Mr. Tの現代アメリカ音楽講座




1999年1月26日


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのクラクラクラシック」において、3月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆様こんにちは、フロリダ州立大学院の谷口です。

先月末の放送では、ヨーロッパ音楽の基礎に依りながら、アメリカ的な表現の可能性を追及した作曲家達をご紹介しました。そこで、彼らが試行錯誤しながら、いかにアメリカらしさを実際の作品として結実したかを皆さんとともに追跡しました。アメリカの国家を使って変奏曲を作ったバックという人、アメリカ先住民、いわゆるインディアンの旋律をオーケストラの組曲に織り込んだマクダウェル、そして、作曲家の自然な感情の発露が自由にアメリカの力強さを表現したハンソンの作品などをご紹介しました。

今回も、前回に引き続き、アメリカらしさが感じられるような多様な音楽作品をご紹介していきたいと思います。

20世紀にはいってアメリカが近代国家として大きな影響力を持つようになると、もともとはヨーロッパ色の強い音楽を書いていたアメリカの作曲家たちも、自分たちの文化とは何か、とうことを考えるようになってきます。そしてその思考を音楽にどのように反映させるのか、いろいろ頭を悩ませたようです。最も手短な方法としては、先月ご紹介した作曲家のように、アメリカ国民誰もが知っているメロディーを使うとか、その土地以外には聴くことのできない土着の音楽を使うという方法がありました。しかし、自分たちを表現しようとする欲求は、単に何かを利用するとにいう段階に止まることはありませんでした。今日ご紹介する作曲家たちは、もっと自分たちのいきざまが音楽に自然乗せられないだろうか、ということを常に考えて音楽をつくりあげてきたようです。では、実際にそれがどのように作品となったでしょうか? 今回は特に、1930年代、40年代の音楽を中心にお送りします。

まず最初は、1910年生まれの、ウィリアム・シューマンをご紹介します。シューマンははじめポピュラー音楽に興味を持っておりまして、ソングライターとしてもそれなりに売れていたようなのですが、ある日家族と一緒に行ったニューヨーク・フィルハーモニーの演奏会に強く影響されてクラシックの作曲家をめざすことにしました。その後、コロンビア大学で正式に作曲を学ぶかたわら、個人的に著名な作曲家に学んだりして、作曲の基礎をつくりあげました。

シューマンの最高傑作とされていますのは、1941年に初演された交響曲第3番なのですが、今日はちょっと時間がありませんので、1939年に作られたシューマンの出世作<アメリカ祝典序曲>をお届けします。この作品、何といっても若々しいアメリカの文化のもととなっている力強さ、推進力がみなぎっているのが特徴です。しかも作曲者シューマンによりますと、この曲の出だしの3つの音は彼が子供の頃、子供達が公園でお互いに呼びあう時に叫んだ声「ウィ・オー・キー」というのに基づいているのだそうです。しかも、この出だし3つの音は、曲全体の展開にうまくつかわれています。

それでは、ウィリアム・シューマン作曲、<アメリカ祝典序曲>を、レナード・バーンスタイン指揮ロスアンジェルス交響楽団の演奏でお聞きいただきましょう。

[ここで音源] アメリカ祝典序曲/ウィリアム・シューマン作曲/レナード・バーンスタイン指揮ロスアンジェルス交響楽団/使用CD:Deutche Grammophon 413 324-2/演奏時間:9分23秒

次はアメリカ文化を形づくる上で常に重要な役割を担ってきた黒人文化の底力(そこぢから)を感じる作品をご紹介しましょう。ウィリアム・グラント・スティルのアフロ・アメリカン交響曲です。

スティルは1895年、ブルースの発祥地でありますミシシッピー州に生まれました。正式な作曲法は第1回目の番組でご紹介した作曲家チャドウィックや、現代音楽の草分け的存在のヴァレーズに学びました。しかし、それは後になってのことで、最初スティルは、家計を支えるため、ポピュラー音楽の世界でお金を稼ぎました。しかし、ガーシュインのラプソディ・イン・ブルーを初演したポール・ホワイトマン楽団ほか、数多くの音楽家たちと仕事をしながら、実際の現場を通して作曲を学びました。クラシックの世界でも認められたのも、この時に才能が見事に開花したからだったんです。

これからお聴きいただきます、アフロ・アメリカン交響曲は、アフリカ系アメリカ人の交響曲とも訳せるのでしょうが、まさに黒人のスティルだからこそ説得力を持って響く交響曲です。「音楽には日々の生活から湧き出す生命の呼吸のようなものがなければならない」、とスティルは申しておりますが、借り物ではない自分自身の表現をめざすことがこの曲をユニークなものにしているといえましょう。

それでは、1931年に初演されたウィリアム・グラント・スティルのアフロ・アメリカン交響曲、今回は時間の都合により、第1楽章のみをお送りします。演奏は、ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団です。

[ここで音源] アフロ・アメリカン交響曲から第1楽章/ウィリアム・グラント・スティル作曲/ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団/使用CD:Chandos CHAN 9154/演奏時間:8分13秒

今日最後にお届けしますのは、アメリカの歴史を題材にした作品を書いた、ロイ・ハリスです。ハリスは基本的な勉強をアメリカで終えた後、パリに留学して、きっちりとした音楽理論を学ぶはずだったのですが、パリにいた先生とは2回でレッスンやめてしまいました。しかし理論ではなく、実際の音楽作品を数多く研究することによって自分なりの表現方法をつかみ取っていったようです。そしてその過程でハリスは、アメリカの音楽伝統はヨーロッパのものとは明らかに違うのだ、と感じ取ったようで、帰国後も、つねにアメリカらしい音楽語法を探究し続けました。

これからお送りしますのは、南北戦争中にリンカーンがゲティスバーグで行った有名な演説を題材にした交響曲、交響曲第6番<ゲティスバーグ>です。実は作曲者のハリスは、リンカーンの誕生日である2月12日に生まれたのですが、そのため、リンカーンには随分共感を感じて育ったようです。学校で歴史を学ぶときも熱心に聞き入っていたそうですし、この作品を作る前にも、リンカーンの伝記を一冊読んだといわれています。

では、ハリスの交響曲第6番<ゲティスバーグ>から、南北戦争の激戦の様子を描いた第2楽章<<闘争>>とリンカーンの「人民の人民による、人民のための…」という有名な演説を音楽にした第4楽章<<宣言>>をお聞きいただきます。これは、いわゆる音楽以外の題材にもとづいた音楽、いわゆる標題音楽なのですが、内容が単なる描写に終わらない、中味のある音楽になっているのがハリスのすぐれたところだと思います。演奏はキース・クラーク指揮パシフィック交響楽団です。

[ここで音源] 交響曲第6番より第2楽章<<闘争>>と第4楽章<<宣言>>/ロイ・ハリス作曲/キース・クラーク指揮パシフィック交響楽団/使用CD:Albany TROY 064/演奏時間:11分53秒(約12分)

アメリカという国が世界的な影響力をもった国家として君臨するに従い、作曲家たちの間には、自分達はヨーロッパとは違う文化を築き上げなければならないという気運が高まりました。自分の生まれた土地、自分たちの歴史を強く意識した三人の作曲家達は、それぞれ思い思いに、アメリカを彷彿とさせる音楽を見つけだしていったようです。そして、彼らの音楽は、自分自身に忠実であることがいかに大切であるかを教えてくれたように思います。(99.4.6.アップロード)


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