Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



10
1999年10月28日アップロード



これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのクラクラクラシック」において、10月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆様こんにちは、フロリダ州立大学院の谷口です。

前回は、アメリカのクラシック音楽の中でも、最も過激な部類と思われます、実験音楽を御紹介しました。この現代アメリカ音楽講座では、心地よい響き の音楽を中心にお送りしてきましたので、前回の放送は、もしかしたらお聞きになった方にとっては、やや抵抗があったかもしれません。しかし、アメリカ音楽 の多様性を探っていくには、様々な音楽に触れる必要があると思います。しかも、こういった実験音楽はヨーロッパや日本の現代の作曲家たちに、強い影響を与 えているということも、御理解いだだけると幸いです。

さて、今回は、実験音楽からは離れまして、親しみやすいアメリカ音楽の数々をお送りしましょう。今日のテーマは、アメリカの場所に関した音楽の数々 です。

アメリカといっても大変広いのでいろんな場所があるのですが、日本ですと、なんといってもニューヨークを思い出す人が多いのではないでしょうか。今 日はまず、ノーマン・デロ=ジョイオという人の書いた、<ニューヨークのプロフィール>という作品から御紹介しましょう。

作曲者のノーマン・デロ=ジョイオという人、実はニューヨークの出身だそうで、思い入れもひとしおでこの曲を作ったと思うのですが、この<ニュー ヨークのプロフィール>は、彼の選んだニューヨークの風景集といった構成になっています。今日は4曲からなる組曲から3つの曲をお送りするのですが、一曲 目は、「前奏曲:クロイスター」という題がついています。このクロイスターというのは、フォート・トライオンという丘の上にある、修道院風の美術館の名前 でして、日本語では、「回る」に「廊下」の廊という漢字を使って、回廊と呼べると思います。そのクロイスターのあるフォート・トライオンはマンハッタンの 郊外、ハドソン川を見下ろす素晴しい風景の場所にあります。ここにはフランスを中心としたヨーロッパ中世の芸術品や建築物が集められておりまして、大都会 ニューヨークの喧騒をしばし忘れて、大変落ち着ける場所となっています。ノーマン・デロ=ジョイオという人は、このクロイスターの中世的な趣を表現するた めに、ローマ・カトリック教徒が中世から歌い継いできたグレゴリオ聖歌の一つ<イテ・ミサ・エスト>という聖歌の旋律を使い、静寂で敬虔な雰囲気を醸し出 します。第2曲目は、「寄想曲:-公園」と題されておりまして、この「公園」というのは、もちろんセントラル・パークのことを指しています。デロ=ジョイ オは公園で戯れる子供達を描くために、アメリカの子供がお互いをなじりあう時に歌うからかい歌を引用しています。第3曲目を省略しまして、第4曲目は「祭 の踊り:リトル・イタリー」となっております。イタリア街といいますと、私などはおいしいパスタと雰囲気のよいカフェーを思い出すのですが、ここでは陽気 なイタリア人たちの祭がタランテラというイタリア舞曲風のリズムに乗って表現されています。また、冒頭で使われたグレゴリオ聖歌も聞こえてきます。

それではノーマン・デロ=ジョイオ作曲の<ニューヨークのプロフィール>から、三つの楽章をアーサー・リプキン指揮オスローフィルハーモニー管弦楽 団でお聴きいただきましょう。

[ここで音源] ニューヨークのプロフィールから、「前奏曲:クロイスター」、「寄想曲:公園」、「祭の踊り:リトル・イタリー」/ノーマン・デロ=ジョイオ作曲/アー サー・リプキン指揮オスローフィルハーモニー管弦楽団/演奏時間=4分15秒、4分09秒、4分17秒/使用CD=Citadel CTD 88124

