ジョージ・ガーシュインの音楽
《ラプソディー・イン・ブルー》はこちらをご覧ください。


ピアノ協奏曲ヘ調、ラプソディー・イン・ブルー ジュリアス・カッチェン (ピアノ) 、マントヴァーニ楽団 英Decca 475 6159

カッチェン/マントヴァーニ
モノラルではあるが、アグレッシブなオーケストラとピアノがぐいぐい進めて行く演奏。第2楽章のトランペットのソロは、いかにもムード音楽のオーケストラらしくて、私は好きである(あのグリッサンドを聴いて、なぜか《スターダスト》を思い出してしまった。もちろん、多少「オーセンティック」であるかというところにこだわるカタブツ音楽学者的自分がいることも認めなければならないが)。プレヴィン/コステラネッツと並んで、当曲の名録音の一つだと思う。一方《ラプソディー・イン・ブルー》は冒頭にストリングスを加えたりするところで、ちょっと抵抗感を持ってしまう。アンサンブルの精度に関しても、若干気になる所がでてくる。総合的にはピアノ協奏曲の方に満足したCDだったと思う。 (04.8.19.)


ガーシュイン自作自演集:希少録音集1931年〜1935年 米 MusicMasters 5062-2-C

ガーシュイン自作自演MusicMasters
おそらくすべてラジオ放送から取られたガーシュイン作品の自作自演。冒 頭から3つ連続で収録されているのは(トラック1〜16)民放の特集番組だったのだろうが (1934年2月19日・4月30日・1932年11月10日。どれにも同じオープニング・テーマがある)、コマーシャルもノー・カットで入っている。自 作自演とはいっても、この番組で演奏されたものはガーシュインの楽譜に基づいてラジオ局おかかえの編曲家が作ったアレンジもののようで、オリジナル・スコ アを忠実に演奏した訳ではない。ガーシュイン はこれらの演奏者として参加しているという感じさえする。

曲の合間にはトークやインタビューもあり、ガーシュインの生声が聴けるのが貴重だし、ミュージカルがまさに上演されていたことに言及されると、当時の雰囲 気を思わず想像したくなってしまう。一方インタビューの内容は一昔前のアイドル歌手向けのトークのようで、あまり歴史資料として使えるものではないのかも しれない。

時代的制約もあるため音はあまりよくないが、細かく編集されており、できるだけ状態の良い複数の盤からつないで録音した感じだった。

3回のラジオ番組の他には、おそらく単発で放送されたものから、第2ラプソディーの演奏(アナウンスなしの全曲。1931年6月26日)と《ポー ギーとベス》からのリハーサル(1935年6月26日)。ただしこのリハーサルもポロモーション的な色彩の濃いものであり、そのまま純粋 に「リハーサル風景」とは取らない方がいいだろう。

マイナーだがちゃんとしたレーベルだし(ディストリビューターはBMG)、エドワード・ジャブロンスキーによる良質なライナーも付いていて、演奏の歴史的 記録としては貴重なものだと思う。(03.12.28.)


ジョー ジ・ガーシュイン 独History 203200(CD8枚組Box)

Historyレーベル ガーシュインBox
様々な音源から、おそらく愛好家向けに作られた、ガーシュインの歴史的 (=古い?)録音集。CD1については、上 記MusicMastersの『希少録音集』とほぼ同じ内容で、音の処理法と収録順が違っている。しかし複数の音源をつないだ箇所が同じであり、さらには ステレオで聴いた段階で右チャンネルがドロップアウトする箇 所もMusicMastersと同じである。従ってこのHistoryの音源とMusicMastersは同一音源を加工しているのかもしれない。また Historyのラジオ放送はあちこちに短い空白が入るので、妙に番組の流れが途切れた印象になっている。(この項未完。03.12.28.)

ピアノ協奏曲ヘ調 アンドレ・プレヴィン(ピアノ)、アンドレ・コステラネッツ楽団 米CBS Odyssey MBK 46270

この 曲の前に収録されている《ラプソディー・イン・ブルー》は、オー ケストラ版でカット入り([4]版→《ラプソディー・イン・ブルー》のページ参 照)。プレヴィンのピアノはフレーズ が明確に聞き取れて、非常に気持ちがよい。この傾向はピアノ協奏曲になると、より生きてくる。オーケストラ伴奏の面白さも、協奏曲の方が聴かせる。特に第 2楽章のウアン・レイシーによるトランペット独奏は、ほれぼれするほどムードたっぷりで、ピアノ・パートがもっと短かったら、独奏者のプレヴィンでさえか すんでしまったかもしれない。最もこの作品はニューヨーク・フィルのために書かれているのであり(当時の指揮はウォルター・ダムロッシュ)、おそらくかの トランペットはこういう吹き方をしないだろうけれど(例えば同じコステラネッツ指揮のレヴァント盤を参照)。しかしこのプレヴィンとコステラネッツの録音 には、濃厚な音楽が刻まれていて、聴き手を唸らせる。

