指揮ロンドン交響楽団、ナレーター:マーガレット・サッチャー(録音1991(?) 年 EMI Classics CDC 7-54539-2)
全曲新録音の1)とは異なり、こちらは「リンカーン…」以外すべて過去のEMIの録音の再編集。演奏者も当然バラバラです。このアルバムも「市民のためのファンファーレ」に始まり、以下「リンカーン…」、バーバー「アダージョ」、エルガー「威風堂々」第1番、ホルストの組曲「惑星」から「木星」、エルガーの「威風堂々」第4番、「エニグマ」から第9変奏「ニムロッド」、そして最後は、ストコフスキー編曲による「星条旗よ永遠なれ」。アルバムタイトルは「民主主義への敬礼Salute to Democracy」(社会主義の終焉と自由民主主義の勝利を宣言したフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』も、そういえばこのころ話題になった本でした…)。バーバーの「アダージョ」とエルガーの「ニムロッド」は、湾岸戦争で命を落とした兵士のために、それぞれアメリカとイギリスから寄せられた追悼ということなのでしょう。最初と最後はきっちりアメリカで固めて、イギリス人の作品をあいだに挟むあたりは、対イラク戦におけるアメリカとイギリスの位置を反映しているのでしょうか。
以上2枚のディスクの「リンカーン…」の演奏は、私にはどうも好きになれません。ただ、2)の、「クイーンズ・イングリッシュ(?)」で(しかも女性の声で)語られるリンカーンの演説を聴いたらアメリカ人はどんなふうに思うのか、少し興味があるところです。それから2)の指揮者のモリス。マーラーの10番(クック版)といい、ベートーヴェンの10番といい、そして今回の録音といい、モリスにはちょっと「きわもの(といってしまっては語弊があるかもしれませんが)」好
みのところがあるのでしょうか? 2)のアルバムは仙台から注文した時点ですでに廃盤予定になっています。店頭でこのディスクを受け取ったのは、イギリスの総選挙で保守党が大敗し、労働党が政権に返り咲いたとの報道が日本の新聞の紙面に載ったその当日でした。
3)ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団、ナレーター:アドライ・スティーヴンソン(録音1962年、Sony Classical SBK 62-401)
4)
モーリス・アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団、ナレーター:チャールトン・ヘストン(録音1961or2年、Vanguard Classics 08-4037-71)
声のよさ、雰囲気のよさという点では、4)のヘストンのナレーションは抜群です。しかし、惜しむらくは、あまりにも千両役者すぎるというか、「はまりすぎている」というか、何度も聴いているとあまりのカッコよさがときに鼻につかなくもありません。一点の瑕疵もない二枚目がかえって嫌みな感じを与える、というやつでしょうか。3)のナレーションは、その点で絶妙のあじわいを出しているように思います。スティーヴンソンは、民主党候補として出馬した大統領選でアイゼンハワーに敗れながらも、その理想主義の精神によって多くの人々の敬意を集め(もっとも、いわゆるインテリに人気があって、庶民からの受けは良くなかったようです)、晩年は国連大使まで務めた人だそうですが(以上、『世界大百科事典』その他を参照)、なるほど飾り気のない、しかし、品格のある語り、渋みのあ
る声からは気骨のある、清廉な人柄が推し量れるようにも思えます。
5)ズービン・メータ指揮ロサンゼルス・フィルハーモニー管
弦楽団、ナレーター:グレゴリー・ペック(録音1968年、Decca)
さまざまな指揮者・オーケストラによってデッカに録音されたコープランドの管弦楽作品を2枚組に編集したうちの一曲。私が聴いたなかでは、一番影が薄い演奏です。
6)アーロン・コープランド指揮ロンドン交響楽団 ナレーター:ヘンリー・フォンダ(Sony SRCR8504〜6)
作曲者の自作自演。谷口さんもご指摘の通り、平板な印象を与えます。早口で、ちょっと高めのキイの声質も、私にはマイナスにはたらいているように感じられます。
概して、コープランドの自作自演はあまりうまくいっていないと思います(自作自演というのは大抵そういうものですが)。とくに上記の3枚組ディスクではオーケストラがすべてイギリスであるあたりにも、不成功の原因があるのかも、と個人的には考えています(それにくらべれば、ボストン交響楽団との「アパラチアの春」、「テンダー・ランド組曲」、あるいはシンフォニー・オヴ・ジ・エアーをコープランドが指揮して、ピアノをEarl Wildが受け持ったピアノ協奏曲の演奏などは出来がよいように聞こえる、というのは偏見でしょうか)。とりわけ交響曲第3番など、最初に自作自演で聴いて、「悪くはないけれど、いまひとつ説得力に欠ける」という印象を持っていたところ、バーンスタイン/ニューヨーク・フィルによる85年の演奏(ドイツグラモフォンPOCG-4049)を聴き、一挙に評価をあらためました。カップリングされている「静かな都会」の演奏も、私が聴いたなかではおそらくベストのものですし、交響曲第3番にしても、「この曲の魅力を120%引きだしたい」という演奏者の熱意がひしひしと伝わってくる名演と思います。指揮者としてバーンスタインのほうが格が上なのはいうまでもありませんが、オーケストラがアメリカのものであることも無視できない要因かもしれません。