An American Celebration 第1巻、 CD5
New York Philharmonic Special Edition NYP 9902/9903

CDの5枚目は、コープランドの<アパラチアの春>オーケストラ版の初演。アーサー・ロジンスキー指揮1945年の録音。もともとは<マーサ・グラームのためのバレエ>という漠然としたタイトルで書かれ、特にアパラチア山脈を考えていなかったという作品(タイトルはグラームが付けた)。シェーカー教徒の賛美歌など、特にこの地方に関連がある訳でもない音楽が引用されているのにも、そういう事情があるのだろう。

筆者個人は、コープランド自演によるオリジナル編成盤が好きなので、オケ版はやや重苦しいとも思うのだが、ささやかで素朴な魅力は残っているとは思う。最近はオリジナル版も流行になりつつあるが、それでも実際に録音されているのはオケ版の方であろう。

演奏は、ぎこちなく、おっかなびっくりで、リズムも危なっかしく、オケが分裂しそうなところがある。しかし、それによって、初演の難しさを改めて感じることになった。もちろん、そういった技術的な問題をのぞけば、とりあえず作品の雰囲気は伝わってくる。記録としての価値といったところだろうか。

2曲目は、モントゥー指揮による、クレストンの第2交響曲(2楽章形式。1956年録音)。この隠れた名曲がNYPによる演奏で復刻されたのは、大変喜ばしい。実際、解説書によると、この録音が、最も復刻に手間がかかったものだったらしい。一番状態の良い録音というのが、FM放送のエアチェックだったそうで、当時のテープレコーダーの最も遅いスピードで録音されていたという(3 3/4 IPS)。そのためドロップアウトや音のバランス補正にかなり時間をかけたそうだ(第2楽章では、それでも一部聴き苦しいところがある)。

モントゥーは、しっとりとした感じに曲想を練り上げる。ミッチェル盤やヤルヴィ盤に比べると、もっと大胆なドラマが展開できなかっただろうか、と悔やまれるところもあるが、旋律の美しさや流麗な音楽の浮き沈みは感じ取ることができる。第2楽章はNYPという、機能性の安定したオケの魅力が分かる演奏だ。かっちりとしたリズムで着実に構築されていく鮮やかで品の良いクライマックスは、他の演奏にはない魅力だろう。

次はカウエルによる、弦楽合奏のための<賛美歌とフューギング・テューン第2番>。ポール・パレー指揮による1956年の録音。カウエルの中では穏和な作風。フューギング・テューンとは、フーガのような巧妙な技法とは無縁で、一つの旋律がカノン風に小気味良く渡っていく素朴な音楽展開法。普通はもとの賛美歌が最後に帰ってくる。ビリングスを中心とした18世紀ニューイングランドの賛美歌作家が好んで使ったものである。このCDに収められているのも、第一巻を通して、ほっと一息のつける、数少ない作品の一つである。

最後はウィリアム・シューマンの第6交響曲で、指揮はバーンスタイン(1958年録音)。シューマンの5番以降の交響曲は、フレージングが次第に曖昧になり、無調の度合も高くなる。また、どこか殺伐とした響きも聞こえてくる。決して耳に馴染みやすい作品ではないだろうが、バーンスタインは、後半の盛り上がりへとうまく音楽をつないでいく。第1巻のなかでは、最も「現代的」な作品と言えるだろう。(99.11.14.)



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