音の日記


コンサートホールの「ベル」(11/13/96)


大学で音楽を始めたころ、コンサートのお手伝いをすることがあった。その中に、開演の5分前には1ベルを鳴らし、開演の時間には2ベルを鳴らすというものがあった。「ベル」といっても、実際になるのは電子音のブザーで、なぜ第1ブザーじゃないのだろう、と疑問に思うことがあった。というのも、私が高校生でブラスバンドをやっていた頃、やはり演奏会を開くことがあり、そのときは本当に「ベル」をならしたからだ。場所は富山市の公会堂。昭和20年代に建てられた年季の入ったもので(当時は全国的にもかなり早くたてられた公会堂だったらしい)ブザーはないのである。「リーーーーン」というその音は、慣れていない人にとっては、非常ベルかと思うかもしれないものである。しかし、あれこそ「ベル」と呼ぶにふさわしい。ところが、現在富山市にはクラシック用の新しいコンサートホールが建設されており、もうベルの音を聞く機会はなくなってしまうのかもしれない。ちょっと寂しい(ノスタルジアですね)。

東京に住んでいた時にも、よくコンサートへは行った。開演の合図にシンプルなブザーを使っているところは少ないと記憶している。厳かな鐘の音のようなチャイムが多かったと思う。そういえばサントリーホールの会場時間には、からくり人形とともにミニミニオルガンが演奏されるというのがあったと思う。微笑ましくて好きだったが、ちょっと音が大きすぎるような気がした。周囲の注意を引くには完璧だが。

開演の合図に現代音楽を使っている例を覚えている。NHKホールだった。シンセサイザーの音だったと記憶しているが、なんとも無調なのである。異様なクレッシェンドも含み、正直いって不気味だった。その不気味さが強烈に印象に残っている。

しかし東京のホールの案内はうるさい。「ベル」がなったあとも、「まもなく開演の時間です、云々」と放送が続く。場所によっては「お呼びだし」や「マナーの注意」が休憩時間中続く。「ベル」は2回もなれば、開演のお知らせとしては充分だとは思う。そうそう「写真撮影・録音はご遠慮ください」というのは、東京以外でも聞くことができる。実は私も中学生の頃、録音器材を持ち込んだことがあるので、えらそうなことは言えないが、録音したテープを聴いても感動は蘇らないということが分かってやめたことは申しあげておこう。市販されている録音器材の質なんて、とてもプロの足元にも及ぶはずもなく、幻滅するだけなのだ。写真だって、撮って見たところで、きれいに写せる訳もない。器材が見つかるのがヤバイなんて思っていると、肝心の音楽にも集中できないということになってしまう。それなら自分の記憶にしっかり残そう、と音楽を必死に聴く方が面白いと思う。

ボストンに住んでいた頃は、よくシンフォニー・ホールに通った。かのボストン交響楽団の本拠地である。さて、ここのベルはどのようなものなのだろう、と期待していたのだが、実際には何もない。音でのお知らせはなく、変わりに会場中の電灯が10数回点滅するのである。初めてこれを体験したときは、いったい何が起こったのかさっぱり分からなかったが、人がみなホールに戻っていくので、ようやく意味がのみこめた。実際ベルやアナウンスをするよりも、この方がダイレクトに分かるのかもしれない。しかしこの場合も1ベル、2ベルの概念は引き継がれていた。2回警告するというのは、なにか心理的なものがあるのだろうか?



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