どの楽章から録音したのか分からないが(解説書も「曲目」だけの不親切なもの)、第3楽章の熱の入り方も、第2楽章から納得できるところであり、筆 者はさらに第1楽章に戻ってもう一度聴いた。素晴らしい演奏。

プレヴィンがピアノを弾いた以外では、オペラ《ポーギーとベス》からの抜粋が収録されている。ガーシュインは《なまず横町》組曲をオペラからアレン ジしたが、これはそれをさらに抜粋したもの。筆者の好みからすれば、オペラの筋を多少無視しても、やはりロバート・ラッセル・ベネットの交響的絵画の方を 取る。しかし、コステラネッツの演奏自体はツボをしっかりと押さえている分、親しみやすい。もちろんある程度、オペラでは各曲がどの場面だったかを考えて しまうところはあったのだが。

最後には<Oh Bess, Oh Where's My Bess?>のアレンジも収録。(02.5.2.)


プレヴィン指揮ガーシュイン作品集 アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団 米Angel CDC 7 47021
 
プレヴィンといえば、《ラプソディー・イン・ブルー》とピアノ協奏曲ヘ調の盤が有名だが、こちらの方は、それに比べて注目度が低いよ うに思う。1曲目は、ロバート・ラッセル・ベネット編曲による《ポーギーとベス:交響的絵画》(ガーシュイン自身の《なまず横町組曲》よりは構成がしっか りした編曲だ)。イギリスのオケのアメリカ音楽というのは、どうしても小ぎれいになってしまうという印象(偏見?)をもってしまうのだが、特にグリッサン ドのずり上げ方がスムーズになり、裏拍が軽めに聞こえてしまう。もっと劇的な演奏もできるように思うのだが。2曲目は《第2ラプソディー》。ピアノはプレ ヴィンではなく、クリスティナ・オルティス。オスカー・レヴァントとモートン・グールド管弦楽団の演奏が強烈に残っている筆者にとっては、この演奏は軽め で、迫力は今一つだが、洗練された感じはする。最後の《キューバ序曲》も、落ち着いた、品の良い演奏。ラテン打楽器の小気味よいリズムが楽しい。


キューバ序曲 リットン指揮ダラス交響楽団 米Delos DE 3216(アルバム「A Dayful of Song」)

アップテンポが軽妙だが、後半にやや不自然なテンポ変えのところもあった。この録音の面白いところは、曲の最後から2小節目が3度繰り返されるとこ ろ。ガーシュインの自筆譜(ピアノ・オーケストラ版とも)にはこの指示があるが、出版譜には書かれなかったらしい。筆者も、実はこの曲のエンディングは ちょっとぎこちないと感じていたのだが、アップテンポのままで最後から2小節目が3度繰り返されと、なんとなく普通の終わりかたのように思えてきた。この ように最後を繰り返しているのには、チェリー指揮によるジョージ・ガーシュイン祝祭管弦楽団のがあった。こちらの方は演奏がけだるい感じで好きにはなれな かったが。なおリットンのCDのカップリングは<ラプソディー・イン・ブルー>、<パリのアメリカ人>、<一日分の歌>である。この<一日分の歌>という のは(アルバムのタイトルにもなっているのだが)、近年発見された未出版の歌曲をポップス・オーケストラ用にアレンジしたもの。筆者個人としては、せっか く発見された歌曲は、このような陳腐なアレンジではなく、オリジナルの編成で聴いてみたいと思った。(99.1.12.)


ミュージカル《クレイジー・フォー・ユー(オリジナル・ブロードウェイ・キャスト)米Angel CDC 7 54618 2

昨年末、PBSで放送していたミュージカルのオリジナル・キャスト盤。そもそもこの「Crazy for You」は、ガーシュインの複数のミュージカルから寄せ集めた曲を使っているので、邪道と言えば邪道なのだが、つい面白くて、2時間半たっぷりテレビに釘 付けになってしまったのである。《ラプソディー・イン・ブルー》であれだけ「オーセンティックさ」にこだわるようなことを書いておきながら、これである。 でも、音楽だけ聞くと、やっぱり印象が違う。すごく大げさな感じなのだ。そこで飛ばし飛ばし聴くことに。時代を経た素朴さが、やや抜けているところがあ る。それは、しょうがないのかな? これを「蘇ったブロードウェイの名作」ととるか「ガーシュイン・メロディーのおいしいとこ取り」ととるか、分かれそうだ。(2000.4.4.)