次は、ロン・ネルソンという人の書いた<ソノラ砂漠の休日>という作品です。ソノラ砂漠というのは、アメリカの南西部のアリゾナから、お隣の国メキ シコにわたる大砂漠のことなのですが、どうやらこの砂漠、ただ荒涼とした砂風景が広がっているだけでなく、数多くのサボテンもありますし、少なからず木が はえているところも、小川もあるようです。ロン・ネルソンという人の音楽は、大変色彩鮮やかで、このソノラ砂漠にも、本当にいろんな顔があるんだってこと をうまく表現していると思います。また砂漠の夜と昼といったドラマもあるようです。大変構成力に優れた作曲家といえるでしょう。

それでは早速ですが、ロン・ネルソンの ソノラ砂漠の休日、ジェリー・ジュンキン指揮のダラス・ウインド・シンフォニーの演奏でお聴きいただきましょう。

[ここで音源] ソノラ砂漠の休日/ロン・ネルソン作曲/ジェリー・ジュンキン指揮ダラス・ウインド・シンフォニー/演奏時間=9分39秒/使用CD=Reference Recordings RR-76CD

今日最後は、日本でもおなじみのファーディ・グローフェ、アメリカ人風に言えばグロッフェーの作品をお送りします。<グランド・キャニオン組曲>で すっかりお馴染みのグローフェですが、実は彼はアリゾナ州のグランド・キャニオンに限らず、いろんな場所にちなんだ作品を作っています。例えば、サンフラ ンシスコ組曲、ハワイアン組曲、ケンタッキー・ダービー組曲、ナイアガラの滝組曲、なんてのもあります。何か聴いてみたくなってしまいますね。

これからお送りしますのは、<グランド・キャニオン組曲>の次に沢山レコードに録音されている、<ミシシッピー組曲>です。このミシシッピーとはミ シシッピー州ではなく、ミシシッピー川のことを指しておりまして、上流から下流へと4つの景色が音楽によって表現されています。その4つを御紹介します と、第1曲目は「水の神」。これはミシシッピー川の上流、ちょうどオハイオ川と が合流するあたりの所をさしているのでしょうか。第2曲目は「ハックルベ リー・フィン」。これはマーク・トウェインの有名な小説にでてくる、あのハックルベリー・フィンなのですが、フィンのひょうきんなキャラクターがどのよう に音楽になっているか、お聴きください。第3曲目は、「古(いにしえ)のクレオールの日々」と題されております。クレオールというのは、いろいろな意味に 使われていて、定義をするのがちょっと難しいのですが、グローフェの使い方に従えば、「フランス系あるいはスペイン系と黒人系の血が混ざった人達」という ことになるようです。作曲者グローフェに言わせますと、この曲は、「黒人のおかあさんたちの子守歌・ゆりかご歌」なのだそうです。第4曲目は「マルディ・ グラ」。これはニュー・オーリーンズで年に一度行われるクレオールの宗教であります、カトリックの祭です。賑やかに仮装パレードが繰り広げられ、大騒ぎと なるのです。壮大な川の物語を力強く締めくくるにふさわしい音楽といえるでしょう。

それではファーディ・グローフェの<ミシシッピー組曲>、ウィリアム・T.・ストロンバーグ指揮ボーンマス交響楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] ミシシッピー組曲/ファーディ・グローフェ作曲/フェリックス・スラトキン指揮ハリウッド・ボウス交響楽団/演奏時間=3分09秒、2分22秒、2分37 秒、4分46秒/使用CD=Angel CDM 7243 5 66387 2 3

ファーディ・グローフェ作曲、<ミシシッピー組曲>、ウィリアム・T.・ストロンバーグ指揮ボーンマス交響楽団の演奏でお送りしました。ちなみに、 この<ミシシッピー組曲>の一部が、日本では、とある民放テレビ曲の「アメリカ横断ウルトラクイズ」という番組にもBGMとして使われたことがありまし て、もしかすると、お聞きになった方がいらっしゃったかもしれませんね。

今回は、場所に因んだアメリカの音楽作品を御紹介しましたが、この他にもまだこのような作品がありますので、機会がありましたら、またこれをテーマ にして、現代アメリカ音楽講座をしたいと思います。


アメリカ音楽講座の目次に戻る
メインのページに戻る