アメリカのクラシックに関する日本語文献(2004.8.2.)


概説

奥田恵二『アメリカの音楽--植民時代から現代まで』 音楽之友社、1970年

奥田本 表紙画像
日本語によるアメリカ音楽史として、もっとも信頼でき、かつ読み応えの あるもの。ただしアメリカ先住民や黒人音楽の歴史については、他の本に頼らなければならない。また1970年出版ということで、それ以前の時代までの記述 しかない。それでも現在絶版なのがとても惜しまれる。もう少し本がきれいなうちに表紙をデジタル化すべきだった。


服部龍太郎『音楽するアメリカ』 東京楽譜出版社、1947年

服部本 画像
第二次世界大戦中禁じられていたアメリカのクラシック音楽が戦後になっ て紹介され始めたのだが、おそらくこれが最初の単行本だろう。アメリカ音楽の歴史を 追ったものではなく、アメリカの国家や民謡(北米土人--現代ではこれは「アメリカ先住民」を指す差別用語になってしまうが--の音楽を含む)や「近代及 び現代のアメリカ作曲家」を簡単に紹介したものである。アメリカ作曲家の章は、ペインやチャドウィックといった「新ニューイングランド楽派」に始まり、ハ リスやコープランドで締めくくられる。絶版。


三浦淳史『現代アメリカ音楽』 新興音楽出版社、1948年

三浦本 画像

さすがに記述が古いが、三浦氏の考えていた時代の「現代アメリカ」の音楽が紹介されている。

「先駆的作曲家」と題された章は、いわゆる新ニューイングランド派を中心とした19世紀末から20世紀初頭の作曲家たち、「現代の保守 派」と題され た章ではハンソン、バーバー、カーペンター、ムーア、トンプソンなど、「新作曲家」の章ではアイヴス、カウエル、アンセール(アンタイルのこと)など実験 的作曲家に紛れてトムソンヤハリス、シューマンらが紹介されている。次の「中間派」の章にはソワービイ(ソワビー)、ベレゾウスキー、クレストンなど分類 しにくい作曲家について述べられている。

そのほか「純音楽における通俗楽派」では、ジャズの影響の見られるガーシュインやグロッフェ(グローフェ)、モートン・グールドやラッ セ ル・ベネットについて触れられている。また、「アメリカ在住の作曲家」として、ストラヴィンスキーやシェーンベルヒ(!)、クシェネック、トッホ、コルン ゴールド、ヴァイル、ブロッホ、メノッティ(?!)などについても記述がある。

手っ取り早くアメリカ近代(?)音楽の概観をつかみたい人にはお勧めしておこう。残念ながら絶版。


フーゴー・ライヒテントリット著、斎藤博之訳『アメリカ音楽の展望』 創元社、1949年

セルゲイ・クーゼヴィツキーがボストン交響楽団の音楽監督であった頃の音楽史(原書は『セルゲイ・クーゼヴィツキー』というタイトルである)。 ジャーナリ スティックな側面と、音楽的側面が混ざりあっている。アメリカ音楽を積極的に紹介したクーゼヴィツキーの功績と、彼の指揮した時代のアメリカのオーケスト ラ音楽を知るには、貴重な文献の一つ。絶版なのがとても惜しまれる。

コリン・ウィルソン著、河野徹訳『コリン・ウィルソン音楽を語る』 冨山房、1970年

歴史の本ではないが、アメリカの近代音楽に関する鋭い視点が光る一章がある。

『クラシック音楽の20世紀1:作曲の20世紀I』、音楽之友社、1992年

アメリカの作曲家では、アイヴス、ヴァレーズ、カウエル、アンタイル、ガーシュイン、パーチのエッセイがある。

『クラシック音楽の20世紀2:作曲の20世紀II』、音楽之友社、1993年

アメリカの作曲家では、ナンカロウ、モンク、メノッティ、バーンスタイン、アシュリー、ホヴァネス、ウルフ(ヴォルフ)、ケージ、フェルドマン、ヤ ング、 ジェフスキー、ライヒ、ライリー、ハリソン、グラス、クラム、シュラー、オリヴェロス、テニー、アダムスが解説されている。


