Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2001年10月5日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2001年9月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。



[ここで音源] 大いなる西部/ジェローム・モロス作曲/エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス管弦楽団/使用CD=Telarc CD-80141/演奏時間=3分41秒

みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

たった今お聞きいただいたのは、ハリウッド西部劇映画として有名な「大いなる西部」のテーマで、作曲者はジェローム・モロスという人でした。

今月の現代アメリカ音楽講座は、これまで何回かお送りしてきた、古き良きアメリカ、アメリカーナの特集で、特にアメリカの山々や大草原を思い起こさせるような作品を集めてみました。

まずは、おなじみ、アーロン・コープランド作曲の《アパラチアの春》からお送りしましょう。これはマーサ・グラハムという女性のバレリーナから委嘱があって書かれたバレエのための音楽だったんですが、アメリカ的な雰囲気いっぱいの音楽が大変好評で、コンサートでも演奏されるようになりました。もともと作曲者は《マーサのためのバレエ》と平凡なタイトルをつけていたんですが、バレリーナのグラハムが《アパラチアの春》という、より印象深いタイトルを曲を聴いた感じから付けたそうで、現在でもこの曲名が広く使われています。おそらくお聞きになったみなさんも、アメリカの広い大地に訪れた春を想像なさるのではないかと思います。

さて、このアパラチアというのは、もちろんアパラチア山脈のことなんですが、ものの本によりますと、この山脈は、フロンティア時代の開拓者たちが、西へ西へと移動する際、最初に超えなければならない難所だったとされておりまして、音楽的には、カントリー・ミュージックのルーツであります、マウンテンソングやブルーグラスの発祥地としても知られているそうです。まさしく、アメリカ人にとっては、心の故里といったところなのかもしれませんね。

では、この《アパラチアの春》から、その一部を、作曲者アーロン・コープランドの指揮した録音でお送りします。指揮はコロンビア室内アンサンブルです。

[ここで音源] バレエ音楽《アパラチアの春》(オリジナル室内楽版)/アーロン・コープランド作曲/アーロン・コープランド指揮コロンビア室内アンサンブル/使用CD=Sony Classical SM2K 89323(2枚組CDの1枚目)

アパラチア山脈にちなんだ音楽、もう少し続けましょう。先ほど私、アパラチア山脈はブルーグラスの発祥地と申し上げたんですが、今度はブルーグラスのヴァイオリンを弾く、マーク・オコーナーと、クラシックのチェリスト、ヨーヨー・マが共演した、ちょっと粋なCDをご紹介したいと思います。

アルバムのタイトルはアメリカの方では「アパラチアの旅」、日本のCDの方は「アパラチア・ワルツ2」というそうなんですが、内容的には、イングランドやスコットランドから、移民たちが携えてきた踊りの音楽や、アメリカで民謡として定着したもの、あるいはその音楽のスタイルに似せた新しい曲などが集められています。ポピュラーとクラシックの垣根を越えた音楽的な交流も、このアルバムの魅力です。

今回はこの「アパラチアの旅」というCDから、私が独断と偏見で選んだ、2曲をお送りします。

1曲目はアルバムにベース奏者として参加しているエドガー・マイヤーの作品、数字の1にアルファベットのBと書いて、《1B(ワンビー》、2曲めはゲストとして登場するギター奏者、ジェイムズ・テイラーによります《ベンジャミン》。どちらも自分の子どもに寄せて書いた、親しみやすい曲ということだそうです。

では、以上2曲を続けてお楽しみ下さい。

[ここで音源] 1B/エドガー・マイヤー作曲/マーク・オコーナー(ヴァイオリン)、ヨー=ヨー・マ(チェロ)、エドガー・マイヤー(ベース)/使用CD=Sony Classical SK 667821/演奏時間=4分02秒

[ここで音源] ベンジャミン/ジェイムズ・テイラー作曲/ヨー=ヨー・マ(チェロ)、ジェイムズ・テイラー(ギター)/演奏時間=3分22秒

今日はこれまで、自然のやさしさやそれに対するアメリカ人たちの思い入れの感じられる音楽をお送りしてきましたが、今日最後は、自然の驚異を感じさせる音楽をお送りします。アラン・ホヴァネス作曲の、交響曲第50番《セント・ヘレンズ山》です。

アラン・ホヴァネスは東洋と西洋の音楽を融合を試みた、大変風変わりな作品を書いているのですが、一方で、自然というもの、とくに山に対して特別な感情を持っておりまして、それは例えば、「神秘」とか「畏敬」とか、何かしら神聖なものというように考えているところがあるようです。

お送りします交響曲第50番《セント・ヘレンズ山》ですが、これはワシントン州にあります、山の名前にちなんでいるんですが、このセント・ヘレンズ山、1980年に大噴火を起こしまして、それ以来、世界的に有名になりました。今日お送りしますのは、交響曲の3つの楽章のうちの最終楽章で、まさに噴火の様子を効果的に描写し、最後は自然の偉大さを讃えるような内容になっています。

演奏は、作曲者ホヴァネスと生前親交のあった、ジェラルド・シュワルツ指揮の、シアトル交響楽団です。ではホヴァネスの交響曲第50番《セント・ヘレンズ山》をどうぞ。

[ここで音源] 交響曲第50番《セント・ヘレンズ山》作品360より、第3楽章<火山>(アダージョ--アレグロ)/アラン・ホヴァネス作曲/ジェラルド・シュワルツ指揮シアトル交響楽団/使用CD=Delos DE3137/演奏時間=13分49秒
 


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