An American Celebration 第1巻、 CD3
New York Philharmonic Special Edition NYP 9902/9903

CD3枚目は、ハンソン自演の第2交響曲<ロマンティック>で始まる(1946年録音)。後のイーストマン=ロチェスター管弦楽団との録音に比べると、やや色彩感に乏しいが、勢いやスピードはあるし、響きに厚みがある。もちろん、マーキュリー盤の方が、細かい所までリハーサルされているということはあるだろう。解説には、ハンソンが初演時にプログラム・ノートとして書いた無調音楽へのプロテストと、その考え方が、後にどう変わったかについて、書かれている。1920年当時、ハンソンは(現在でもしばしば言われることだが)無調音楽を「知的」なものとし、本当の音楽は「感情の主張」でなければならないと発言。物議を醸し出す。1946年のニューヨークでの自作演奏に際しては、世の中には二つのタイプの音楽があり、その一つは「暖かい血の音楽であり、もう一つは冷たい血の音楽である」と説明。さらに、その間には、この二つがあらゆる方法で混在している音楽があるとしている。続けてハンソンは、「この<ロマンティッック交響曲>は、間違いなく暖かい血の音楽だ。他にどんなことが言われようと、この曲は私の作品中、大衆の間で最も広く受け入れられているものだということが、確実に証明されてきた」と自負を新たにする。また、解説書には、ハンソンがボストンでの初演に際して書いた楽曲解説が掲載されている。これは、マーキュリー盤のCD解説に一部転載されているものであろう。

次に収録されている、ヴァージル・トムソンの<3幕による4人の聖人>(第3幕と第4幕のみの収録。1960年録音)は、ガートルード・スタインとトムソンが気さくに考案したオペラのようだ。聖人を題材に選んだのはトムソンで、場所をスペインに選んだのはスタイン。そしてスタインは聖人の二人をスペインの聖人とし、アヴィラのテレサとイグナシウス・ロヨラを登場させることにした。この二人、歴史上は全く面識がないということなのだが、それは、スタイン、トムソン両者とも関知しなかったとのこと。なお、このオペラは総黒人キャストが指定されているが、その理由は、トムソンが純音楽的に、黒人の方がうまく曲の調子(特にリズム)をつかんでくれると判断したことによっている。

オペラは30人の聖人のコーラスで始まるが、主な聖人は4人であるという。「3幕の」とタイトルにあるが、なぜか話の勢いで第4幕もつくことになる。しかしこの第4幕は後奏曲のように付属しているだけで、あっけなく終わってしまう。リブレットは翻訳するのが不可能。明確な意味のある対話はほとんどなく、言葉の節々や音楽から漠然とした意味が抽出されてくるといった趣き。合唱の役割も故意に分からなくされているようで、ダダ的、あるいは皮相的な作品を狙っているように思われる(音楽的には、保守的な響きなのだが)。明確な筋書のない詩的なオペラだ。

バーンスタインの指揮は、ナイーヴでまとまりに欠けるトムソンの音楽を楽しくまとめている。独唱歌手陣については、やや生真面目な感じもするが、それが、逆に作品のシニカルな性格をうまく出しているのかもしれない。合唱はもう少しテキストをはっきり発音し、音楽的にも主張してほしい。演奏時間は13分54秒。

グイド・カンテッリ指揮による、コープランドの<エル・サロン・メヒコ>が続く(1955年録音)。前半は若干リズムが重く、ぎこちないところもあるが、後半調子が上がってきて、楽しくなってくる。しかし、バーンスタインのように勢い付いて走りすぎることはない。多少傷はあるが、かっちりとした音楽になっている。

次はマズア指揮による、ラッグルズの<太陽を踏む者>(1994年録音)。全篇不況和音を中心に書かれた作品だが、よく音を選んで構成してあるし、ダイナミクスの操り方、テクスチュアの扱い方など、確かな耳を持ち、自己の表現方法を確立させている作曲家だと思った。

マズアの棒さばきは、ある方向性を感じさせるが、それをもっと確固としたものとし、彫りの深い表現ができたら、理想的だと思う。また「美しい不協和音」について、もうすこしじっくり取り組んでオケを鳴らせたら、この作品の面白さも、ぐっと増すだろう。

最後はメータ指揮による、コープランドの<大草原の日記>(1985年録音)。CBSによって委嘱された作品で、もともと作曲者は<ラジオのための音楽>と漠然としたタイトルを付け、ラジオ局もとりあえず<ラジオ・セレナーデ>などという名前で紹介したりもした。そして、コープランドによって、ラジオを聴いた人から題名を募集という風変わりな企画が発案され、採用された人には楽譜プレゼントということとなった。結局ミシガンに住む女性による<大草原の物語>が採用されたが、後にフル・スコアが出版される段になり、評論家フィリップ・ラメイがタイトルが「田舎臭い」などと言ったため、<大草原の日記>というタイトルに落ち着いた(なお、タイトル・コンテスト受賞者は、結局どこにいるのかが分からなくなってしまったそうで、オリジナルの楽譜もついに失われてしまったようだ。)。

しかし、NYPもメータの棒にかかると、大ざっぱに響く。細かいコントロールがされていないという印象を受けるのだ。リズムがタイトなコープランド作品ゆえ、音符はきっちり揃えようとしているが、オーケストラ団員が自由に演奏しているようなところもあり、メータ自身の主張を感じない演奏だとおもった。(99.10.30.)



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