ジャンル別

実験音楽

マイケル ナイマン (著)、椎名 亮輔 (翻訳)『実験音楽―ケージとその後』水声社

偶然性、不確定性、集団即興、ハプニング、マルチメディア/ミクストメディア、ミニマルなど。セリエリズムと違う路線の「現代音楽」の世界を、内側から描 いていくようなタッチで記述。基本文献の一つ。原書の方はディスコグラフィーと文献表がアップデートされている。

エドワード・ストリックランド著、柿沼敏江・米田栄訳 『アメリカン・ニュー・ミュージック:実験音楽、ミニマル・ミュージックからジャズ・ アヴァンギャルドまで』、東京:勁草書房、1988年

幅広い作曲家・ミュージシャンへのインタビューを集めたもの。

藤枝 守 響きの生態系:ディープ・リスニングのために フィルムアート社、2000年

アシュリー、パーチ、ナンカロウ、ブランカ、ハリソン、オリヴェロス、レンツ、グラス、フェルドマン、テニー、カラン、ガーランド、ルシエについてのエッセイが載っている。

リチャード・バンガー著、近藤譲、ホアキン・M・ベニテス共訳、『ウェル・プリペアド・ピアノ』 東京:全音楽譜出版社 1978年

実際にプリペアド・ピアノを使って音楽作品を演奏してみようとする人のために役立つノウハウ本。ピアノの弦の間に挟むものがどこで入手できるか、プ リペア ド・ピアノを使った作品にはどのようなものがあるのか、リストアップしてある。ただし出版されたのがかなり前であることに注意すべきだろう。 入手困難か。

ロジャー・レイノルズ著、三浦淳史訳「不確定性:試論」(上・下) 『音楽芸術』第25巻11号(1967年11月)、26〜29ページ、第 25巻12号(1967年12月)、30〜35ページ。

秋山邦晴他、「偶然性の音楽をめぐって(座談会)」『音楽芸術』第20巻第1号

参加者は司会の秋山邦晴と、芥川也寸志、一柳慧、高橋悠治、黛敏郎の四氏。ケージによる偶然性の音楽がホットだった日本での、著名作曲家によるバトルロイ ヤル。「芸術の破壊」や「否定」など時代を感じさせる言葉も出てくるが、それはまた、今改めて読むと面白い。

一柳氏は、生活即音楽というケージの考え方に共感し、あらゆる可能性に向けて「開放」されているように見える偶然性の音楽に思いを寄せる。しかし、 生活におけるあらゆる事象をすべて呈示することはできない。アイディアを楽譜に固定して演奏会で呈示するという過程をとることによって、実は伝統的作曲法 にみられる「限定」の行為を行っているからだ。さらに、作曲家として活動するには、現代において社会的に規定されている「作曲家」の文脈から抜け出すこと はどうしてもできないということを他の論者から指摘される。だからケージの生き方に共感し、それをそのまま実行することにどんな意味があるのかを考えなけ ればならないという問題提起がなされる。

また、ヨーロッパでは、チャンス・オペレーションが作曲の技法として受容されているが、ケージがなぜそういう作曲法に至ったのか、その文化的背景は 何なのかを考えずに偶然性を捉えるのは危険ではないか、という意見も出される。

一柳慧著「偶然の音楽」『芸術新潮』12/10

白南準著「セリー・偶然・空間など」『音芸』17/13

ビデオ・アートのアーチストとして名を挙げた、ナム・ジュン・パイクの、日本語による文章。

三浦淳史著「ジョン・ケージとルーカス・フォス」『机』7/1

秋山邦晴著「日本の作曲界の状況--ジョン・ケージの波紋以後」『音芸』24/12(1966.12):6〜13

一柳慧著「不確定性の音楽--技法の定着と発展」『音芸』24/11(1966.11):17〜19ページ

ミニマル・ミュージック

ウィム・メルテン著、細川周平訳『アメリカン・ミニマル・ミュージック』 冬樹社

若干古くなってしまったが、それでもミニマル音楽の基本的文献としての価値は充分ある。残念ながら、冬樹社は倒産してしまったらしい。従って絶版。 英語訳 はタワーレコード渋谷店にあるのを発見した(1998年夏)。

