Mr. Tの現代アメリカ音楽講座




1999年9月17日アップロード



これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのクラクラクラシック」において、7月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


先月まで、さまざまなトピックに基づいたアメリカ音楽をご紹介してきましたが、今回は、あえてそういったトピックを設けずに、さまざまなアメリカの音楽をお送りしたいと思います。といいますのも、アメリカ音楽の中には、これはこういう音楽、と、はっきりと分類しにくい作風のものがたくさんありまして、しかもその中にはなかなか面白いものが多いからなんです。特にびっくりすることをすることもないけれど何となくいい音楽を書く、そんな感じでしょうか。

単純に、自分がいいと思う音楽を、時代の流行に左右されずに書く、そういった作曲家は, 斬新な音楽を求めてきた20世紀の音楽史のなかでは、決して主流にはなりませんでした。しかも、あまり飛び抜けたことをしないために、話題性に乏しい。しかし、だからといって実際の音楽までつまらないかというと、そうではないと思うんです。それに、そういった作曲家の音楽は、なかなか親しみやすく、数多くの人々によって楽しまれてきました。そこで、今回のクラクラクラシックでは、素直にいい音楽を作り続けてきたアメリカ人の作曲家の中から、私が個人的にいいと思う4つの交響曲をご紹介したいと思います。

最初にお送りしますのは、ポール・クレストンです。クレストンは、イタリア系移民の子供として生まれまして、貧しかったために、ピアノやオルガンのレッスンを個人的に受けた以外は、正規の音楽教育は受けられませんでした。作曲家になることを決意したのも26歳と遅く、しかも独学で作曲の勉強をました。しかし、クレストンの音楽は、現在にいたるまで、数多く演奏されておりまして、日本でも、特に学校で吹奏楽をやった人たちなどには名前が知られているようです。

クレストンの音楽は美しい旋律と躍動感のあるリズムにありますが、今回は彼の代表作の一つ、彼の旋律美と鮮やかな和声が生きた交響曲第2番をご紹介します。1944年に作曲された交響曲第2番は、作曲者自身の言葉によりますと、この曲は「全ての音楽を代表する2つの基本--歌と踊り--を賛えるもの」として考えられたそうです。これからお聞きいただきます、交響曲第2番の第1楽章ではその2つの要素のうち「歌」の要素が扱われておりまして、美しい旋律と鮮やかな和声がとても素朴で魅力的です。

では早速ですが、ポール・クレストンの交響曲第2番から、第1楽章をお聴きいただきましょう。演奏はネーメ・ヤルヴィ指揮のデトロイト交響楽団です。

[ここで音源] 交響曲第2番より、第1楽章/ポール・クレストン作曲/ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団/使用CD=Chandos CHAN 9439/演奏時間=11分44秒

続いては、1899年、ニューヨークに生まれましたランダル・トンプソンという人をご紹介しましょう。トンプソンによりますと、「作曲家が最初に負うべき責任は、現在も未来も、同時代の聴き手の心に届き、感動を呼び起す音楽を書くこと」なのだそうです。そのような考えに基づいたトンプソンの音楽は、人間らしさと暖かさに満ちあふれています。これからお送りする交響曲第2番は1939年に書かれましたが、特にその第2楽章には、アメリカの民俗音楽を思わせる情感いっぱいの作品です。かつてレナード・バーンスタインは、この作品には「フランク・シナトラやペリー・コモの歌のような優しさがある」と申しておりましたが、鼻歌を歌うような親しみやすさがトンプソンの魅力なのかもしれません。

それでは、ランドル・テンプソンの第2交響曲から第2楽章をお送りします。演奏はレナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団です。

[ここで音源] 交響曲第2番より、第2楽章/ランダル・トンプソン作曲/レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=Sony Classical SMK 60594/演奏時間=4分54秒

次は、割と日本でも名前が知られております、サミュエル・バーバーの作品をご紹介しましょう。有名な<弦楽のためのアダージョ>という作品は、映画「プラトーン」に使われたり、大指揮者トスカニーニによって演奏されたり、大変ポピュラーなです。しかし日本では、その他の曲があまり知られていないように思われます。バーバーは晩年には、<弦楽のためのアダージョ>とはやや路線の違うリズミックでモダンな作品も書いておりますが、今回は初期に書かれました、大変ロマンティックな交響曲第1番作品9、をお聞きいただこうかと思います。この作品、色彩の濃い和音を使っているのですが、一方でバッハの時代にまでさかのぼる古い音楽形式パッサカリアを使っています。19世紀ロマン派の作曲家ではブラームスにもよく似た例がありますが、バーバーのこの作品にも独特な味わいがあります。

では、4つの部分からなり一楽章形式によりますバーバー作曲の交響曲第1番から、叙情的な味わいの深い第3部と、感情の高ぶりが古典的形式を使って表現される、第4部を続けてお聞きいただきます。演奏は、デヴィッド・ジンマン指揮バルティモア交響楽団です。

[ここで音源] 交響曲第1番より、第3部・第4部/サミュエル・バーバー作曲/デヴィッド・ジンマン指揮バルティモア交響楽団/使用CD=Argo 436 288-2/演奏時間=4分29秒、3分56秒

サミュエル・バーバーの交響曲第1番から、その後半部分をお送りしました。大変ロマンティックな作品だと私は思うのですが、アメリカの批評家からは、この作品には「ロマンティシズムの幽霊」が取りついている、という評価もありました。皆様はどのようにお聞きになりましたでしょうか。

今日最後は、やや気分を変えまして、鮮やかで力強い作品をお送りしましょう。ウォルター・ピストンの交響曲第4番から、第4楽章です。

ピストンといえば、アメリカでは『和声法』、つまり和音をどのように使うのかという原理を勉強するための教科書を書いた人として、大変有名なのです。しかし、実は作曲家としても、オーケストラに、室内楽にと、数多くの作品を残しています。

作風としては、古い形式を大事にしながらも、斬新な響きをもとめておりまして、時には難解な作品を書くこともあるようですが、これからお聴きいただきます、第4交響曲の第4楽章のように、たたみ込むようなリズムとスパイスの聴いた和音で圧倒されるような音楽も書いています。

では、ウォルター・ピストンの交響曲第4番の第4楽章をユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] 交響曲第4番/ウォルター・ピストン作曲/ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団/使用CD=Albany TROY 256/演奏時間=4分10秒

冒頭で私は、こういう作曲家たちは、あまり飛び抜けたことをしない、と申し上げたのですが、こうして4つの作品を並べてみますと、伝統的な交響曲という枠組みから、いかに多様な音楽が生まれるかが分かります。20世紀の終わりを向かえようとする今日、いわゆる現代音楽の流れにも、昔の音楽の書き方に戻ろうという動きが作曲家たちのあいだに生まれているようです。そういった動きのなかで、実直に伝統を大切にしてきた作曲家たちが、今後見直されることを、私は願っております。


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