音楽雑記帳(2)



ボストンの図書館体験記(1)(1997.5.9.)

1997年の春学期が4月末に終わり、学校は一週間の休みに入った。学校がないと突然退屈になってしまう我が町タラハッシーにいてリラックスしても良かったが、折角だからどこか遠くへ行ってみたくなった。どこに行くか迷ったが、宿代を浮かすため、友人に会うため、そして最近研究していた19世紀ボストンの作曲家の調査をするという3つの目的を兼ねてボストンへ行くことにした。

私がボストンにいたのは、もうすでに3年近くも前で、ボストン大学の語学研修センターにいた時だ。いわゆるこの手の「英語学校」は、大学内での勉強とは全く違うもので、文献調査やレポートを書いたりするわけではない。会話や作文を基礎として、大学入学のための英語の試験、TOEFL(「外国語としての英語」のテスト)にも備えるものである。かといって全ての人が真剣に大学入学を目指している訳でもなく、夏休みにぶらっと海外に来て遊んでいる人もいるし、会社から派遣されてきた人達もいた。

そんな訳で、当時は自分の好きな音楽について、とりたてて密に研究をしたわけでもなく、したがってボストン大学以外の図書館には行ったことがなかった。

ところがボストンには大学が山のようにある。ハーバード大学を筆頭にして、MIT、マサチューセッツ大学、ボストン・カレッジ、エマーソン大学などがある。さらに、マサチューセッツ州単位ではブランダイス大学やタフツ大学を始め、大学がひしめいている。音楽に関してはニューイングランド音楽院、バークリー音楽学校がある。

現在いる大学で、たまたま「19世紀ボストンの標題音楽」についてレポートを書くことがあった。残念ながらそのレポートはすでに提出してしまったのだが、折角ボストンにいるのに、資料を見ない手はないと思ったのだった。

今回訪れたのは、ハーバード大学、MIT、ニューイングランド音楽院の3つで、ハーバードでは3つの図書館、ニューイングランド音楽院も2つの図書館で調査をした。以下、それぞれの図書館についての体験を以下に述べてみる。

(1)ハーバード大学・ホートン図書館

メインの大きな図書館(学生証を見せないと入れない)の隣にある、貴重文献の図書館。今回は19世紀アメリカの作曲家で、ハーバード音楽学部初代教授のジョン・ノウレス・ペインの自筆譜を閲覧した。入り口には、背広をきたおじさんが座っていて、「何しにきたの?」と話しかけてきた。事前にEメイルをここの図書館員に送っておいたので、事情はすぐに分かってもらえた。そのおじさんのところでは、名前、住所、研究主題など、カードに書き込まされ、図書館利用の方法について簡単な説明が行われた。荷物はすべてロッカーに入れることになっており、ペンは持ち込み不可。できればラップトップのパソコンを持って入るのがいいらしい。私はパソコンを持っていないので、シャープペンシル、消しゴム、そして自分が持ってきた調査資料などをカバンから取り出した。

図書館に入るときは、ドアの横にあるブザーをならす。すると中にいる係員が鍵をあけてくれる。それも電子式なので、ブーと音がなっている間にドアを引くという形になっている。なかなか厳重な警戒だ。中は学者や大学院生らしき人が少なからず広い館内に散らばっているという感じ。コンピュータを持ってきている人達も多かった。

同図書館の資料の詳細は、残念ながら オンラインのカタログでは分からない。私の場合は、図書館員が事前に所蔵番号をEメイルで教えてくれたので、多少その辺りはスムーズにいったが、そうでない場合は、カードのカタログで所蔵番号を調べなければならない。

所蔵番号、資料名などを薄いカードに書いて、カウンターに提出するのだが、「では30分ほどお待ちください」と言われたのには、正直いって驚いてしまった。それからは30分、ひたすら待つだけ。ありがたく地下の書庫から出てきた書籍は、「く」の字が横になったようなプラスティックの台の上に乗せられて運ばれてくる。本が必要以上に開きすぎないように配慮されているのだ。本の中央がきちんと見えないときは、砂の入った細い重し(蛇の形をしている)を持ってきてくれる。取扱いは極めて慎重に行わなければならない。

資料をカウンターに戻し、退室するときは、図書館員にちょっと目線を送るように。入室の時と同じで、電子ロックを解除してもらわなければならないからだ。

退出すると、出口にいるおじさんに、手に持っているもの全てを検査される。貴重資料なので、盗難に対しても、このくらい厳重である。あとはロッカーから自分の荷物をとりだし、鍵をこのおじさんに返す。

いわゆるコピー機は置いていない。複写サービスとしては、マイクロフィルムとそれからのコピーのみになる。楽譜の場合は、一ページだけということも少ないだろうから、マイクロフィルムを作ってもらうのが一番安くあげられるのではないだろうか。すでにネガティヴが大学にある場合は、それから自分用のポジティヴのフィルムをつくってもらえるが、自分がはじめてその本の複写をお願いするという場合は、ネガティヴ製作費も払わなければならない。いずれにせよ値段は一件につき2、30ドル前後だろう。

(2)ハーヴァード大学・音楽図書館

音楽学部のビル内、ペインホールとは反対側にある。1997年5月現在、この図書館はあまりにも貧弱に見えた。まず書庫が狭いこと。屋根裏部屋のような場所が地下と地上3階まで続く。書棚間は、人がしゃがめばもうそれ以外のスペースはない。天井も低い。

分類は国会図書館のとは違うようなので、事前にコンピュータで所蔵番号を調べたほうがいいだろう。置いてあるものはさすがに古いものも多く、面白いと思ったのは、ボストン交響楽団のプログラムが創立当時のものから現在のものまであること。これはたいしたコレクションだ。それ以前、たとえばハーヴァード協会主催のコンサートのプログラムなどもあり、歴史的価値は高いと思った。

なお2階には、小さいながらも、立派な読書室があり、音楽史を勉強している学生がいつもここにいるようだ。レコードやCDを聴く施設は1階カウンターの右手にあり、多くの学生が使っている。

つづく


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