小沼純一著、『ミニマル・ミュージック:その展開と思考』 青土社

その他

西野茂雄著「ロイ・ハリス、ウィリアム・シューマン、ヴァージル・トムソン」『音楽芸術』第11巻第10号(1953年10月号)93-96 ページ。

アメリカ第2次大戦前後の音楽を扱った数少ない文章。


アメリカの作曲家

アイヴズ
J. ピーター・バークホルダー著、木邨和彦訳『チャールズ・アイブズ――音楽にひそむアメリカ思想』 旺史社、1993年

アイヴズは「超越主義の作曲家」と捉えられてきたが、その思想が現われた『ソナタの前置きとしての随想』は、アイヴズの経歴からすれば全く晩年に当たり、 それだけで彼の作品全体を捉えるのは誤解を招きやすいという。そこでバークホルダーは、アイヴズが家族、特に父などから受けた個人的な音楽観を考察した り、家族が実践していた思想をアイヴズ家の書籍コレクションから類推したり、イエール大学で学んだことは何だったのか、資料を丹念に追いながらアイヴズの 美学・音楽思想に迫る。訳が読みづらいかもしれない。「習作第20番」は「研究第20番」と訳されたり「aesthetic」は「審美的」と訳されている ようだ。個人的には、いきなりこの本を読むより、まずは『ニューグローヴ』などで基本的な情報を押さえる方がアイヴズ導入としては良いのではないかと思 う。

入野義郎著「チャールズ・アイヴズ」『音楽芸術』第27巻第3号(1969年3月)、64〜67ページ

松岡靖子著「チャールズ・アイヴズ研究試論──室内楽曲の分析を通して──」修士論文、東京藝術大学

アンタイル
井口寿乃著「バレエ・メカニック―レジェの映像製作とその表現」 『映像学』49(1993)、86-100ページ

村田宏著「フェルナン・レジェと映画『バレエ・メカニック』上 」  『美術史研究』30(1992)、1-29ページ

カウエル
塩田洋子「Henry Cowellの『New Musical Resources』に見る前衛の先駆--音価とテンポの半音階、およびトーン・クラスターの思考」『桐朋学園大学 研究紀要 第12集』(1986 年)、1〜24ページ

第1章は、カウエルの考案していた、特殊なリズムの発想法、特に音程比と音価、音程比と拍子、音程比とテンポを結び付ける試みを紹介。第2章は、カ ウエル が発明した用語、トーン・クラスターについて。全体的には、カウエルが発展させた2つの音楽理論を紹介したものであり、筆者はそれを、いわゆる60年代の ヨーロッパ前衛音楽と比較してまとめようとしている。筆者自身による批判的考察が欲しいところだが、カウエルのユニークな音楽理論を日本語で理解するに は、参考となるだろう。

松岡靖子「ヘンリー・カウエルの音楽様式──初期ピアノ作品を中心に──」卒業論文、東京藝術大学

ガーシュイン
イーアン・ウッド著、別宮貞雄訳、『ガーシュイン:我、君を歌う』、ヤマハミュージックメディア、1998

ハンスペーター・クルンマン著、渋谷和邦訳、『ガーシュイン』 音楽之友社、1993(大作曲家シリーズ)

ポール・クレシュ著、鈴木晶訳 『アメリカン・ラプソディ:ガーシュインの生涯』 東京:晶文社、1989

『ユリイカ』第13巻第15号(1981年12月) 特集ガーシュイン 青土社

カーペンター
佐藤善夫「カーペンターの『摩天楼』について」 『レコード音楽』20/4 41-43

グローフェ
佐藤善夫「フェルデ(ママ)・グローフェ:『大峡谷』組曲の作曲者」『フィルハーモニー』21(8)12〜14。

グールド、モートン
満津岡信育「シンフォニストとしてのM・グールドに注目!」『レコード芸術』53/6 (2004年6月) 、301〜302。

ケージ
ジョン・ ケージ著、柿沼敏江訳、『サイレンス』 水声社、1996年

ジョン・ ケージの数ある著作の中でもっとも引用されることが多い。基本資料である。

末延芳晴『回想のジョン・ケージ』 音楽之友社、1996年

ジョン・ ケージ著、青山マミ訳、『ジョン・ケージ:小鳥たちのために』 青土社、1993年

『Music Today』第18号「ジョン・ケージ1912-1992」

ポール・フィリフィス著、堀内宏公訳 『ジョン・ケージの音楽』 青土社、2003年

黛敏郎著「ジョン・ケージ讃-2-」『音楽芸術』17/1

柴田南雄他「ジョン・ケージ ショック」『音楽芸術』27/12(1969.11)

