Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2002年10月8日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2002年9月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさん、こんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。今月も、いろいろなアメリカのクラシック音楽をお届けします。

最初はマイケル・トーキーの《4つの箴言》です。1961年ミルウォーキー生まれのトーキーは、ベートーヴェンを中心とした古典的なクラシックに魅了された一方、ポピュラー音楽にも自然に影響されたそうです。1993年の作品《4つの箴言》は旧約聖書の『箴言』という書物から歌詞がとられています。何でもトーキーは小学校6年生のときに、異性と神に同時に目覚めたそうで、家にあった聖書を取り出しては読みふけったといいます。その中で特に印象に残ったのが、今回お送りする作品で使われている『箴言』なのです。今回は時間の都合で4つの楽章から3つをお届けしますが、歌詞を実際の聖書(共同訳)から引いてみますと、最初の楽章は「肥えた牛を食べて憎しみ合うよりは、青葉の食事で愛し合う方がよい」(15-17)、第2楽章は「あなた自身の井戸から水を汲み、あなた自身の泉から湧く水を飲め」(5-15,16)、最後は「富んでいると見せて、無一物の者がいる。貧乏と見せて、大きな財産を持つ者がある。」(13-7)といった感じになっています。

ではキャサリン・ボットのソプラノ、作曲者マイケル・トーキー指揮のアーゴ合奏団の演奏で、《4つの箴言》から3つの楽章をどうぞ。

[ここで音源] 4つの箴言から第1〜3楽章/マイケル・トーキー作曲/キャサリ ン・ボット(ソプラノ)/マイケル・トーキー指揮アーゴ合奏団/使用CD=英Argo 443 528-2(アルバム「Music on the Floor」)/演奏時間=4分13秒、3分33秒、2分14秒

続いては、チャールズ・トムリンソン・グリフィスの《先住民の旋律にもとづいた2つのスケッチ》をお送りします。

グリフィスは音楽的にいろんな影響を受けた人でした。ドイツ留学をした時に、ドイツ・ロマン派の重厚な響きで作曲し、後にフランス的な印象主義の淡い和声と音色に着目するようになります。

1918年に書かれた2つのスケッチが書かれたころは、自国の音楽素材に興味を持っていたようです。それはチェコの作曲家アントニン・ドヴォルザークが19世紀末にアメリカを訪れた時以来のアメリカ音楽の流れといえましょう。ドヴォルザークは当時のアメリカ音楽があまりにもヨーロッパ風なのに疑問を持ち、「どうしてアメリカ人たちは先住民や黒人たちの豊かな音楽遺産を作曲に使わないのだ」と発言したといいます。彼自身も交響曲第9番《新世界から》を作曲し、アメリカ音楽の可能性を示唆したのですが、それから何人もの作曲家が楽譜として記録されたアメリカの民謡・民俗音楽をクラシック音楽に進んで使うようになりました。

グリフィスも、今日お送りするような弦楽四重奏でその試みを行ったのですが、果たしてその試みがどのようなものであったのか。ではさっそくコーホン弦楽四重奏の演奏でお楽しみいただきましょう。チャールズ・トムリンソン・グリフィスの《先住民の旋律にもとづいた2つのスケッチ》です。

[ここで音源] 先住民の旋律にもとづいた2つのスケッチ/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/コーホン弦楽四重奏団/使用CD=米VoxBox 1157742(アルバム「Unknown String Quartets Volume 1」、CD 1 of 2)/8分54秒、3分54秒

さて、続いてはちょっと雰囲気を変えて、カルロス・スリナッチによります《リトモ・ホンド》という作品をお送りします。

スリナッチは1915年3月4日スペインのバルセロナに生まれました。最初の音楽教育はそのバルセロナで行いましたが、ドイツでも作曲やピアノを学びました。1947年にはパリに移住し、1951年以降亡くなるまではニューヨークと、国際的な人だったようです。

スリナッチの主要な作品は彼がニューヨークに渡ってからのもので、従ってここではアメリカの作曲家として考えますが、お送りします《リトモ・ホンド》は、スリナッチの生まれたスペインの香りがいたします。この「リトモ・ホンド」のはスペイン語で「深いリズム」という意味になるそうですが、おそらくここでの「深い」というのは、「深遠な」という感じの「深い」というニュアンスなのでしょう。副題に「室内オーケストラのためのフラメンコ・バレエ」とあるように、スペインの民俗舞踊であるフラメンコの様子が、特に手拍子を効果的に使った楽器編成に見られます。

ではカルロス・スリナッチの《リトモ・ホンド(深いリズム)》から、<出会いと別れ>と題された第3部をお送りします。演奏は作曲者スリナッチ指揮によります室内合奏団です。

[ここで音源] リトモ・ホンド(深いリズム)から第3部<出会いと別れ>/カルロス・スリナッチ作曲/カルロス・スリナッチ指揮室内合奏団/使用LP=米M-G-M E3268/演奏時間=6分20秒

今日最後は、豪快にダドリー・バック作曲によりますアメリカ国家《星条旗》による祝祭序曲をお送りします。演奏はレナード・スラトキン指揮セントルイス交響楽団・合唱団です。

[ここで音源] アメリカ国家《星条旗》による祝祭序曲/ダドリー・バック作曲/レナード・スラトキン指揮セントルイス交響楽団・合唱団/使用CD=米RCA Victor 09026-60983-2(アルバム「Leonard Slatkin Conducts American Portraits」)/演奏時間=6分13秒



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