サミュエル・バーバーの音楽


管弦楽作品集 デヴィッド・ジンマン指揮 バルティモア交響楽団 
英Argo 436 288-2
収録曲

《弦楽のためのアダージョ》(弦楽四重奏曲Op. 11より)、《管弦楽のためのエッセイ》第1・第2、《シェリーの一場面からの音楽》、《悪口学校》序曲、第1交響曲


バーバーの初期管弦楽作品を鳥瞰する内容。オーケストラはふ くよかな響きを持っていてダイナミックだ。

[1] 《弦楽のためのアダージョ》はもともとの弦楽四重奏と違って低音にコントラバスもダブっているので、余計にゴージャスになる。しかし旋律を過度に揺らせて 歌うことはせず淡々と進むので、もっと痛切な表現を求める人には物足りないのかも知れないが、緊張感は間違いなく持続しているし、表現 が薄くなることもない。最強奏の部分まで自然に持っていってくれるのである。

[2]《悪口学校》序曲もテンポを速めに設定しているため、他の演奏よりもセンセーショナルさが強調されている。バーバーは単にセンチメンタルなロマン主義で書いていた訳ではなく、古典的な形式美も兼ね備えていたことを感じさせる。

[3] 第1エッセイも過剰に劇的効果を最初から狙わずに、作品のシンフォニックな側面を照らし出す解釈である。

[4] シェリーの場面からの音楽作品7では、滑らかな旋律が止めどなく流れる自然さにひかれる。このCDの中では最も色彩鮮やかなオーケストレーションが施され た作品で、調性感は強く保ちながらも、ナイーヴさから少しずつ脱却し、じっくりと積み上げて行く劇的なクライマックスでは。 (02.12.21.執筆、05.4.5. 追加、この項未完成


管弦楽作品集第1集 マーリン・アルソップ指揮ロイヤル・スコットランド国立管弦楽団
香港Naxos 8.559024
収録曲

交響曲第1番、交響曲第2番、管弦楽のためのエッセイ、《悪口学校》序曲

交響曲第1番の演奏はイギリス系のオケらしく明確なアーティ キュレーションが特徴的だ。そのはっきりとした響きが、感情うごめく第1部・スケルツォの第2部の爽快さ、ならびに後半部分の印象的な力強さにつながって いる。しかしアルソップは第4部のパッサカリアのテンポを引きずるように遅く演奏する(もっとも、これは彼女だけのやり方ではない)。ブルーノ・ワルター やデヴィッド・ジンマンの第1が成功しているのは、このパッサカリアが、たたみ込むような効果を持っているからではないかと思うのだが、どちらかというと アルソップは第3部の緩徐楽章部分も含めて、ややバーバー固有のリリシズムに浸りすぎて、くどくなるきらいもある。もっともそのテンポでも音楽の張力が切 れてしまうことはないので、オーケストラの機能性を含めて、よい仕上がりになっているとは思う。

同時収録は、第2次大戦中に書かれ、作曲者が破棄したとされる第2交響曲。しかし、彼の死後リヴァイバルが起こり、録音もいくつかあ る。例えばストラディヴァリウス・レーベルから出ているアンドリュー・シェンク指揮ニュージーランド交響楽団のものは、やや醒めたところもあるが、まと まった演奏ではないかと思う(ヤルヴィが英シャンドスにいれたものは、第1楽章など、楽想の流れがあまり良くなかった印象を持っている)。しかし、この CDに収録されたアルソップの演奏は、バーバーの後期作品が単に半音階を多用し無調と調性の間を渡り歩いたものではなく、底辺にそこはかとないロマン的気 質を持っていることを物語っている。この感覚は、おそらくバーバーの自演盤LP(英ロンドン/米エヴェレスト)にもあまりなかったものではないだろうか。 クーゼヴィツキー/BSOの演奏も伊As Discから発売されていたが(現在入手困難)、一度それと比較してみたいものだ。

米VoxBoxの組み物CDに、確かバーバー作品の選集があり、そこに伊ストラディヴァリウス・レーベルから出た2つの交響曲が収めら れていたと思う。しかし、1枚で一気に2つの交響曲が聴けるCDは、これが初めてではないかと思う。もちろんナクソスは、今後2枚のCDを出すことによ り、やはりバーバー選集を完成させることになるのだが、それにしても最初にこの大曲2つが聴けるのはうれしい。

カップリングの《悪口学校》序曲、エッセイ第1番も含め、このバーバー管弦楽選集第1巻は、気がねなく勧められる一枚である。値段も安 い!

なお、指揮者のマーリン・アルソップは、アメリカの公共放送では、よく聴かれていると思う。(以上2000.6.5.、 2001.1.20.訂正、2005.3.28. 改訂)

→さらなる議論




交響曲第1番 ハワード・ハンソン指揮イーストマン・ロ チェスター管弦楽団
米Mercury SR 90430
バーバー 第1SYM ハンソンCond. 嫌みのない十全なロマンチシズムの感ぜられる充実の演奏。モノラルなが ら、低音の効いたシャープな録音。カップリングはハンソンの第5交響曲。だがマーキュリーは数多くの再初盤をリリースしており、おそらくこれはオリジナル のカップリングとは違うのだろう。(執筆日不明)


交響曲第2番 セルゲイ・クーゼヴィツキー指揮ボストン 交響楽団
伊AS Disc AS 563
クーゼヴィツキー バーバー 1944年4月4日シンフォニー・ホールによる初演のライブ録音。バー バーは後にスコアを破棄しており、この初演以外の録音で聴けるのは、すべて後にイギリスで発見されたパート譜から作られた改訂版スコアを使用していると いっていいだろう。

決定的に違うのは第2楽章の最後の方で聴かれるビーコンの音。か細いピーピーという電子音が聞こえてくる。第3楽章ではトランペットがトレモロで割り入っ てくる箇所もある。

演奏は迫力に富み、第2交響曲が安易なノスタルジアを払拭した作品であることを強く認識させてくれる。

カップリングはロイ・ハリスの第6交響曲《ゲティスバーグ》とエルンスト・トッホの《ピノキオ序曲》。(2003.12.21.)


