ファーディ・グローフェの音楽

《グランド・キャニオン組曲》以外のグローフェ作品

グローフェについて
ファーディ・グローフェ(1892〜 1972、アメリカ原地ではグロッフェーと発音されることが多い)はニューヨークにて、4代も続く音楽家の子供として生まれ、家族とともにロサンゼルスに移住。しかし14歳で家出し、その後はアメリカ各地にて牛乳配達、トラックの運転手、製本の手伝い、鉄工所勤務など、様々な職業で生計を立てた。音楽ではバーでのピアノ弾きや伴奏の仕事も行ったが、1920年代にはポール・ホワイトマン楽団のアレンジャーとして活躍する。

さてグローフェがアレンジャーとして活躍した楽団のポール・ホワイトマンは、今日ダンス・バンドのリーダーとして知られている。しかし「ジャズの王様」と呼ばれたように、1920年代、彼はジャズをアメリカ国内のマジョリティー、つまり白人層に広めた。そのホワイトマンが行った音楽は、ジャズのスイング・リズムと即興をクラシックのオーケストレーションと融合するようなもので、これがおそらく人気の一因ともなったのだろう。(05.9.13.、この項未完)
グランドキャニオン組曲
アンドレ・コステラネッツ管弦楽団
米Columbia ML 4059(LP)
グローフェ/コステラネッツLP グローフェのオーケストレーションに細かく手が入れられている。輪郭が原曲よりはっきりするように加筆されているが、ホワイトマン用に書かれたジャズ・バンド版をもとにしたかのような箇所もある。<山道を行く>の中間部の、通常ホルンが演奏する箇所がミュート付きトロンボーンのソロになっているとか、<日没>の冒頭の主題がミュート付きトランペットのソロになっているとかである。<豪雨>の冒頭でサックスが旋律を吹く部分はコステラネッツのオリジナルかもしれないが、とても印象的である。また、ソロ旋律に独特のスイング感があるのも面白い。ウインドマシーンの細めの音も比較的よく聴こえてくる。時にオーケストラの弱さが露呈してしまうところが残念ではあるが。(04.1.26.)

エンリケ・バティス指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
英EMI ASD 1654841(LP)

Grand Canyon Batiz, cond. うるさいほどにオーケストラが良く鳴る演奏である。しかし荒削りなと ころもあり、《ミシシッピー組曲》は、ややしつこい演奏のように思われた。(03.12.28.)
ハワード・ハンソン指揮イーストマン・ロチェスター管弦楽団
米Mercury 434 355-2

アメリカのクラシックには、必然的にポピュラー音楽的な要素が混ざっているように思う。ハンソンはそういったアメリカのクラシック音楽をマーキュリー・レーベルに数多く録音しており、聴かせ所がうまく捉えられているように思う(アメリカ人作曲家をまとめて演奏するコンサートなどは、1930年代からやっている!)。このグローフェ作品の場合も、気楽で楽しい部分とシンフォニックに鳴らす部分とが上手く両立されていて、楽しくクラシックに接することができると思う。<山道を行く>では、蹄(ひづめ)の音がちょっと他の演奏と違うように聴こえた。<日没>のハーモニクスも無理のないテンポでうまく鳴らせている。エコーの少ない録音は好みが別れるところかもしれないが、慣れれば大丈夫かもしれない。

同時収録の《ミシシッピー》組曲のなかでは、<<いにしえのクリオールの日々>>は品の良い旋律の提示が印象に残った。そしてほとんと休止なしに《マーディ・グラ》へとつながるのは、他にはないコンセプトを感ずるものだった。この曲の他にヴィクター・ハーバートのチェロ協奏曲も収録されている。結果的に盛り沢山の音楽が聴けるお得な盤といえるのかもしれない。(02.8.27.)

