Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



29
2001年5月26日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2001年5月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。



みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の、谷口です。

今回の現代アメリカ音楽講座は、久しぶりにテーマを決めずにお送りする、徒然なるままのアメリカ音楽のご紹介です。

まずは、アメリカらしく、ジャズの影響の強い作品をお送りします。ジェームズ・P・ジョンソンという人の《太鼓》という曲です。ジェームズ・P・ジョンソンという人、1920年代にはジャズのピアニストとして名高く、ラグタイムに続くジャズ・ピアノの演奏スタイル、ストライド・ピアノという独特の弾き方で知られておりました。しかし、1930年代に、クラシックの作曲家に転向しまして、黒人の彼は、特にアフリカ系の民族色を前面に出した作品を多く書いていたようです。

今日お送りする《太鼓》という交響詩も、そういったアフリカの太鼓の響きが印象的で力強い作品です。ジャズで鍛えたリズム感も、うまくいかされています。 では、マーリン・オーソップ指揮コンコーディア管弦楽団の演奏で、ジェームズ・P・ジョンソンの《太鼓》、1942年の作品をどうぞ。

[ここで音源] 太鼓/ジェームズ・P・ジョンソン作曲/マーリン・オーソップ指揮コンコーディア管弦楽団/使用CD=Music Masters 67140-2/演奏時間=9分17秒

2曲目は、ウィリアム・シューマンという人の《ニュース映画》という作品です。ウィリアム・シューマンは戦前から戦後にかけて活躍した作曲家で、亡くなる前までは、ジュリアード音楽院の院長を、その前はリンカーン・センターの会長と、要職にも就いておりました。作曲の方は手堅くかっちりとしたもので、分かりやすいと思います。

《ニュース映画》は1942の作品で、もともとは吹奏楽のために書かれたそうです。テレビのない時代、世の中の出来事は映画館で報道されていたんですが、これはその中に出てきそうなシーンをまとめたものではないかと思います。1分から2分弱の短い楽章5つから成り立っておりまして、それぞれの楽章には、競馬、ファッション・ショー、部族の踊り、動物園の猿、そしてパレードというタイトルがついております。今日時間の都合で、この5つの楽章から、ファッション・ショー、部族の踊り(これはアメリカ先住民のことでしょうか)、そしてパレードの3つの楽章をお送りします。では、ルーカス・フォス指揮ミルウォーキー交響楽団の演奏で、ウィリアム・シューマンの《ニュース映画》です。

[ここで音源] 《ニュース映画》から<ファッション・ショー>、<部族の踊り>、<パレード>/ウィリアム・シューマン作曲/ルーカス・フォス指揮ミルウォーキー交響楽団/使用CD=ビクター音楽産業(Pro Arte )VDC-1057/演奏時間=1分07秒、1分37秒、1分10秒

3曲目は珍しい協奏曲をお送りします。モートン・グールドという人の書いたタップ・ダンス協奏曲です。世の中いろんな楽器のために書かれた協奏曲がございますが、さすがにタップダンサーが独奏者というのはちょっとなかったように思います。 通常の独奏楽器と違ってタップダンサーはいくつも音程を出す訳にはいきません。しかし、独特のリズムとアクセントが、楽しい作品になっております。伴奏のオーケストラも小気味よく入ってきます。

なお、このタップダンス協奏曲、今年の4月8日新日本交響楽団が、小堺一機さんと本間憲一さんをタップダンサーに呼んで演奏されたそうです。私も一度、この作品が実際に演奏されるのを見てみたいところです。 では、タップ・ダンサー、レーン・アレキサンダー、ポール・フリーマン指揮のチェコ国立交響楽団の演奏で、モートン・グールドのタップ・ダンス協奏曲から、第1楽章「トッカータ」をどうぞ。

[ここで音源] タップ・ダンス協奏曲から第1楽章「トッカータ」/モートン・グールド作曲/レーン・アレキサンダー(タップ・ダンス)、ポール・フリーマン指揮チェコ国立交響楽団/使用CD=Tintagel 0420(アルバム『Visions Volume 1』)/演奏時間=5分44秒

4曲めは雰囲気を変えまして、ロマンティックな音楽、サミュエル・バーバーのピアノ協奏曲からお送りしましょう。1962年に書かれたバーバーのピアノ協奏曲は、ピアニストに卓越したテクニックが求められる難曲で、時にはつんざくような響きも聞かれます。しかし今日お送りする第2楽章は、そんな激烈な作品の中で、ほっとする瞬間となっておりまして、美しい音がいっぱいに広がっていきます。

ではさっそく、ジョン・ブラウニングのピアノ、ジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団の演奏で、バーバーのピアノ協奏曲から、第2楽章、カンツォーネです。

[ここで音源] ピアノ協奏曲より第2楽章「カンツォーネ」/サミュエル・バーバー作曲/ョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団/使用CD=Sony Music (Japan) SRCR 2560/演奏時間=7分04秒

今日最後は、ジョセフ・キュリアールという人の書いた《黄金の門》という曲をお送りします。作曲者のジョセフ・キュリアールという人、経歴を調べようとさっそくインターネットを調べてみました。作曲者が自分で作ったホームページもあったのですが、自分の家族的な背景や受けた教育に関しては述べたくないと、そこには書いてありました。どこどこの大学で、どういう風な先生についたかなんて、音楽とどう関係あるのか、まずは自分の音楽を聞いてほしい、という主張があるからなのです。それで、結局、詳しい作曲者の経歴についてはお伝えすることができないのですが、今回お送りしますのは、彼が初めてリリースしたアルバムということでありまして、そこから実際にどういう音楽を書くのか聴いていただくことにしましょう。

これからお送りします《黄金の門》ですが、作曲者自身の楽曲解説によりますと、これは、19世紀末から20世紀の初頭にかけての、いわゆるゴールド・ラッシュの時期にカリフォルニアにやってきた中国系移民が題材となっているのだそうです。中国語の漢字を使って、カリフォルニアは黄金の山と書かれるのだ書かれるのだそうで、そのカリフォルニアの入り口はサンフランシスコであり、作品のタイトル「黄金の門」ということになったそうです。作曲者キュリアールには、中国系の友人がシンガポールにいるそうなのですが、そのためもあってか、19世紀末の、まだアジア移民の差別もあっただろう時代に、懸命に生きた中国系移民のことを思い出しながら、1993年と94にかけて作品にしたということなのだそうです。

では、3つの楽章からなる管弦楽曲《黄金の門》から、最後の楽章、<山の呼び声>というのをお送りします。これは黄金の山と呼ばれたカリフォルニアが呼んでいる声ということなんでしょうか。さっそく作曲者ジョセフ・キュリアール指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] 《黄金の門》から<山の呼び声>/ジョセフ・キュリアール作曲/ジョセフ・キュリアール指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団/演奏時間=8分56秒


アメリカ音楽講座の目次に戻る
メインのページに戻る