Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2003年3月21日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2004年2月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿で す。


現代アメリカ音楽講座、お相手は、いつもの通り、谷口昭弘です。

ジャズやロック、ポップスというと、それらの発祥地がアメリカということもあり、自然にアメリカらしさを感じることも多いのですが、アメリカでクラシック ということになると、さて、どうやってアメリカらしい響きを作ったらいいのかというのが課題となってまいります。

普段コンサートで聴くクラシック音楽の大半がドイツやイタリア、フランスといった国々の作曲家であるように、クラシックはヨーロッパが発祥地。ではアメリ カはヨーロッパなのか、という問題になりそうです。

ヨーロッパの人たちがアメリカ大陸に移り住んで、やがてそれが一つの国となったという歴史を考えれば、その人とともにヨーロッパ的なものも一緒に移動した ということは容易に想像されます。しかしヨーロッパとアメリカは、現在飛行機で跳んでも7・8時間。飛行機のなかった時代のことを考えますと、ヨーロッパ とアメリカの隔たりというのは、現在我々が想像する以上のものがあったのかもしれません。

それでもクラシック音楽の世界では、ヨーロッパ系の作曲家たちが、自分達の遠い祖先の時代から受け継がれてきたヨーロッパの伝統をアメリカにも根付かせた いと必死だったようです。

今日お送りしますのは、主に19世紀末から20世紀初頭にかけて作られたアメリカの作品です。この頃は、ヨーロッパ風の作曲技法が大学できっちり教えら れ、それらが吸収された時代。そして、その基礎に乗っ取って、ヨーロッパとは違ったアメリカらしい音楽が作れないものか、という模索が始まった時期でし た。

第1曲目はジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックの《交響的組曲》という管弦楽組曲からの第1楽章です。1909年に完成されたこの作品、ちょっ と聴いたところ、リヒャルト・シュトラウスを思わせるような勇壮なオープニングから始まるのですが、茶目っ気のあるリズムが飛び出したり、ちょっとセンチ メンタルなところがあったり。ヨーロッパを気取りながら、どこからかアメリカらしさがはみ出てしまう、奇想天外な作品です。

では、ホセ・セレブリエール指揮チェコ国立フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、チャドウィックの《交響的組曲》から、第1楽章をどうぞ。

続いてはエドワード・マクダウェルという人の書いた《12の技巧的練習曲》というピアノのための作品をお送りします。技巧的練習曲というタイトルを聴きま すと、ピアノをお弾きになる方などは直感的にフランツ・リストの名前を思い出されるのかもしれません。リストは自らの華やかな演奏テクニックを披露するた めのピアノ曲を書いておりまして、超絶技巧練習曲などは有名ですね。この1895年に作られたマクダウェルの作品にもリストの影響はもちろんあるのです が、それだけではなくて、シューマンやショパンといったロマン派のピアノ曲を書いた有名作曲家も顔を覗かせているようです。例えば第1曲はノヴェレッテ、 第9曲はトロイメライというタイトルがついていますし、最後はポロネーズで締めくくられています。ヨーロッパの主流を行く作曲家たちの音楽を貪欲に取り入 れようとしていた19世紀末のアメリカが見えてくるようです。

ではマクダウェルの《12の技巧的練習曲》からノヴェレッテ、無窮動、狩猟、トロイメライ、即興曲、ポロネーズの6曲を続けてお聴きいただきましょう。ピ アノはチャールズ・フィエッロです。

今日最後は、一転してアメリカの若手作曲家の作品をお送りします。1967年生まれのクリストファー・セオファンディスという人の《虹色の体》という作品 です。1967年生まれということですから、今年37歳。まさに現在を生きる作曲家という感じもするのですが、一方でお送りする《虹色の体》という作品に は、12世紀はドイツの修道院で聖歌を書いていた女流作曲家でありますヒルデガルド・フォン・ビンゲンの聖歌が引用されております。フォン・ビンゲンの書 く聖歌はいわゆるグレゴリオ聖歌よりも音域が広く旋律も変化に富んでいたそうで、とても幻想的で奔放な感じがしたのだといいます。作曲家セオファンディス によりますと、2002年に初演されたこの《虹色の体》という曲には《アヴェ・マリア、命の源》という聖歌が何度も登場するそうで、アメリカの作曲家が自 分達の音楽語法を作り出す上でヨーロッパの伝統がいかに大切かを、改めて示しているような感じがいたします。

ではロバート・スパノ指揮アトランタ交響楽団の演奏でリストファー・セオファンディスの《虹色の体》をどうぞ。


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