Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2001年4月2日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2001年3月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

現代アメリカ音楽講座、いままでオーケストラに音楽を中心にお送りしてきたようか感じがします。しかし、それだけでは、アメリカ音楽の一部しかご紹介したことになりません。そこで今回は、オーケストラ以外のジャンル、特に器楽曲や室内楽を中心に、アメリカ音楽の奥深さを、改めて見てみたいと思います。題して、まだまだあるぞ、アメリカ音楽、です。

まずは器楽曲、ピアノのための作品を数曲。1曲目は、アメリカのクラシック音楽の基礎を築いた作曲家の一人、エドワード・マクダウェルのコンサート・エチュードからお送りしましょう。 エチュードというのは、練習曲などとも訳され、ピアニストのテクニックを上達させる、鍛練のための音楽としての意味合いを持っております。しかし、皆様ご存じの、ショパンのエチュードのように、演奏家の音楽性も合わせて試される、味わい深い作品もエチュードにはあります。特にマクダウェルの場合、タイトルにコンサート・エチュード、演奏会用の練習曲とありますように、単にこの作品がピアニスト自身のためだけの技巧練習ではなく、ステージ上で人に聴かせられるだけの音楽なのだということを意識しているが伺えます。きらびやかなテクニックだけでないこの作品の魅力を感じてください。

ではアラン・ファインバーグのピアノで、エドワード・マクダウェル作曲の、コンサート・エチュードです。

[ここで音源] コンサート・エチュード/エドワード・マクダウェル作曲/アラン・ファインバーグ(ピアノ)/使用CD=Argo 436 121-2(アルバム「The American Virtuoso」)/演奏時間=3分51秒

次は、アメリカの印象派と呼ばれております、チャールズ・トムリンソン・グリフィスの作品です。タイトルは《ローマのスケッチ》と言います。グリフィスは、初め、オペラ《ヘンゼルとグレーテル》でおなじみの、ドイツの作曲家フンパーディンクに作曲を教わったのですが、後に、ドビュッシーやストラヴィンスキーといった、より新しい響きのする作曲家に影響を受けるようになりまして、特に今日お送りするようなピアノ作品では、印象派の作曲家、ドビュッシーの影響が強いと申せましょう。マネやモネの絵画に見られるような、ぼんやりとした輪郭の中にある感覚的な訴えの強い作品は、鑑賞する者を捉えずにいられませんが、音楽における印象主義の場合も、なんとなくぼんやりとした感じの中に、豊かな表現がぎゅっと詰まっているのが魅力です。今日は4つの楽章からなるピアノ組曲《ローマのスケッチ》から、<白い孔雀>、<アクア・パオラの噴水>という2つの楽章をお送りするのですが、どちらも孔雀、噴水と、何を描いているのかがタイトルからはっきり分かる一方、そういった描いている対象をあからさまに、はっきり見せつけないところが、絵画にみられる印象主義に似ているのではないかと思います。

では、チャールズ・トムリンソン・グリフィスのピアノ曲、《ローマのスケッチ》から<白い孔雀>、<アクア・パオラの噴水>、以上をロバート・シールズの演奏でどうぞ。

[ここで音源] 《ローマのスケッチ》から<白い孔雀>、<アクア・パオラの噴水>/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/ロバート・シールズ(ピアノ)/使用CD=Vox Box CD3X 3027(3枚組アルバム「Piano Music in America (1900-1945)」からCD1)/演奏時間=5分24秒、3分06秒

3曲目は室内楽なのですが、ちょっと変わった編成、クラリネットとギターのための作品をお送りします。アンドリュー・チャールトン作曲のカプリースです。チャールトンという作曲家、1928年アメリカ生まれで、ギターやリコーダーのための作品を書いているということ以外、ほとんど何も知られていないというのが現実のようですが、CDの解説書を読んでみますと、これからお送りします、カプリースという曲、もともとは奥さんのギターと自分自身が演奏するサキソフォンのためにかかれたそうです。今日お送りします録音では、この作品、作曲者自身がクラリネットとギターのために書き直したものになっております。また、この曲のもとになっている旋律は、チャールトン自身が少年時代に書いた旋律にもとづいているそうです。小さい頃にひらめいたアイディアを大切に、味わい深く作品にしたというのが、この曲を聴いた時の、私の印象でした。

題名のカプリースというのは、日本語では奇抜の奇に想像力の想という漢字を当てて、奇想曲などとも呼んだりしますが、この作品の場合は、自由なひらめきによる幻想的な作品という印象を持たれるかもしれません。

では、ダイアン・ラング・ブラヤンのクラリネット、ジェームズ・スミスのギターで、アンドリュー・チャールトン作曲、カプリースをどうぞ。

[ここで音源] カプリース/アンドリュー・チャールトン作曲/ダイアン・ラング・ブラヤン(クラリネット)、ジェームズ・スミス(ギター)/使用CD=Protone PRCD 1114(アルバム「An American Collage Vol. II」/演奏時間=6分20秒

次は、雰囲気を変えまして、ルー・ハリソンの打楽器オーケストラとオルガンのための協奏曲という曲をお送りします。

ルー・ハリソンはいかにも多彩な文化の交わり合う西海岸の作曲家らしく、洋の東西を問わず、幅広い影響を受けて自分の音楽を作り上げてきた人なんですが、これからお送りします協奏曲なども、そのことを、実にうまく表現しているように思います。オルガンという、西洋の、教会を代表する楽器と、一見あまり関係のないような民俗色いっぱいの打楽器の過激なリズムときらびやかな音色。不思議な世界です。また、これは本当に協奏曲なのか、だとしたら、どちらの側が独奏者でどちらが伴奏なのか、分からない。しかし、作品の方はそんなことを忘れさせるくらい、ノリノリで楽しいものです。

では、デヴィッド・クレイグヘッドのオルガン、ロサンゼルス打楽器アンサンブルの演奏で、ルー・ハリソンの打楽器オーケストラとオルガンのための協奏曲から、時間の都合で、5つの楽章から第1楽章をお送りします。

[ここで音源] 打楽器オーケストラとオルガンのための協奏曲から第1楽章/ルー・ハリソン作曲/デヴィッド・クレイグヘッド(オルガン)、ロサンゼルス打楽器アンサンブル/使用CD=Crystal CD850/演奏時間=5分57秒

最後は木管合奏による作品をお送りします。デヴィッド・アムラン作曲の木管五重奏曲です。アムランの名は、昨年の3月に、《<赤い河の谷間>による変奏曲》をお送りしたので、もしかしたらご記憶の方もいらっしゃるとは思うのですが、アメリカ民謡を巧みに盛り込んで、楽しい作品の数々を作っています。この曲の場合も、メリーランド、私のメリーランドという愛国歌が使われているそうで、形式的には、主題と変奏になっています。また、途中でちょっと、あれっという場所がありますので、これもお楽しみに。

ではさっそく、デヴィッド・アムラン作曲、木管五重奏曲から、3つの楽章のうちの第3楽章、主題と変奏曲をどうぞ。演奏はベーム木管五重奏団です。

[ここで音源] 木管五重奏曲から、第3楽章/デヴィッド・アムラン作曲/ベーム管楽五重奏団/使用CD=Premier PRCD 1023(アルバム「American Winds Volume Two: Jam Session」)/演奏時間=9分22秒


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