交響曲第2番、シェリーの場面のための音楽、管弦楽のた めのエッセー第1番、弦楽のためのアダージョ 
アンドリュー・シェンク指揮ニュージーランド交響楽団  米Stradivali Classics SCD 8012
Barber Sym 2 etc.  Schenck 第2交響曲を初めて聴く人にも勧められるCD。演奏は小気味よいテンポ で爽快に進む。端正な音楽は薄めに響くので、もっと激しく、また芯の詰まった演奏を好むリスナーがいる可能性もある。輝かしさはあっても暖かさが欲しいと いう人もいるだろう。オーケストラの音色、録音もそういった要素に関係しているのだろうか。しかしあまりオーバーなリタルタンドをしていないこともあり、 第2交響曲の、時に不協和で古典的な味わいのある作風には合っているように思う。

なお第2交響曲以外の演奏もダイナミックでスムーズである。筆者個人は好きな部類の演奏。(05.3.28.)


初録音集 
英Pearl GEM 0049
収録曲

《悪口学校》序曲、弦楽のためのアダージョ、キャプリコーン協奏曲、ドーヴァー海峡、管弦楽のためのエッセイ第1番、チェロ・ソナタ、交響曲第1番

全編モノラルの、バーバーの初録音を集めた、歴史的に貴重な 録音集。《悪口学校》序曲はテンションの高い演奏。CDのスターターとし ては成功している。ト スカニーニは意外にもマイルドな質感の弦楽合奏。これよりもっとはち切れてクドい演奏は多くある。

キャプリコーン協奏曲は、高音の歪みがフルートやオーボエの音にかなり厳しいが、新古典的な雰囲気は、何とか伝わってくるように思う。

最後はブルーノ・ワルターによる第1交響曲。彼は、リヒャルト・シュトラウス以降の音楽はあまり演奏しなかったようだが、この第1交響 曲は唯一ともいえる例外。しかもアメリカ人の作品だ。強靭な推進力が終始饒舌(じょうぜつ)に語りかけてくる。

なお、このCDにも収録されているワルター/NYPによる第1交響曲はソニーからもリリースされている(米Sony Classical SMK 64466)。おそらくこれはマスターテープからCD化されているのか、ノイズが少なくてよい。しかしマスタリングのせいか、やや窮屈にも聴こえた記憶が ある。カップリングは、リヒァルト・シュトラウスの《ドン・ファン》、《死と変容》、ドヴォルザークの《スラヴ舞曲》数曲である。

ワルターの1番には、他にもアイザック・スターン/バーンスタイン/NYPのヴァイオリン協奏曲を収録した盤があるそうだ(仏 Retrospective [Sony] RET 013)。(02.7.3.この項未完成)



バー バー 自作自演集 英Pearl 0151
英Pearl
Pearl バーバー Vol. 2 収録曲

交響曲第2番作品19、チェロ協奏曲、《メデア》組曲

『初期録音集』に続く、Pearlレーベルによるバーバー作品集第2 弾。こちらは録音のすべてがバーバーの指揮になるもの。第2交響曲は、かつて米Londonレーベルからリリースされていた自演で、米Everestから 擬似ステレオ盤としても発売されていた(いずれも《メデア》組曲がカップリング)。第2交響曲は、クーゼヴィツキーの初演にくらべると、やや角が取れた感 じ。(2003.12.21).


バーバーのアダージョ 
米RCA Victor 09026-68758-2

おなじみバーバーのアダージョをいろんな編成で演奏したものを集めたCD。原曲である弦楽四重奏の第2楽章は、東京カルテットによる熱 演(やや感傷的か)。大オーケストラの演奏はシャルル・ミンシュ(アメリカではチャールズ・マンチと発音される)とボストン響による秀演。

そのほか、バーバー自身の編曲によるオルガンと合唱(<アニュス・デイ>の歌詞が付けられている)版や、クラリネット合奏(リチャー ド・ストルツマンほか)、ブラスアンサンブル(カナディアン・ブラス)なども楽しめる。余興として(?)ジェームズ・ゴールウェイとシンセサイザーによる 演奏も入っている。

バーバーのこの作品がいかに多くの人に愛されているかがよく分かるCDだと思う。ただ重い曲なので、収録されたすべてのバージョンを一 度に聴くのは大変かもしれない。ライナーは演奏者のみが書かれたシンプルなものである(国内盤は見ていないので分からない)。(1998.7.28.  1998.8.24.改訂、2002.7.3.改訂)


ヴァ イリン協奏曲

(1)ウォルフガング・スタフォンハーゲン(ヴァイオリン)、ウィリアム・ストリックランド指揮インペリアル・フィルハーモニー交響楽団 米CRI SD 137(LP)
Vn協奏曲/Sym. 1ジャケ
筆者が接したバーバーの作品としては、ラジオで再生されたこのLPの裏 面に収録されている第1交響曲が最初であり、どちらかというとその第1交響曲のために買ったのだが(ストリックランド指揮日本フィル)、ヴァイオリン協奏 曲も、しっとりとした品の良い演奏である。モノラルで録音も良くないが、もし中古で発見されたら、一聴をお勧めする。(2003.12.23.)



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