An American Celebration 第1巻、 CD1と2
New York Philharmonic Special Edition NYP 9902/9903

CD十枚による、NYPのアメリカ音楽コレクション。布製の星条旗を印刷したシックな2つの紙の化粧箱は魅力的だが、おのおのの箱の中に入っているCDは、単純に作曲家の写真を印刷した紙製のジャケットに入っている。プラスチックケースに慣れた私には、これはちょっと抵抗のあるジャケットだ。

このコレクションでは、放送用音源や、エアチェックなどが使われているが、第一巻は、第二巻よりも古い録音や古い作品がより多く含まれている。しかし、一般に入手しやすいコープランドが多いのは、珍曲を中心にあつめるマニアにとっては、物足りないかもしれない。

CD1は、あまりスピリットの高揚のない、マズア指揮のコープランド<市民のためのファンファーレ>に始まる(97年録音)。その後は、バーンスタインの古い録音(58年)が二つ続く。それらは、CBSテレビの「ヤング・ピープルズ・コンサート」でも使われたチャドウィックの<メルポメネ序曲>とマクダウェルの<インディアン組曲>。どちらも純ドイツ風の音楽をきちんと書く作曲家たちである。

<メルポメネ>におけるバーンスタインの演奏についていえば、オーケストラの鳴りはいいが、ややアンサンブルが雑という印象をもった(特に木管)。また、録音のせいかもしれないが、叙事詩的な音楽を演奏するにはいま一つ精彩に欠けるし、微妙な和音の変化にたいしても、もう少しデリケートに対応して欲しいとも思った。しかし、メリハリがはっきりしていてダイナミックなので、聴き手にとっては分かりやすいといえるだろう。

<インディアン組曲>は、五楽章の組曲から三つの楽章のみを収録。解説には、マクダウェルが、ドヴォルザークの<新世界交響曲>に先立って自国の素材に着目していたことが明記されている。

バーンスタインの演奏の特徴は、スコアの指示を大きく上回る大胆なテンポ設定かもしれない。第1楽章「伝説」中間のスローテンポな部分の周辺にはpoco ritとa tempoとしか書かれていない。ディクソン盤(Desto盤LP)では、これを文字どおりに受け取り、主題提示開始の部分からのスピードで一貫して通している。荒々しいのだが、それ特有の味もあった。ハンソン(Mercury LP)やその他の指揮者(VoxBoxのランダウ盤など)は、叙情的な旋律の性格に合わせて、いくぶんテンポを落としていたと記憶しているが、バーンスタインのはもっと極端である。そのためか、この楽章の最後が必要以上にくどく聞こえる。第4楽章「哀歌」は、四分音符80だが、バーンスタインのはもうラルゴの雰囲気。たっぷりと聴かせながら、音楽が何とか途切れないというのは、至難の技だが、これは「バーンスタイン節」の典型でもあろう。第5楽章「村の祭り」では、冒頭のテンポを遅めに設定し、楽譜にあるアッチェルランドをより極端にした形となっている。ディクソン盤、ハンソン盤に比べれば、冒頭は遅すぎるように聞こえるかもしれない。

全体としては、金管を派手に鳴らせて「アメリカらしさ」を出そうとしたのかもしれないが、それが効果的だったのかどうかについては、疑問が残った。

また、解説書によると、これらの録音は「アメリカの声」というラジオ番組からとられ、CBSネットワークの信号を直接記録したため、当時のFMエアチェックよりはずっとダイナミックレンジが広く、充実しているとコメントしてある。しかし、私の印象では、中音域ばかりがうるさくて、バランスに欠けていると思った。高音部がカットされているような印象さえ持った。

当CD三作品目は、グリフィスの<白孔雀>。ハンソン指揮1946年録音。グリフィスは様々な作風に手を染めた作曲家だが、「アメリカの印象派」として捉えられることが多い。ハンソンは、グリフィスや、同傾向のレフラーなども、後にマーキュリーに入れているが、この辺りは得意なのだろう。NYPも、色彩パレットが一気に豊かになったようで、アンサンブルもより精緻に響く。また、録音もバーンスタインのよりずっと聴きやすい。

