Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2002年7月7日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2002年6月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

今月の現代アメリカ音楽講座は、民族色豊かなアメリカ音楽を集めてお送りしたいと思います。

アメリカは英語圏からの移民が多いので、公用語も必然的に英語になっておりますが、もちろんイギリス本島だけが英語を話すという訳でもありませんで、アイルランドやスコットランドの人々が持ち込んだ文化もある訳です。そして移民たちの文化には、もちろん音楽も含まれています。今日はまず、アイルランドの音楽伝統を現在の形にした《石》という作品をお送りします。作曲者はカントリー・ミュージックの本拠地として有名なテネシー州はナッシュビルに住むジョン・モックといいます。

アイルランド旅行から帰った直後に作曲されたというこの《石》という作品、もともとは、ティン・ホイッスルというアイルランドの踊りの音楽に使われる笛の独奏のために書かれた旋律を、小編成オーケストラと共演するためのメドレーとしてまとめたものです。テンポのメリハリもきいた、楽しい作品です。演奏はポール・ガンビル指揮ナッシュビル室内管弦楽団です。

[ここで音源] 石/ジョン・モック作曲/ポール・ガンビル指揮ナッシュビル室内管弦楽団/使用CD=米Warner Bros. 9 46739-2/演奏時間=7分35秒

次は、ヘンリー・カウエルの《セット・オブ・ファイブ(5の組み)》という曲をお送りします。今お聴きいただいたアイルランド音楽とナッシュビルのオーケストラの共演の後でこの作品を聴きますと、このカウエルにもアイルランド民謡風の馴染みやすい歌があります。しかし良く聴いてみると、どうやらそれだけではないようで、特に叙情的なの中に、場違いであるかのようにさえ聴こえてくる打楽器が、独特の雰囲気を醸し出しています。では、ヴァイオリン、チェロ、ピアノというピアノ三重奏曲に打楽器を加えた摩訶不思議な世界をお楽しみください。

ヘンリー・カウエルの《セット・オブ・ファイブ》、トリオ・フェニックスとリック・クヴィスタッドの打楽器でどうぞ。

[ここで音源] 《セット・オブ・ファイブ》から第1・第5楽章/ヘンリ・カウエル作曲/トリオ・フェニックス、リック・クヴィスタッド(打楽器)/使用CD=米koch International 3-7205-2H1/演奏時間=3分21秒、4分34秒

続いてはアパラチア山脈地方の民謡を、ルネサンス時代の古い楽器を使って演奏するバルティモア・コンソートのCDから、3つのアパラチア民謡をお送りします。

はじめは《ジプシー・デイヴィー》。町の大地主が、町一番の美女の家を訪ね、一夜を過ごそうとやってくるのですが、中にいる使用人は、「あんたみたいなお金持ちには興味はないよ。ジプシーのデイヴィーのところにいっちまったよ」と揶揄(やゆ)します。

2曲目は《ナイチンゲール》。春になり、外に出て、しばし散歩もしたくなる季節。男と女があいさつを交わし、やがて二人は散歩に出かけます。しかし春といえば恋の芽生える季節でもあったようで、この自らを兵士という男性、思わず求愛の告白をします。しかし女性はすでに結婚していて、しかも旦那さんも兵士なんだとか。「兵士は一人でたくさんよ」と歌います。

3曲目は《バレーニャ》。この「バレーニャ」というのは、どうやらキツネのことなんだそうですが、楽しいリズムにのってこのキツネを見たといういろんな職業・階層の人--すてきな御婦人、宣教師、兵士、猟師--がでてきて、見てそれぞれがどうしたのかということが、いわば大喜利の問答みたいに短く答えられます。

ではカスター・ラ・ルーのソプラノ、バルティモア・コンソートの演奏で、アパラチアの民謡《ジプシー・デイヴィー》、《ナイチンゲール》、《バレーニャ》、以上3曲を続けてどうぞ。

[ここで音源] ジプシーのデイヴィー/アパラチア山脈の民謡/カスター・ラ・ルー(ソプラノ)、バルティモア・コンソート/米Dorian DOR-90213/演奏時間=3分17秒

[ここで音源] ナイチンゲール/演奏時間=3分48秒

[ここで音源] バレーニャ/演奏時間=2分17秒

次はガイ・クルセヴェクという人のアコーディオンをお楽しみいただきます。アコーディオンといえばポルカを思い出される方もいらっしゃるかもしれませんが、彼の関心はもっと広いようで、1曲目の《盗まれた記憶》という作品は、アフリカの唄を題材にしています。2曲目の《レガンキテーション》という曲は、ポルカに近いのかもしれませんが、ミュージシャンの「壊れ方」も派手で楽しい作品です。では以上2曲をガイ・クルセヴェクとバンタム・オーケストラの演奏でどうぞ。

[ここで音源] 盗まれた記憶/ガイ・クルセヴェク作曲/ガイ・クルセヴェクとバンタム・オーケストラ/使用CD=米Tzadik TZ 7018/演奏時間=5分36秒

[ここで音源] レガンキテーション/演奏時間=2分00秒

今日最後は冒頭にお送りしたナッシュビル室内管弦楽団のCDから、アパラチア音楽には欠かせないダルシマーという楽器を使った作品、《ブルーベリーの冬》という作品からお聴きいただきます。

ダルシマーといいますのは、平らな板の上にたくさんの弦を張り巡らせた楽器で、演奏は違いますが、例えばハンガリーのツィンバロンや中国の楊琴(ヤンチン)というのも、似たような楽器の構造を持っています。

ダルシマーの音はスチールギターみたいな感じもしますが、特にこのCDのようなロックみたいなリズムでやられると、余計そういう感じがします。あるいはアパラチアというのは、巡り巡ってロックのルーツでもあるんでしょうか?

ではコンニ・エルソーアという人の書いたダルシマーとオーケストラのための作品、《ブルーベリーの冬》から最終楽章をどうぞ。

[ここで音源] 《ブルーベリーの冬》から第3楽章/コンニ・エリソーア作曲/ポール・ギャンビル指揮ナッシュヴィル室内管弦楽団/使用CD=米Worner Bros. 9 46739/演奏時間=4分18秒



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