音の日記


バグ・ノイズ??(1997.6.25.)


先日、学部生の授業「世界の音楽文化」を聴講させてもらいました。日本流に言うと、いわゆる「民族音楽」を扱う授業です。その最終週は、日本の音楽を扱うことになり、アメリカ人のお箏の演奏家が教室に来て特別のデモンストレーションをしました。お箏(アメリカではなぜか「お箏」の「お」がとれて「コートー」と呼ばれている。カラオキー(カラオケのこと)のように英語として定着してしまっているのだろう)の簡単な説明が終わった後、実際に曲を演奏することになりました。曲のタイトルは<ひぐらし>。なるほど、夏にぴったり。さっそく曲の簡単な説明が始りました。「この曲はシケーダー(セミ)というバグがノイズを作るのを模倣した作品、略してバグ・ノイズですね。」

「え?」 私は首をかしげてしまった。コンピュータをやっていらっしゃる方ならバグ(プログラミングにおける小さな計算間違い?)から連想されるように、バグという英語には、手許の小さな辞書だと、純粋に虫、昆虫といった定義の他に、ナンキンムシ、ばい菌、みたいな意味もあります。しかもそういった虫がノイズをたてる。う〜ん、それはいくらなんでも「ひぐらし」がかわいそう、なんて思ってしまった訳です。いそいで私は「バグ・ノイズというと、いやな感じがするけれど、我々日本人はシケーダの「声」といって、それらを美しいものとして聞いている」と発言しました。そうすると、日本音楽を教えている大学の先生が横にいて(彼もアメリカ人です)、「日本人は、脳内で雑音と音を同じように処理する世界でも数少ない民族だ」と付け加えました。お箏を弾いてくれたアメリカ人は、どうやらそこまで分かってなかったような気がしました。もしかして、演奏会ではいつも「バグ・ノイズ」って言っているのかなぁ、なんて不安にもなりました。

私は念のため、もう一言。「でも僕らだって、ゴキブリや蚊が好きな訳じゃありませんよ」。クラスは大爆笑になりましたが、少なくとも日本人の音に対する違いは分かってもらいたいと思いました。アメリカ人が、どのように「バグ」を解釈しているのかは分かりませんが、少なくとも日常生活で、バグがきれい、という文脈で使われたのを聞いたことがありません。スーパーにある「バグ・スプレー」というのは、虫除けスプレーです。ノイズにしたって「嫌な音」っていうイメージがあるます(少なくとも西洋の音世界では)。ちょっとしたことだけれど、文化の違いの大きさを感じたところです。でも最近の日本人なら、もしかしてセミも「バグ・ノイズ」にしかならないのだろうか? だったら西洋音楽がそこまで見事に日本の音文化を潰してしまったことになるのでしょうね。



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