Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



57
2003年4月24日アップロード
これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2004年4月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。
新しい年度に入りましたが、このアメリカのクラシック音楽をお送りする私の時間も、どうぞよろしくお願いいたします。

Hoiby Piano Concerto etc.さて、今日はロマンティックな作品で始めましょう。リー・ホイビーという人のピアノ協奏曲です。ホイビーという人、この番組でも何度かお送りした作曲家サミュエル・バーバーという、アメリカのロマン派を代表する作曲家を常に尊敬しておりまして、作曲の先生として教わった人の中には、イタリア生まれのジャン・カルロ・メノッティという人もいました。このメノッティはバーバーと生前かなり親しくしておりまして、またイタリア人らしく、旋律の美しい作品を書いていました。

今日お送りしますリー・ホイビーのピアノ協奏曲は1958年の作品。当時アメリカの作曲家たちはシェーンベルグやウエーベルンといった十二音音楽の影響を受け、不協和音の多く使った作品で新しい表現を探求していた時代でした。ところがホイビーはそういう流れに反旗を翻した存在で、古いと言われようが、旋律の美しさを大切にした作品を書きたいと主張していたのでした。

実際作品を聴いてみますと、ホイビーが現在も生きている作曲家であるように、20世紀らしいところもあるのですが、古くて良いものは積極的に使おうというところは、やはり聞こえてくると思います。またピアニストとしてもかなりの腕前ということで、この作品においても、ピアノ独奏が鮮やかに出てくるような書き方がされているように思います。

ではヤン・クレンツ指揮ポーランド国立放送管弦楽団の演奏、ピアノ独奏ジョン・アトキンスで、リー・ホイビーのピアノ協奏曲から第1楽章をどうぞ。

[ここで音源] ピアノ協奏曲より第1楽章/リー・ホイビー作曲/ジョン・アトキンス(ピアノ)、ヤン・クレンツ指揮ポーランド国立放送管弦楽団/使用CD=米Bay Cities BCD-1003/演奏時間=10分16秒

Griffes New World CD続いては、チャールズ・トムリンソン・グリフィスによります、ドイツ語で書かれた歌曲をお送りします。グリフィスは俗に「アメリカの印象派」と呼ばれることもあり、フランスのドビュッシーの影響を受けたような和音、そして東洋を題材にした作品を書いております。以前にもこの番組では《フビライ・ハンの快楽殿》というオーケストラ作品をお送りしたことがあります。

しかしグリフィスはベルリンでフンパーディンクという作曲家に師事しております。フンパーディンクはオペラ《ヘンゼルとグレーテル》で有名ですね。このベルリンに滞在していた1903から1907年、あるいはその後帰国してすぐに書かれたとされる歌には、いわゆるドイツ・リートの影響がもろに出た興味深いものもあります。今日はそのグリフィスがレーナウ、ハイネ、ゲーテの詩に作曲したものをお送りします。

1曲目は《風に向かって》。失恋したある男が強風の中を歩きながらさまよっているが、昔のことを忘れることができないという悲しい歌のようです。2曲目は《奴らは彼をあの分かれ道に埋葬する》というタイトルで、その亡くなられた方の埋められた場所から、罪人にお似合いの青い花が咲くだろうという、ちょっと世の中を離れた場所から眺めたようなところがあるような歌詞のようです。3曲目は《静かな海》。穏やか海を船乗りが遠く眺めるという、ロマンを感ずる歌詞です。最後は《人里離れた森の道にて》。日没後の静かな森に一人いると、森の声があちこちから聞こえてくるという内容です。

では以上、チャールズ・トムリンソン・グリフィスの歌曲をシェリル・ミルンズのバリトン、ジョン・スポングのピアノ伴奏でどうぞ。

[ここで音源] 風に向かって/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/シェリル・ミルンズ(バリトン)、ジョン・スポング(ピアノ)/使用CD=米New World NW 273-2/演奏時間=1分39秒

[ここで音源] 奴らは彼をあの分かれ道に埋葬する/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/シェリル・ミルンズ(バリトン)、ジョン・スポング(ピアノ)/使用CD=米New World NW 273-2/演奏時間=1分29秒

[ここで音源] 静かな海/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/シェリル・ミルンズ(バリトン)、ジョン・スポング(ピアノ)/使用CD=米New World NW 273-2/演奏時間=1分40秒

[ここで音源] 人里離れた森の道にて/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/シェリル・ミルンズ(バリトン)、ジョン・スポング(ピアノ)/使用CD=米New World NW 273-2/演奏時間=2分01秒

Creston Orchestral Works Vol .2さて、ここでちょっと雰囲気を変えまして、ポール・クレストンの《トッカータ》というオーケストラのための作品をお送りします。曲名の「トッカータ」、 バッハのオルガン曲《トッカータとフーガ》というのを思い出される方もいらっしゃるかもしれませんが、あの曲の最初の部分のように、トッカータというのは楽器の演奏技術を華やかにひけらかす、披露する場を演奏家に提供するもので、このクレストンの《トッカータ》の場合も、注意して聴きますと、オーケストラのいろんな楽器が、そのテクニックを見せつけているようです。チューバのソロなんかもあるみたいですね。もともとはクリーブランド管弦楽団の40周年のために書かれた作品ですが、今日はこれをジェラード・シュワーツ指揮シアトル交響楽団の演奏でお聴きいただきましょう。

[ここで音源] トッカータ/ポール・クレストン作曲/ジェラード・シュワーツ指揮シアトル交響楽団/使用CD=米Delos DE 3127/演奏時間=13分39秒

Zorn The Big Gundown最後は、これまた一風変わった音楽で締めてみたいと思います。ジョン・ゾーンの《復讐のガンマン》です。ジョン・ゾーンは「何でもアリ」みたいなところがあるミュージシャンで、普段暇な時はテレビのチャンネルを次から次へと変えながら楽しんでいるそうですが、音楽にもそういった「ごった煮」的な要素があるようです。これからお送りしますは《復讐のガンマン》、1966年の西部劇映画で、もともとはエンニオ・モリコーネという人が音楽をつけておりました。モリコーネといえば、昨年のNHKの大河ドラマ『MUSASHI』の音楽、あるいは「ニューシネマ・パラダイス」の音楽を担当していたことで知られておりますが、かつては、いわゆる「マカロニ・ウエスタン」の音楽の作曲家としても知られておりました。ゾーンはこのモリコーネの西部劇映画の音楽を常にベースに置きながら、やはりいろんな物が次から次へと飛び出してくる面白さがあるようですね。

では、ジョン・ゾーンの《復讐のガンマン》をどうぞ。

[ここで音源] 復讐のガンマン/ジョン・ゾーン作曲/ルリ・シオイ(ヴォーカル)、ビル・フリッセル(エレキ・ギター)、ボビー・プレヴァイト(パーカッション)ほか/使用CD=米Tzadik TZ 7328/演奏時間=7分26秒


アメリカ音楽講座の目次に戻る
メインのページに戻る