ウィリアム・T・ストロンバーグ指揮ボーンマス交響楽団
香港Naxos 8.559007
ストロンバーグ グローフェ 1 シンフォニックでスケールの大きい演奏。イギリスのオケらしく、鳴ると きは本当に鳴るという印象。しかし作品全体の筋がしっかり見通せて、安心して聴ける。またこのCDは、ジャケットの写真にもある通り、<ナイアガラの滝組曲>を初めて録音したというのがウリの一つ(ちなみにこの作品は、ナイアガラ水力発電所の委嘱によるものだというところがミソ。滝そのものよりもダムの描写、近代文明への賛歌といった印象が強い)。値段も安いし、これからグローフェのCD をという人にはお勧めしたい1枚である。(2000.10.、01.5.7.改訂)
フェリックス・スラトキン指揮ハリウッド・ボウル交響楽団
米Angel CDM 7243 5 66387 2 3
F. スラトキン グローフェ 大オーケストラの色彩豊かな演奏に慣れた耳には、やや乾燥して(スタジオ録音のせいか)こじんまりとした解釈に感じられるだろう。確かにハリウッド・ボウル交響楽団は卓越した技能のあるオケではないかもしれない。しかし何となく楽しいのである。このフットワークが軽い演奏は、「交響楽団」によるものだとはいえ、室内楽的でさえある。私はグローフェ作品に、こういう解釈があってもいいと思う(個人的にはこの《グランドキャニオン》の演奏が一番好きだ)。カップリングに<ミシシッピー組曲>、<死の谷組曲>(グローフェ指揮、この作品はちょっと安っぽい感じがするけれど)などが収録されており、これ一枚でまるごとグローフェ代表作が堪能できるCDである。なお、昔セラフィム・シリーズの一枚として発売されたLP(国内盤)には、<<豪雨>>クライマックスに「コーン」という雷鳴が入っていたが、このCDには収録されていなかった。ライナーノートにはグローフェ自身の文章が載せられている。一読の価値ありとみた。なお、フェリックス・スラトキンはレナード・スラトキンの父親である。(2〜5は1998年夏休み中の記述、98.8.24.アップロード、このCDについては01.5.7.改訂)
エリック・カンゼル指揮シンシナティ・ポップス・オーケストラ
米Telarc CD-800086
Grand Canyon Kunzel CD

下手に味付けしようとすると力が入り失敗してしまうこのグローフェの作品の場合は、このようなポップス・オーケストラの方が新鮮さを失わずに作品をうまく表現できるのかもしれないと思う。テンポが全体的に速め。<日没>冒頭におけるヴァイオリンのハーモニクスが美しい。<豪雨>ではウインド・マシーンが前面にでてくる。この最終楽章には雷鳴を加えたヴァージョンが別トラックに収録されている。やや文脈がはずれた感じで音が入るのがちょっと残念だが、楽譜にないものだから仕方がないのだろうか(最後の一発はちょっとわざとらしいし)。なおライナーノートは面白くてためになる (04.8.4.改訂)。

(04.8.4. 追記) この作品を生で聴いたことはないのだが、カンゼルの録音を聴くと、案外生で聴いても面白い作品じゃないかと思えてくる。できれば小編成のオリジナル版で聴きたいものだ
アンタル・ドラティ指揮デトロイト管弦楽団
英デッカ 410 110-2

全体にシンフォニックだが、<<日の出>>や<<豪雨>>などは、やや腰の思い演奏。もっとリラックスした感じの解釈で楽しめると良いのだが。<<日没>>は、旋律線がやや途切れ気味だが、案外あっさり通される。<<豪雨>>ではクライマックスに雷が一発入る。

ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団
Sony Classical(筆者が聴いたのは国内盤のLP CBSソニー15AC 1725)

シンフォニック路線。スコアが細部まで読み込まれ、バランス良く整えられている。オーケストラの色彩の豊かさが充分に活かされている秀演である。難をいえば、<<日没>>の旋律の歌わせ方がやや不自然なことと、ラルゴと指定された<<豪雨>>のテンポがやや遅すぎるよ うに感じられることだろうか。
 

スタンリー・ブラック指揮ロンドン・フェスティヴァル・オーケストラ
英デッカ(筆者の聴いたのは1964年の国内盤LP、キングSLC 1362 [写真])
スタンリー・ブラックといえば、ハリウッド映画音楽をシンフォニックにアレンジして演奏することで有名。グローフェ作品でもリラックスしながら豊かなオーケストラの響きを堪能できる。ブラックの指揮は曲があまりしつこくならないように心がけているようだが、フェイズ4の録音は音が荒っぽく聞こえるので、それが残念である。ブラックの作品への接し方にはある程度共感できるが、映画音楽のアレンジに見られるワクワクした面白さがないし、オケの音色が暗めである。
ポール・ホワイトマン指揮ポール・ホワイトマン楽団
米Preamble PRCD 1785
一般的には大オーケストラのための交響的作品と捕えられる作品だが、 ガーシュインの<ラプソディ・イン・ブルー>同様、ポール・ホワイトマン楽団が演奏したジャズ・バンド(?)版もあるらしく、同バンドがSPに吹き込んだものがCDに復刻され発売されている。<<日没>>冒頭のヴァイオリンの旋律が実はスイング・リズムのトランペット・ソロで演奏されたのだということが分かったり、<<山道を行く>>の中間部で、2本のホルンによって奏される旋律がミュート・トランペットだったり、聞いてすぐ分かる違いもあるが、その他は、案外驚くこともない演奏だと思う。しかし歴史的な価値はあるだろうから(これがジャズバンド版の唯一の録音である)、それを求める人には面白いのかもしれない。なおカップリングには、作曲者は好きになれなかったというガーシュイン作曲、グローフェ編曲のピアノ協奏曲ヘ調が収録されている(もともとこの作品はガーシュイン自身がオーケストレーションしている)。トランペット・ソロに、ビックス・バイダーベックの名前が言及されているが、これを目当てに聴く人もいるということなのだろうか。(98.7.6.)

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