次のエルネスト・シェリングの<勝利の舞踏会>は、アルフレッド・ノイエスの詩に基づく作品。おそらく終戦を祝ってロジンスキーが振ったのだろうが(1945年10月)、作品自体は、1922年に作られている。「米軍兵の霊に捧げる」と題されたこの作品は、その愛国主義的さとは裏腹にあっけらかんとした楽観的な作品。特に前半など、カスタネット、タンゴのリズムなど、国籍不明の音楽も流れる(おそらく当時流行っていたということなのだろう)。しまいにはコミカルに戦争の雰囲気がただよってきて「Dies Irae」も飛び出す。その場面が一段落すると、今度はワルツが始まる。音楽がだんだん盛り上がるのだが、それが突然冷めたところで、唐突に戦没者をとむらう「Taps」の響きが。そして弦楽器が短くピチカートで登場し、曲を閉じる。

ロジンスキー(45年録音)は、いかにもこの曲を前から知っていたかのようにオーケストラを導く。きちんと整理されたオーケストラが一丸となって音楽を作っているので、ショーマンシップ一杯のこの作品がとても楽しく聴けた。

このCD最後は、マズア指揮によるアイヴズの<ニューイングランドの三つの場所>(94年録音)。「ボストン・コモン」では、アイヴズ独特の、重ね合わせによる音の陰影がやや不明瞭になることがあった。もちろんあまりくっきりしてしまうのも面白くないのだが、曲を引っぱるメインの楽器群以外をどう扱うのかに、苦労しているように感じられた。「パットナム・キャンプ」は、やや音色が暗いが、引用した歌の数々が堂々と聞こえてくるのは楽しい(チューバが大胆!)。対位法的に絡む旋律は、やはり扱いやすいのだろう。「ストックブリッジのホーザトニック川」は、幻想的で美しい旋律もあるが、一端のドラマもある。マズアの音楽は、若干やぼったい所もあるが、終末に向けて、うまく盛りたてていったあたりは評価できるだろう。

CDも2枚目になると、突然録音が良くなる。まずは85年ラインスドルフ指揮のコープランド<劇場のための音楽>。これは軽いフットワークで爽やかだ。当作品はジャズの影響があるといわれているが、じつは幅広い音楽語法が入り乱れているので、それに対応しながら作品を面白く聴かせるのは、それほど容易ではない。しかしラインスドルフは、一貫した流れをうまく紡ぎ出すことに成功しているようだ。

次はバーンスタイン指揮(66年)によるヴァレーズの<アンテグラル>だが、彼がこの手の「現代もの」をやると、なぜか安っぽく聞こえてしまう。やはり繊細な音色の絡み方や音の空間支配などよりも、大胆な身振りでひとつかみに表現することを重点に置いているからなのだろうか。なお、この録音はエアチェックによるもの。オリジナルはNYPのアーカイヴにも残っていないそうだ。

レフラーはアルザス地方生まれで、ヨーロッパで音楽教育を受けている。だからアメリカの作曲家とするには抵抗のある人もいるかもしれない。事実ここに収録された<<私の子供時代の記憶:ロシアの村での生活>もレフラーが幼い頃を過ごしたウクライナを回想したもので、ロシアの農民の歌なども使われているそうだ。オーケストラの鮮やかな作品だが、これをバルビローリが振っていたということなど、誰が知っていただろうか。1936年と、全CDの中で、一番古い録音だが、明瞭で聴きやすい。

ブロッホの<コンチェルト・グロッソ>第1番(48年録音)は、豊かなリリシズムほとばしる作品。ミュンシュは美しい弧を描くかのように、しなやかな音楽作りをする。そこには強い押しのようなものはあまりないが、流れにじっくり沿いながらドラマを積み上げていくしたたかさが感じ取れた。

ラストはロジンスキー指揮で、ガーシュインの<パリのアメリカ人>。マディソン・スクエア・ガーデンにおける1944年の録音。これは全編を通して、テンションの高い演奏。少々キズもあるが(野外録音なので、バランスも良くないし、ロジンスキーの歌や叫び声も入っている!)、タイトにリードされたオーケストラが崩れながらもアグレッシブに訴えてくるその音楽作りは感動的である。



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