ミュージカル《クレイジー・フォー・ユー(オリジナル・ロンドン・キャスト)RCA Victor 09026-61993-2

アメリカのAmazon.comで、ロンドン・キャストとブロードウェイ・キャストを比較して「前者の方がずっといい」と書いているのを見て早速ロ ンドン・キャスト盤を購入。録音、キャストの歌唱力、オケの腕前と、どれもブロードウェイ版より素晴しい。ただ、ブロードウェイのは、独特の「押し」があ るような気がするし、ややダーティーな響きもアメリカらしいといえば、アメリカらしい。ロンドンのはクリーンだが、スケールの大きさが聴き応えになってい る。またブロードウェイ版は、ロンドン版を意識したのか、収録曲数が多く、セリフも少し多い目に入っている。

私個人としては、どちらを取るかと聞かれたら、ロンドン・キャストと答える。ずっと音楽に浸れるからだ。もちろん、全曲のステージを見ると、そう いった些細な違いは気にならなくなるとは思う。(2000.4.18.)


歌劇《ポーギーとベス》(セレクション) 米MCA MCAD-10520(アルバム『Decca Presents Selections from George Gershwin's Folk Opera Porgy and Bess.』

《ポーギーとベス》、1942年リバイバル上演の際のキャストで、そのメンバーの多くは35年の初演にも出演している。ブロードウェイ・ゴールド・ シリーズとしてリリースされたこのCDだが、聴いたところでは、「オペラ」をちょっと崩したような演奏という感じがする。その一番の原因は、即興的にメロ ディーを変えていくところで、ジャズの世界では当り前だがクラシックではちょっと事情が違うというところだ。もちろんロッシーニの「Una voce poco fa」(「セヴィリアの理髪師」)だって、実際の演奏ではいろいろ装飾が付くのだが、ガーシュインのアリアの場合、もっとメロディーが自由に扱われている ように思われる。この録音は初演を思わせる歴史的な記録として貴重な録音かもしれない。ボーナスとして、リバイバルでスポーティン・ライフを歌ったアヴォ ン・ロングによる「I Got Plenty O' Nothin'」が収録されているが、これはオペラのフィナーレの後に聴くと、シラけてしまう。

ちなみに、《ポーギーとベス》のハイライト盤では、ウィリアム・ワーフィールドとレオンタン・プライス(RCA)のが抜群に良いので、そちらがお勧 め。(2000.4.22.、2000.5.7.訂正)


歌 劇《ポーギーとベス》(セレクション) オリジナル・キャスト、ポール・ローブソン、ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン) 香港 Naxos8.110219-20(2枚組)

Naxos Porgy and Bess (excerpts)
《ポーギーとベス》の初演を担当した歌手たちによる録音を集め、当オペ ラのハイライト盤のように集めたものが1枚目にあたる。CDの2枚目はガーシュイン監修による録音、ポール・ローブソン独唱による《ポーギーとベス》から の3曲、ハイフェッツ編曲・演奏による演奏会用ショーピース的抜粋、最後にR. R. ベネット編曲による「交響的絵画」(アルフレッド・ウォーレンステイン指揮ロサンゼルス・フィル)。(03.12.27.)

歌劇《ポーギーとベス》にもとづく交響的絵画(ロバート・ラッセル・ベネット編) フェリックス・スラトキン指揮ハリウッド・ボウル交響楽 団 米 Pickwick(Capital音源)SPC-4044(LP)

ポップス管弦楽団によるスタジオ録音ということもあって、ドライな音で録音されているが、オペラからのナンバーを気持ちよく歌ってい るのが魅力的。「交響 的」かどうかと言われれば、やはりもともと想定されたフル・オーケストラが良いだろうし、コンサート・ホールのエコー感はやっぱり欲しい。重厚さを期待し てはいけないのだろう。

でもオケ自体の腕前は大したもので、やはりエンターテイメントとしての価値はあるのかもしれない(ラストのトランペットの「延ばし」も 強烈!)。同時収録はモートン・グールドの《ラテン・アメリカン・シンフォネット》。 (02.7.4.)



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