Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2002年1月26日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2002年1月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

この現代アメリカ音楽講座は、やはり「これぞアメリカ」という音楽をお送りするのが本来の目的なのでしょうが、今回はそれをあえて打ち破って、「どこがどうアメリカなのかきかれると分からないのだが、やっぱりアメリカ音楽なのかなあ?」といった感じの作品をお送りします。

第1曲目はジョン・アーデン・カーペンターという人の交響曲第1番です。カーペンターは1876年シカゴに生まれまして、生前は特に1920年代を中心に高い評価を受けておりまして、ストラヴィンスキーが音楽を書いたことでも有名なロシアのディアギレフ舞踊団からも新作の以来があったとさえ言われております。この作品は堅実な作曲技法にもとづいた純ヨーロッパ風な作風で、演奏された1940年代の当時を一世風靡したスイング・ジャズの世界とはまるで無縁の世界です。では、ジョン・マクローリン・ウィリアムズ指揮ウクライナ国立管弦楽団の演奏で、カーペンターの第1交響曲から、第1楽章と第5楽章をどうぞ。

[ここで音源] 交響曲第1番より第1・第5楽章/ジョン・アーデン・カーペンター作曲/ジョン・マクローリン・ウィリアムズ指揮ウクライナ国立管弦楽団/使用CD=香港Naxos 8.559065/4分58秒、4分18秒

今日2曲目は、ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックの、《リップ・ヴァン・ウィンクル》序曲です。チャドウィックは1854年の生まれで、19世紀後半のヨーロッパの作曲技法に大きな影響を受けたと思われるのですが、不思議と管弦楽の響きには色彩感がありまして、単純にヨーロッパだけではないぞ、と感じさせる作曲家です。

生まれ故郷のアメリカの題材にも興味があるようで、今回お送りします、《リップ・ヴァン・ウィンクル》序曲などは、その例と申せましょう。このリップ・ヴァン・ウィンクルは、アメリカ文学史では有名なワシントン・アーヴィングという人の書いた短編のおとぎ話のようなもので、物語はアメリカ版浦島太郎といった感じです。町の呑気で人気者のリップ・ヴァン・ウィンクルは、ある日森のなあかから奇妙な音を聴きます。行ってみるとそこには小人たちが楽しく遊んでいる。リップは喜んでそれに加わり大いに楽しみ、用意されたお酒もたらふくのんで大騒ぎ。そのうちぐっすり寝てしまいます。

ところがリップが目を覚ましたのは、なんと20年後のこと。町の様子はすっかり変わり、誰もリップのことを知りません。しかし、すっかり歳をとってしまった自分の親友に再開し、最後は町の英雄として歓迎される、そんな話です。

ちなみに曲はリップがゆっくりと目覚めたところから始まり、曲の中間部には、20年後の目覚めも聴かれます。

では、そういったアメリカ的な物語りを背景とした作品、《リップ・ヴァン・ウィンクル》序曲をお送りします。ヨーロッパ風のオーケストラが、いかにアメリカ的題材を表現しているか、聴いてみてください。演奏は、ネーメ・ヤルヴィ指揮のデトロイト交響楽団です。

[ここで音源] リップ・ヴァン・ヴィンクル序曲/ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィック作曲/ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団/使用CD=英Chandos CHAN 9439/演奏時間=11分51秒

3曲目は、ちょっと気分をかえて、軽い感じの曲。アーサー・プロイアー作曲の《口笛吹きと犬》をお送りします。

プロイアーという人、今日ではほとんど知られていませんが、この《口笛吹きと犬》という曲だけは良く聴かれています。実は作曲者はマーチでおなじみの、ジョン・フィリップ・スーサと親しかったそうですが、それも何となくうなずけます。といいますのも、スーサの吹奏楽団はマーチももちろん演奏したんですが、こういった軽めのクラシック、日本では時々「セミクラシック」とも言われますが、そういうのも演奏しましたし、有名なクラシックの作品もアレンジして、アメリカのたくさんの人に親しんでもらったという貢献もしています。

クラシック音楽には興味はあるのだけれど、堅苦しい感じがして、という人が現在も少なくないと思うのですが、こういう軽めの音楽というのは、最初のきっかけとしてはとても効果的だったのでしょうね。そして、この曲が、実はアメリカ人の手によるものだったというのも興味深いです。

では、ロナルド・コープ指揮、新ロンドン管弦楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] 口笛吹きと犬/アーサー・プロイヤー作曲/ロナルド・コープ指揮新ロンドン管弦楽団/使用CD=英Hyperion CDA67067/演奏時間=2分50秒

今日最後は、ポール・クレストンという人の、交響曲第2番をお送りします。ポール・クレストンはイタリア系移民の子として生まれ、貧しい家庭に育ったようですが、独学で作曲を身に付け大成功するという、いわばアメリカン・ドリームの典型ともいえる人生を送ったようです。

その魅力は、体の乗り出しそうなリズムや、美しい旋律線だと思うのですが、今日は特に、前者のリズム的な面白さの発揮された第2楽章をお送りします。この楽章には間奏曲と踊りという副題が付いているのですが、オペラの一場面を思わせるかのような劇的な導入と、繰り返されるリズムの中で高揚してくるダイナミックさが原動力となっている主部とでできています。

こういった音楽を聴いていますと、曲がいかにアメリカ的に響くかということは、作品の特徴の一つに過ぎず、最終的な音楽のおもしろさというは、また別のところにあるとうことを実感します。

では、ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団の演奏で、ポール・クレストン作曲の第2交響曲から、第2楽章をどうぞ。

[ここで音源] 交響曲第2番から第2楽章「間奏曲と踊り」/ポール・クレストン作曲/ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団/使用CD=英Chandos CHAN 9390/演奏時間=10分08秒


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