Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2002年5月25日アップロード
2015年2月14日 NMLリンク追加


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2002年5月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

今月の現代アメリカ音楽講座は、テーマを特に決めないでお送りする、いわゆる「徒然なるままの」アメリカ音楽のご紹介です。

まずは、元気に力強いアメリカをお送りします。クロード・スミスの吹奏楽曲で、タイトルは《偉大なる父》といいます。

これはかつて陸軍の軍歌としても歌われていた《偉大なる父》という歌が中央に挟まっておりまして、それでこういうタイトルがついているので すが、日本でも、もともとの賛美歌は《涯(はて)しも知られぬ 青海原をも》というタイトルで知られているそうです。そしてその歌の前後には、偉大なる 父、この場合はキリスト教的な神様のことを指すと思われるのですが、これを力強くたたえる華やかなファンファーレになっています。

では、クロード・スミスの《偉大なる父》、演奏は米国空軍軍楽隊、指揮はブルース・ギルクスです。

[ここで音源] 偉大なる父/クロード・スミス作曲/ブルース・ギルクス指揮米国空軍軍楽隊/使用CD=United States Air Force Band of the Rockies, "American Fanfare"(非売品)/演奏時間=6分18秒 (Naxos Music Library→ http://ml.naxos.jp/work/1342573)

2曲目は、ウィリアム・グラント・スティルの室内楽曲、《細密画》という1948年の作品です。

スティルは20世紀アメリカを代表する黒人作曲家なのですが、彼が作曲を習った先生には、ボストンで保守的な曲を書く一人として知られる チャドウィックという人や、現代的で先進的な作曲家エドガー・ヴァレーズもおりまして、一見この相対するような人たちから影響を受けたようです。

スティルはもちろんクラシックの世界で知られているのですが、ポピュラー音楽の世界、特に20、30年代を席巻したジャズ・バンドのアレ ンジャーとしても活躍しておりまして、特に学校の先生になることもなく、作曲ひとすじで生計を立てました。これは当時の黒人の社会的状況を考えると、すご いことですね。

今日お送りします《細密画》という作品も、そういったスティルの幅広い音楽的関心を示すものといえます。ここに聴かれるのは、カウボーイ の歌、メキシコの民族音楽、黒人霊歌、ペルーの古代インカ文明に寄せる幻想、そしてケンタッキーの素朴な民謡と、南北アメリカの様々な響きを品良くまとめ 上げた作品になっています。

では、シェラ管楽合奏団の演奏で、ウィリアム・グラント・スティルの《細密画》です。

[ここで音源] 細密画(オーボエ、フルートとピアノのための)/ウィリアム・グラント・スティル作曲/シエラ管楽合奏団/米Cambria CD-1083/演奏時間=11分53秒

続 きまして、チャールズ・アイヴズの風変わりな歌曲を2つほどお送りしましょう。まずは《サーカス・バンド》。アメリカではサーカスというのは、夏の風物詩 だったのかもしれません。曲の最初はサーカスを楽しみにする子どものわくわくする気持ちが歌われます。中間部では実際にサーカスの鼓笛隊パレードがやって きます。「トロンボーンを聴いて!」という叫び声まで入って、パレードの臨場感が感じられます。最後は「去年の夏に見た、あのピンクの服のおねえさんはど こ?」といった感じで終わります。

もう一つは《チャールズ・ラットレッジ》というカウボーイの歌です。19世紀後半というのは、牛を飼うということは、大変だったんでしょ うか。時には荒くれ者の動物が自分の命を奪うこともあったのかもしれません。曲の途中には、この歌のタイトルにもなっているラットレッジというカウボーイ が牛から落ちて死んでしまうという、生々しい箇所もあるのですが、それは決して残忍な動物のことを呪っているのではなく、「カウボーイなんていう仕事を やっていると、そういうこともあったものよ」といった感じの締めくくりになっています。

では、チャールズ・アイヴズの歌曲を2つ。《サーカス・バンド》、《チャールズ・ラットレッジ》の2つを続けてどうぞ。演奏は、1曲目がジャン・デガエタニのソプラノ、2曲目の方はヘンリー・ハーフォードのバリトンです。

[ここで音源] サーカス・バンド/チャールズ・アイヴズ作曲/ジャン・デガエタニ(ソプラノ)、ギルバート・カリッシュ(ピアノ)/使用CD=米Nonesuch 9 71325-2/演奏時間=1分55秒 (Naxos Music Library→ http://ml.naxos.jp/work/3057087)

[ここで音源] チャールズ・ラットレッジ/チャールズ・アイヴズ作曲/ヘンリー・ハーフォード(バリトン)、ロビン・ボウマン(ピアノ)/使用CD=英Unicorn- Kanchana DKP (CD) 9112/演奏時間=2分54秒 (Naxos Music Library別演奏 [パトリック・カルフィッツィ (バス・バリトン)、ダグラス・ディクソン (ピアノ)] → http://ml.naxos.jp/work/212848)

今 日最後は、ファーディ・グローフェの知られざる管弦楽曲、《タイアガラの滝》組曲から<ナイアガラの力1961年>という楽章をお送りします。カナダとの 国境にあるナイアガラの滝のスケールの大きさは、それはそれは見事なもので、アメリカの画家や作曲家達の格好のインスピレーションとなったのですが、実は このグローフェの作品、ニューヨークの発電所からの依頼でかかれたそうで、単なる滝の描写ではなく、中間部からは、ナイアガラの水力発電所で働く人たちも 登場するようです。そして、全体としては、人間の作ったテクノロジーによるエネルギー賛歌といった趣きに落ち着いています。

では、ウィリアム・ストロンバーグ指揮、ボーンマス交響楽団の演奏で、グローフェの《タイアガラの滝》組曲から<ナイアガラの力1961年>をどうぞ。

[ここで音源] 《ナイアガラの滝》組曲から<ナイアガラの力:1961年>/ファーディ・グローフェ作曲/ウィリアム・ストロンバーグ指揮ボーンマス交響楽団/使用CD =香港Naxos 8.559007/演奏時間=9分42秒 (Naxos Music Library→ http://ml.naxos.jp/track/13352)



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