Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2002年11月30日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2002年10月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさん、こんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。今月もアメリカのクラシック音楽、盛りだくさんでまいりましょう。

今日最初はエイミー・ビーチという女性作曲家による、ミサ曲からお送りします。ビーチは1867年、ニュー・ハンプシャー州に生まれましたが、主な音楽活動はお隣マサチューセッツ州のボストンで行われました。作曲は独学でいろんな楽譜から直(じか)に学んだようです。ピアノや室内楽のような小さな編成の作品がよく演奏されているようですが、交響曲などの大きな編成も、近年録音されているようです。カトリックの典礼、ミサの文句には古今東西色々な作曲家が曲を付けていますが、ビーチの場合は、19世紀ヨーロッパのロマン派を思わせる情感たっぷりの旋律・和音を付けられておりまして、教会音楽の文脈を離れても、思わず聞き入ってしまうところがありそうです。

もともと合唱とオーケストラのために書かれたようですが、ここでは打楽器を除いたオーケストラの部分はオルガンで代わりに演奏した録音でお送りしたいと思います。

ではさっそくですが、エイミー・ビーチのミサ曲変ホ長調から、瞑想的なキリエと力強いグローリアの一部をお送りします。演奏は、エレーン・バンセ(ソプラノ)、バーバラ・シャラッム(メゾ=ソプラノ)、レオナード・ジェイ・グールド(バリトン)、ポール・ロジャース(テナー)、マイケル・メイ指揮マイケル・メイ音楽祭合唱団、ダニエル・ベックウィズのオルガンです。

[ここで音源] ミサ曲からキリエ、グローリア(の一部)/エイミー・ビーチ作曲/エレーン・バンセ(ソプラノ)、バーバラ・シャラッム(メゾ=ソプラノ)、レオナード・ジェイ・グールド(バリトン)、ポール・ロジャース(テナー)、マイケル・メイ指揮マイケル・メイ音楽祭合唱団、ダニエル・ベックウィズ(オルガン)/使用CD=米Newport Classics NCD 60008/演奏時間=6分23秒、5分52秒

情感豊かなミサ曲の次は、アメリカの魂の歌といった感じの黒人民謡交響曲という作品をお送りしましょう。作曲者はウィリアム・レヴィ・ドーソンといいます。ドーソンはアラバマ州出身の黒人の音楽家で、シカゴで学びトロンボーンの演奏活動などをした後、故郷のアラバマ州タスケジーで合唱団の指揮者として活躍しました。ドーソンはまた黒人霊歌を多く合唱用に編曲している人として有名ですが、今日お送りする黒人民謡交響曲も、あるいは黒人霊歌の影響があるのか、ほのかに暗い独特の旋律が聴こえてきます。なおこの作品1934年11月、レオポルド・ストコフスキー指揮のフィラデルフィア管弦楽団によって初演されています。

では、ウィリアム・レヴィ・ドーソンの黒人民謡交響曲から、<アフリカの絆>と題された第1楽章をお送りします。演奏は、初演を担当したレオポルド・ストコフスキー指揮によります、アメリカ交響楽団です。

[ここで音源] 黒人民謡交響曲/ウィリアム・レヴィ・ドーソン作曲/レオポルド・ストコフスキー指揮アメリカ交響楽団/使用CD=米MCA Classics MCAD2-9826A/演奏時間=13分36秒

ほの暗い哀愁と、どこかしら楽観的なところが入り交じったドーソンの作品の後は、楽しいアメリカをお送りします。ダグラス・ムーアという人の《P. T. バーナムのページェント》という作品です。この曲のタイトルになっているP. T. バーナムといいますのは、人の名前でして、フルネームは、フィニアス・テイラー・バーナムという19世紀の興行師、今日的感覚からするとサーカスや曲芸や怪しい人を見せ物にして商売をするイベント屋さんみたいな感じでしょうか。

1893年生まれの作曲家ダグラス・ムーアは、このアメリカの歴史に残る興行師バーナムによりますエンタテイメント・ショーを題材に楽しい管弦楽曲を書きました。それがこれからお送りする《P. T. バーナムのページェント》。5つの楽章からできているのですが、そのうちの後半の3つをお送りします。まず第3楽章の<将軍と親指トム婦人>、親指トムというのは、バーナムの見せ物小屋では有名な小人(こびと)のキャラクターことで、おそらくその奥さんも小さかったに違いありません。ここでは軍隊を指揮する将軍とちいさなトム婦人が対比的に扱われています。第4楽章は<ジェニー・リンド>。「スウェーデンの歌姫」とも飛ばれたジェニー・リンドは、当地スウェーデンではお札のデザインにもなるほど有名なオペラ歌手でした。しかしおそらくバーナムの見せ物小屋に現れたのは、本物のリンドではなく、それに似せたキャラクターだったにちがいありません。ここではフルートがリンドの軽やかな歌声を思わせるように演奏しています。エンタテーメントにこういったオペラ歌手が入っていたというのも、興味深いですね。最終楽章は<サーカス・パレード>。バーナムのショーで登場したありとあらゆるエンタテイナーが総ぞろいで、最後に華を添(そ)えています。楽器のいろいろな音色が奇想天外なエンタテイナーたちを想像させますね。

ではダグラス・ムーア作曲の《P. T. バーナムのページェント》から3つの楽章をハワード・ハンソン指揮イーストマン・ロチェスター管弦楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] 《P. T. バーナムのページェント》から<将軍と親指トム婦人>、<ジェニー・リンド>、<サーカス・パレード>/ダグラス・ムーア作曲/ハワード・ハンソン指揮イーストマン・ロチェスター管弦楽団/使用CD=米Mercury 434 319-2/演奏時間=2分16秒、4分34秒、3分47秒

[追加情報] 実は<サーカス・パレード>ではクラリネットが派手にひっくりかえる音(リードミス音)が収録されているのですが、該当の箇所をスコアで確認すると「調子っぱずれで」という指示が書いてあるのが分かります。これはバーナムのショーで現れるカリオペという下手糞クラリネット吹きを模倣したものとされています。


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