中田喜直「ぺてん師ケージ(反感的作曲家論-1-)」『音楽芸術』31/2(73.2.):86〜88

秋山邦晴「ジョン・ケージと…行為の哲学(現代芸術・源泉と展開-12-)」『美術手帖』335(1970.12.):210〜232

これには当時高橋アキさんによる《マルセル・デュシャンのための音楽》のソノシートが付いていたそうです。 また、秋山さんは『現代音楽をどう聴くか』にも、結構長いケージ論を書いていらっしゃったような気がします。

柴田南雄「1950年以降の音楽--ケージ(音楽の骸骨のはなし-14-)」『音芸』30/5(1972.5.):50〜53

これは後に単行本になったので、そこに入っているでしょうね。

吉田秀和「ジョン・ケージの矛盾について(現代音楽についての十章-2-)」『芸術新潮』23/4(1972.4):162〜165

これも全集にはいっているかな?

秋山邦晴「異端の作曲家-12-:ジョン・ケージ--自由と解放への実践者」『音芸』27/6(1969.6.):56〜61

コープランド
西山広一「アーロン・コープランド」『音楽芸術』第11巻第10号

松本太郎「アーロン・ コープランドの横顔」『音楽芸術』第5巻第3号(1953年11月)93-94ページ

トムソン
ヴァージル・トムソン著、三浦淳史訳、「様式の哲学:ヴァージル・トムソン『音楽芸術』第19巻第6号(1964年6月号)11-13

1961年4月21日東西両洋音楽交流会議における講演

アーネスト・サトウ、「ヴァージル・トムソン論」『音楽芸術』第38巻第8号(1983年8月)55-59

パーチ
秋山邦晴「ハリー・パーチ:または音の錬金術師」『音楽芸術』32/12 (1974.12): 26-30.

パーチの追悼記事。きちんとまとまった文章なら、パーチの楽器分析で博士論文を書いた柿沼さんの紹介文(『作曲の20世紀I』)を読んだ方がいいと いう印 象もあるが、この記事を読むと、70年代の時点の日本におけるパーチ受容の状況がつかめる。パーチの楽器について知りたい人、具体的な作品のいくつかにつ いて(日本語で)知りたいという人は、とりあえずこの記事も読んでみるとよいだろう。

ハリス
松本太郎「ロイ・ハリス--最も注目すべき現代米国作曲家」『音楽芸術』第4巻第2号(1946年2月)、7-11ページ

ハリスを知る日本語の雑誌記事として貴重。

西野茂雄「ロイ・ハリス」『音楽芸術』第11巻第10号(1953年10月)93-94ページ

バーンスタイン
小岩恭子「バーンスタインの交響曲研究」学部卒業論文、東京藝術大学

フロイド
高村博正「オペラ『はつかねずみと人間』の一考察」『スタインベック・作家作品論――ハヤシ・テツマロ博士退職記念論集』英宝社、1995、 171〜188頁参考リンク

ライヒ
スティーブ・ライヒ著、松下晶訳「作曲ノート1965-1973」『季刊トランソニック』8(冬)号(1975年12月25日)、72〜89ペー ジ

スティーヴ・ライヒ著、只野晃訳「ガフ ガーナのエウェ族のダンス」『季刊トランソニック』9(春)号(1975年3月25日)、38〜 44ページ

スティーヴ・ライヒ著、只野晃訳「バリとアフリカの音楽の短期間の学習をふりかえって」『季刊トランソニック』9(春)号(1975年3月 25日)、44〜46ページ

スティーヴ・ライヒ著、近藤譲訳「緩やかに移りゆくプロセスとしての音楽」『エピステーメー』第4巻第10号(1978年11月):36〜 39ページ

スティーヴ・ライヒ「ミニマリズムの展開」(マイケル・ナイマンによるインタビュー)(笠羽映子訳)、『現代思想』第19巻第5号(1985 年5月)、72〜80ページ

スティーヴ・ライヒ(ジルヴェール・ロトランジェ、ビル・ヘラーマンによるインタビュー、明石政紀訳)「繰り返しは構造ではない:スティー ヴ・ライヒ」『Ur』第2号(1990年4月5日)、52〜64ページ

小田香「スティーヴ・ライヒによるミニマル・ミュージック −その方法と歴史的位置−」『桐朋学園大学短期大学部紀要 第5号 (1986年)、97〜112ページ(112ページから本文開始)



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