An American Celebration 第2巻、 CD1
New York Philharmonic Special Edition NYP 9902/9903

巻が変わって一枚目のCD。雰囲気も変わって、最初はデューク・エリントン(ウィントン・マルサリス編曲)の<音によるハーレム>(単に<ハーレム>と呼ばれることも多いらしい)。このCDシリーズの中ではもっとも新しい1999年4月の録音で(解説には4月8日、10日とあるが、この2つの演奏会からの編集されたということか?)、マルサリス率いるリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラとマズア率いるNYPとの共演の記録。やや厳しく批評すると、この演奏は、音楽表現の必然性がスウィングのリズムになるのではなく、まずそのリズムから始めて、それに乗せてやっているという感じがする。だからいま一つ、実感として面白くない。これはもちろん、エリントンによって作曲されたものを第三者のマルサリスが編曲し、その配下のグループが演奏するということにも影響されているとは思うのだが、それにしても、音楽そのものに「生きた伝統」という説得力がもう少し欲しいようにも思う。また、音色が全体に明るく、ブルース特有の陰影といった要素が、音楽の底力としては、やや不足していると思う。

ただ、そこまで厳しいことを要求しなければ、この演奏は純粋に楽しめるし(大半の人はそう感じるのかもしれない)、最後がエキサイティングに盛り上がる辺りは、さすが場数を踏んでいるプロのミュージシャンだと思う。オケの方は、前半やや温度が低く、ポップス・コンサートのようになりがちだったが、後半はヴァイオリンのリズムの感じ方に違いがでてきたりして、うまく文脈に乗った箇所もあった。

第2曲目は、レナード・バーンスタイン作曲のヴァイオリン、弦楽オーケストラ、ハープと打楽器のための<セレナーデ>。スラトキンによる、1990年の録音。ヴァイオリン独奏のグレン・ディクタローは、1980年NYPに入団。コンサート・マスターとして活躍しているそうだ。映画音楽の録音もあるそうで、解説書には『アンタッチャブル』、『アラジン』、『Interview with a Vampire』などのタイトルが挙げられている。

「プラトンの『響宴』にもとづく」という副題がつけられたこの作品は、5つの楽章から成り立っている。それぞれの楽章には、悲劇詩人アガソンの家で、愛について演説したとされる7人のギリシャ哲学者の名前が当てられている(和田則彦による別CDの解説書を参照した)。第1・第5楽章には、2人の名前が引かれている。作曲者自身は特に文学的なプログラムを考えた訳ではないとしているが、解説書に転載されたバーンスタインの楽曲解説では、作品の発想となった哲学者たちが、当作品でどのような役割をはたしているのかが、音楽用語を使って具体的に説明されている。

一方曲を聴いた限りでは、独特の親しみやすさはあるものの、どこかしら生真面目で抜け切らないところがある(冒頭のヴァイオリン・ソロの旋律にある三全音の進行--ウエストサイド物語の<<マリア>>の冒頭の進行--など、バーンスタインらしさもあるけれど)。自ら折衷主義を認め、それを称賛さえするバーンスタインだが、特に最終楽章など、根底にあるのは、ピストン風の古典主義とバイタリティーであるような気もする(もちろんバーンスタインがハーバード大学でピストンに作曲を習ったことは間違いないのだが)。

スラトキンの指揮は、ややリズムが重いものの、はっきりとした輪郭を示し、どことなく吹っ切れたような思い切りの良さがある。そのため、説得力が強い。録音も10枚組CDの中では最も良いものの一つであると言えるだろう。なお解説書には、スラトキンと独奏者ディクタローのインタビューが収録されている。

ガンサー・シュラーの<劇的序曲>がこれに続く。再びモノラル時代に帰り、1957年、ミトロプーリス指揮。彼はシュラーの<ブラスのための交響曲>をコロンビアに録音している(解説に掲載されたシュラーのインタビューによると、そのあと<劇的序曲>が演奏されたとのこと)。

シュラー作品は「第三の流れ」の文脈で捉えられることが多いが、純粋な無調音楽もあり、当作品はその例の一つである(シュラーがMETでホルン奏者をしていた頃に書いた12音音楽)。全体としては、レチタティーボ的な旋律の動きと不協和音が、強弱の変化の中で対比される中で曲が進む。オーケストラや劇的な効果など、技巧的な腕はあるように思われるシュラーだが、発想の面白さや展開方法などにアピールする部分がもう少しほしいところ。しかしミトロプーリスは作品の流れをうまく表現することに成功しており、12音という作曲法の裏に流れる直線的なドラマが明確に表現されている。

3曲目は、バーンスタイン指揮によるピーター・メニンのオーケストラのための協奏曲<白鯨>。1963年の録音。おそらくバーンスタインのメニン録音は、これが初めての発売ではないだろうか(読者の情報求む。ミトロプーリスは、第3交響曲をコロンビアに録音している)。反復する音型を多用し、大胆に音がうごめくメニンの作品だが、ぐいぐいと押してくるバーンスタインの積極的なドラマ作りも、聴き手を圧倒する(コリン・ウィルソンは、何度も聴くうちに、この作品の説得力は表面的なものだと感じだようだが)。

このCDの最後を飾るのは、コープランドの<オーケストラのための変奏曲>。バーンスタイン指揮、1958年の録音。ルイヴィル管弦楽団委嘱による1957年の作品で、当録音は、そのニューヨーク初演の模様。作品自体は、初期の大作<ピアノのための変奏曲>のオーケストラ版である。しかし作曲者自身の説明(解説書)によると、この版では、オーケストラにピアノのような音を出させるのではなく、むしろオケの持つ音色の可能性を使い、作品を一新しようとしたのだという。

跳躍の多い旋律はさすがにコープランドだが、オーケストレーション自体は、1930年代以降の作品に見られるようなすっきりとしたものとは違い、重厚である。また、オリジナルの<ピアノのための変奏曲>は、基本的に無調なので、彼の有名なバレエ音楽とは随分違う響きになっている。ややオケの音色を無理に多用しようとしていう感じもするが(金管や打楽器が前面に出すぎる印象もあるし)、コープランドが管弦楽法にいかに通じているかというのは容易に把握できる。

バーンスタインは、積極的にオケを鳴らし、聴き手を圧倒する。終始一貫して緊張感を保ち、疑問を差し挟むことさえ許さないかのようだ。木管の音色(ピッチ?)など、若干気になるところもあるが、きっちりと統率されたオーケストラは、一団となって迫ってくる。聴き応えのある秀演である。(99.12.14.)



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