Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2002年4月27日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2002年4月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

今月の現代アメリカ音楽講座は、4人の作曲家による、アメリカのピアノ曲を集めてお楽しみいただこうかと思います。

まずは、ルイ・モロー・ガチョークの作品からまいりましょう。

1892年生まれのガチョーク、ユダヤ系の父とラテン系の母親の間に生まれたいわゆるクレオールという人種になりまして、これは黒人の一種ともいえるかもしれませんが、それに加えて、ジャズの発祥地ともなるニューオーリンズに育ったこともあり、独特の音楽を生み出す気風を、自然と身につけていったようです。ガチョーク自身はコンサート・ピアニストとして、自分の作ったピアノ曲をヨーロッパ・ツアーの際に発表したりしまして、ショパンやベルリオーズに注目されたことも知られています。

そんなガチョークのピアノ作品は、自らのテクニックを充分に生かした華やかなもので、主題がアメリカらしいところも、とても新鮮です。ではその技巧も鮮やかなガチョークのピアノ作品から、まずはアメリカの楽器バンジョーの音を模倣した《バンジョー》第2番作品82、そして、ラテン・アメリカの香りも高い《ラ・マンチャの女》という作品。技術的には、左手の練習曲ともなっているのだそうです。では、以上2曲を、1865年製のチッカリングというアメリカのピアノで弾いたランバート・オーキスの演奏でどうぞ。

[ここで音源] 《バンジョー》第2番作品82/ルイ・モロー・ガチョーク作曲/ランバート・オーキス(ピアノ)/使用CD=米Smithsonian Collection of Recordings NC 033/演奏時間=4分47秒

[ここで音源] 《ラ・マンチャの女》/演奏時間=3分42秒

つぎは、ハワード・ハンソンの《エロスの詩》という組曲をお送りします。

1869年生まれのハンソンは、ロマン派の王道を行くような作品を多く書いており、有名な交響曲第2番には、自ら《ロマンティック》という副題までつけています。

今日お送りします《エロスの詩》という作品(もともとは4つの曲からなる組曲だったのですが、現在楽譜として残っているのは3つだそうです)、作曲者自身の言葉を借りますと、「心理学的な音楽の書き方」の試みだそうで、〈平和〉、〈喜び〉、〈希望〉という、感情をあらわすキーワードが、時にロマン派後期を思わせる、色濃い和音で表現されています。作曲したのが1917年から18年といいますから、ハンソン21歳から22歳の作品ということになるようです。

では、この《エロスの詩》の3つの楽章を、トーマス・ラベーのピアノでどうぞ。

[ここで音源] エロスの詩/ハワード・ハンソン作曲/トーマス・ラベー(ピアノ)/使用CD=香港Naxos 8.559047/演奏時間=10分43秒

つづいては、1920年代を彷佛(ほうふつ)とさせる、軽やかなピアノ作品をお届けしましょう。ゼズ・コンフリーの小品の数々です。

ゼズ・コンフリーは1912に《鍵盤の上の子猫ちゃん》という曲を発表し、一躍スターとなったピアニストです。特にレコードが一般に出回るようになった、192、30年代から大平洋戦争が終わるまでに、盛んに彼のピアノが自動ピアノやレコードで聴かれたようです。

作風としてはラグタイムやジャズの面影を残していますが、経済も絶好調で国全体が息づいていた頃のアメリカの楽観的な雰囲気が伝わってくるようです。

今日はそのコンフリーの作品から、彼のデビューを華々しく飾った《鍵盤の上の子猫ちゃん》、そして《目まいする指》、《ふらつき》、《ブルーな竜巻》と、以上4曲を続けてお送りします。ピアノ独奏は、エトレイ・アンジャパリジェです。

[ここで音源] 鍵盤の上の子猫ちゃん/ゼズ・コンフリー作曲/エトレイ・アンジェパリジェ(ピアノ)/使用CD=香港Naxos 8.559016/演奏時間=2分27秒

[ここで音源] 目まいする指/演奏時間=1分46秒

[ここで音源] ふらつき/演奏時間=2分17秒

[ここで音源] ブルーな竜巻/演奏時間=2分02秒

今日はずっと19世紀後半から20世紀前半のピアノ曲をお送りしてきましたが、最後は21世紀に飛びまして、ビリー・ジョエル作曲によるピアノ曲をお送りします。

ポップ・ソングの大スターとして日本でも人気の高いビリー・ジョエルですが、そんな彼がクラシックの世界に突入しました。クラシックの作曲界というのは、いかに新しくて独創的な作品を書くかというのを競うような形になって20世紀は展開したのですが、その急進的な音楽が19世紀の音楽的な書き方を大きく変えました。

一方ビリー・ジョエルのピアノ作品は、そういった革新的変化がおこる前に、まるでタイムマシーンに乗って遡るかのようでして、ショパンやシューマンの時代の音楽に聴き手が引き戻された感じがします。21世紀にもなってこんな作品も書けるのか、とポピュラー界からクラシック界に問いを投げかけているのかもしれません。

今日は、そんな彼の作品の中から、8分強の《幻想曲》作品4というのをお送りしたいと思います。

ピアノ独奏は、リチャード・ジョーです。

[ここで音源] 幻想曲作品4(《Film Noir》)/ビリー・ジョエル作曲/リチャード・ジョー(ピアノ)/使用CD=米Sony Classical CK 85397/演奏時間=8分45秒



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