Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2001年6月25日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2001年6月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。



今月の現代アメリカ音楽講座は、いつもとはちょっと視点を変えて、アメリカ系アメリカ人、いわゆる黒人の音楽伝統からお届けすることにしましょう。特に今回は、黒人霊歌とゴスペルを中心に進めていきたいと思います。

まずは黒人霊歌。霊歌、スピリチュアルと呼ばれておりますものは、白人も黒人も作っておりますが、19世紀から今日にかけて広まった宗教的な民謡といったのが、この霊歌の広い定義となるようです。その中でも黒人霊歌は、、アフリカ大陸から奴隷としてやってきた黒人たちが歌ったもの。その内容は、自分たちのおかれた苦境を嘆くもの、あるいは神に救いを求める祈りであったりすようです。

では早速ですが、私が独断と偏見で選んだ黒人霊歌をお届けしましょう。バーバラ・ヘンドリクスが録音した黒人霊歌集2つのCDから、《時に私は母なき子のように》、《昔からの信仰を》、《誰も知らない私の悩み》。いずれも多くの歌手に歌い継がれてきた名曲です。独特の物悲しさ、力強さをお聞きください。

[ここで音源] 時に私は母なき子のように/黒人霊歌/バーバラ・ヘンドリクス(ソプラノ)、ディミトリ・アレックスエフ(ピアノ)/使用CD=EMI Classics CDC 7 47026 2/演奏時間=3分40秒

[ここで音源] 昔からの信仰を/黒人霊歌/バーバラ・ヘンドリクス(ソプラノ)、モーゼス・ホーガン・シンガーズ/使用CD=EMI Classics 5 56788 2/演奏時間=3分02秒

[ここで音源] 時に私は母なき子のように/黒人霊歌/バーバラ・ヘンドリクス(ソプラノ)、ディミトリ・アレックスエフ(ピアノ)/使用CD=EMI Classics CDC 7 47026 2/演奏時間=3分10秒

次はもっとポピュラー音楽の影響の濃いゴスペルをお送りしましょう。ゴスペルといいますのは、もともとは新約聖書にあります福音書のことなのですが、これはイエス・キリストの生涯を綴ったものでありまして、キリスト教信仰の中心となるものです。黒人音楽のゴスペルは、いわゆる説教の中で言葉で伝えられてきた福音の教えを音楽で感じ取るといった趣きでようなのですが、もちろん音楽が説教そのものをなくしてしまうということはないでしょう。しかし音楽が心に訴える力というものを重視してきた黒人の宗派のなかでは、このタイプの音楽は重視されてきたようです。

このゴスペル、近年は日本のあちこちで演奏するグループができるほどブームになっているそうで、有名なアーチストや合唱団も紹介されているようです。そじで私の方は、どちらかというと、プロの音楽家とはいえないかもしれないけれど、特定のコミュニティーに深く結びついているゴスペルをいくつかご紹介したいと思います。お送りするのはCDが制作された場所、ワシントンDCからの録音です。

まずは、ドナルド・ヴァイルズ牧師とセレブレーション・デリゲーションによる演奏で、《導いてください、案内してください》。そしてヴァイルズ牧師のソロによる《神は私にとって本当に素晴らしい》。2曲とも、自分の弱さや罪を認め、神の助けを求め、その偉大な力を称えるといった内容になっています。3曲目は、そのワシントンのユニオン・テンプル・バプテスト教会の実際の礼拝で録音されたもので、タイトルは《神の変わらぬの手をつかめ》。大波がうねるかもしれない、砕け波が打ち付けるかもしれない、しかし私ははぐれない、なぜなら主が私をしっかりとつかんでくださるからだ。イエス様がそばにおられるから大丈夫だ、といった歌詞が何度も何度も繰り返されるなかで、心の高揚が感じられます。全体を引っ張る力強いリーダーの叫びも聞き所です。では、以上ワシントンからの3曲のゴスペルを続けてお聞きください。

今日最後は、クラシックの側から、こういったゴスペルを取り上げている例をお届けしましょう。エリック・カンゼルとシンシナティー・ポップスのアルバムから、まずは、おなじみ《アメイジング・グレイス》。「神の素晴らしいお恵みは、みじめでどうしようもない私を、救ってくれた。かつて私は、すべてを失った。でも、いま見いだしたのだ。なにも光を見いだせなかった私、でも、いま光を知った。」という感動のこもった歌です。2曲目は《エーメン》。もちろんこれはヘブライ語・アラム語の「真実に」「確かに」に由来する、キリスト教には欠かせない言葉のアーメンなのですが、アメリカの方ではエイメンと発音されます。特に黒人の方々の発音は独特ですので、ご存じの方も多いのではないかと思います。なおヴォーカルのリードは、イエスの生涯ついて触れていくような文句を即興的に加えていきます。では、《アメイジング・グレイス》の方はマウリーン・マクゴーヴァン、《エーメン》の方はルー・ロウルスのヴォーカルで、そして合唱をアズラ・パシフィック大学合唱団、オハイオ州の中央州立大学合唱団、エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス管弦楽団の演奏でどうぞ。
 


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