Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2001年11月6日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2001年10月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

今月の現代アメリカ音楽講座は、久しぶりにテーマを決めないでお送りする、「徒然なるままの」アメリカ音楽のご紹介といたしましょう。

まずは、マイケル・ドアティーという人の《メトロポリス交響曲》です。1954年、アイオワ州生まれのドアティーは少年時代からジャズやロックバンドでキーボードを弾いて育ったそうですが、テキサスの大学に入って以降、クラシックの作曲技法にも興味を持ち、パリでピエール・ブーレーズに学び、最終的にはイエール大学にも行っています。

《メトリポリス交響曲》は、漫画『スーパーマン』に登場するキャラクターを題材にした親しみやすい作品で、5つの楽章からなります。お送りするのはそのうちの第1楽章で、<レックス>というタイトルが付けられています。何でもこれは、スーパーマンに登場する最も手強い敵だそうで、スコアにも「悪魔的に」演奏せよとの指示があるそうです。サスペンス映画音楽を思わせるようなオーケストラ、ヴァイオリンの素早いパッセージと舞台の四方向から吹かれるホイッスルなどが印象に残ります。

(放送未収録部分:近年のアメリカ音楽は、いわゆるクロスオーバートいいますか、音楽ジャンルをまたがった作風のものが一種の流行となっているのですが、ドアティーもまた、アメリカのポップな文化の伝統をクラシックに生かす道を模索しているようです。)

では、デヴィッド・ジンマン指揮バルティモア交響楽団の演奏で、マイケル・ドアティの《メトロポリス交響曲》から第1楽章<レックス>をどうぞ。

[ここで音源] 《メトロポリス交響曲》から第1楽章<レックス>/マイケル・ドアティ作曲/デヴィッド・ジンマン指揮バルティモア交響楽団/使用CD=Argo 452 103-2/演奏時間=9分56秒

都会的なアメリカを堪能したあとは、ちょっとローカルな感じのするアメリカ音楽をお送りしましょう。ロイ・ハリスの交響曲第3番です。ハリスはガーシュインと同じ年、1898年に生まれ、特に1930年代から50年代にかけては、おそらくコープランドを凌いで、アメリカの作曲家として最も人気の高かった人といえましょう。オクラホマに生まれ、ロサンゼルスに移ってからも、しばらく農夫として働いた彼は、後に大都会のパリに行って、きっちりとした音楽技法を身につけるはずでした。しかし、ヨーロッパ風の教え方が肌に合わなかったのか、ひたすら自分の信ずる作曲法を、自ら作ろうとしました。

そういうこともあってか、これからお送りしますハリスの代表作、交響曲第3番はから聞こえてくるのは、パリの街角とは程遠く、アメリカの広い大地や農夫たちのごつごつとした手といった感じの響きです。しかし、これはこれで、アメリカの表現として説得力があるのではないかと思います。

今日は5つの部分からなる第3交響曲から、第3部「田園的」、第4部「フーガ--劇的」、第5部「悲劇的」の3つの部分をお送りします。演奏はネーメ・ヤルヴィ指揮の、デトロイト交響楽団です。

[ここで音源] 交響曲第3番から、第3部「田園的」、第4部「フーガ--劇的」、第5部「悲劇的」/ロイ・ハリス作曲/ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト交響楽団/使用CD=Chandos CHAN 9472/演奏時間=9分32秒

3曲目はモートン・グールドの吹奏楽曲《ジェリコ狂詩曲》をお送りします。モートン・グールドの作品につきましては、この番組でも以前、タップダンスとオーケストラのための協奏曲をお送りしましたように、大変にユーモアのある作品も書いておりますし、ナチス・ドイツのホロコーストを扱ったテレビ番組の音楽を担当したり、器用にいろいろ書ける作曲家といえるでしょう。

実はグールドは、6歳にはワルツを作曲し、10代にはニューヨーク近辺でピアニストとして活躍。20代にはすでにラジオ曲で作曲家・編曲家・指揮者としての仕事を得るという、才能のある人でした。作曲家としても1996年に亡くなるまでにその経歴を重ね、アメリカ音楽界に名を残しています。

今日お送りします《ジェリコ狂詩曲》は、旧約聖書を題材にした1941年の作品です。出エジプトを果たしたユダヤ人たちが心の支えにしていたモーゼを失ってから、ヨシュアに導かれて、ジェリコの砦(とりで)で戦うという物語りを、音にして描いたものです。7日間角笛を吹き続けると、ジェリコの壁が崩壊し戦いに勝利するという伝説から、トランペットなどが縦横に活躍する作品としても知られています。また曲の途中にはジェリコを歌詞にした有名な黒人霊歌も引用されており、ユダヤの物語りに、独特なアメリカらしさが加わることになります。

では作曲者モートン・グールド指揮の吹奏楽団の演奏で、《ジェリコ狂詩曲》をどうぞ。

[ここで音源] ジェリコ狂詩曲/モートン・グールド作曲/モートン・グールド指揮吹奏楽団/使用音源=RCA Victor LSC-2308(LPレコード)/演奏時間=12分14秒

今日最後は、短い曲ですが、アーヴィング・ベルリンという人の《神をアメリカを祝福せよ》をお送りします。第2次世界対戦中に大ヒットしたこの曲、9月11日の連続テロ事件で心を傷めたアメリカ人たちの心の拠り所として、全米で歌われたものです。

1939年、NBCラジオの古いモノラル録音ですが、作曲家アーヴィング・ベルリン自身による歌声をお送りしたいと思います。では、《神をアメリカを祝福せよ》。

[ここで音源] 神をアメリカを祝福せよ/アーヴィング・ベルリン作曲/アーヴィング・ベルリン(歌・ピアノ)/使用CD=Koch International 3-7510-2/演奏時間=1分25秒

(お詫びと訂正)グールドの《ジェリコ狂詩曲》の年代が1939年と書かれていたのですが、1941年の誤りでした。ここにお詫びして訂正いたします(02.10.7.)


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