Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2001年1月27日アップロード



これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2001年1月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学院の谷口です。

今月の現代アメリカ音楽講座は、数あるアメリカ音楽作品の中から、乗り物をテーマにした作品をお届けしたいと思います。

まず1曲目は、車から始めましょう。1871年、マサチューセッツ州に生まれた、フレデリック・シェパード・コンヴァースという人の曲で、タイトルは、《安自動車1000万台:楽しい英雄伝》といいます。

これは、アメリカの自動車産業を築き上げたフォード自動車会社の作った、一般向け車の大ヒットモデル「T型車」が、題材となったものです。フォード自動車会社の創始者、ヘンリー・フォードは、流れ作業や分業化を導入し、車の大量生産に成功。当時は10秒に1台、この「T型車」を作ることができるという伝説もあったくらいです。これによって、以前、庶民には全く手の届かなかった車が、多くの人の手に渡るようになった、ということで、フォードは車の民主化を促進したとされております。

さて、コンヴァースの《安自動車1000万台》ですが、副題は、「第1000万台目のフォード車が、ただいま、新しい持ち主の方のためにお仕え申し上げるところです」と言った感じになっています。曲全体は、細かい場面に分かれておりまして、それをまとめてご説明しますと、まず、車工場のあるデトロイトに朝がやってきます。町に活気が溢れてきますと、労働者たちが行進してまいります。工場が始動して、車作りの騒音がこだまし、やがてクラクションの音を合図に、フォードの英雄「T型車」の登場となります。

物語は工場を離れ、車の買い手の方に移ります。夜景を見ながらのロマンチックなドライブ、楽しい昼の走行、しかし、思わぬ衝突事故。アメリカの悲劇です。しかし、最後は車に代表されるアメリカン・スピリッツが、フォード車のクラクションとともに高らかと表現されます。

では、この流れを念頭に起きながら、聞いてください。フレデリック・コンヴァースの《安自動車1000万台:楽しい英雄伝》、演奏は、ジョージ・メスター指揮の、ルイヴィル交響楽団です。

[ここで音源] 安自動車1000万台:楽しい英雄伝/フレデリック・コンヴァース作曲/ジョージ・メスター指揮ルイヴィル交響楽団/使用CD=Albany TROY030-2/演奏時間=12分50秒

2曲目は、車は車でも、ちょっと小さな乳母車を題材にした作品をお送りします。1876年、イリノイ州に生まれた、ジョン・オーデン・カーペンターという人の、《乳母車の冒険》という曲 です。

カーペンターは、イギリスの大作曲家、エルガーにも作曲を教わったようですが、この《乳母車の冒険》、しっかりとした西洋風の作曲技術に加え、色彩豊かで、どこかしら、アメリカのアニメにも使われそうな素朴な味わいがあります。また、この作品は、作曲者カーペンター自身の幼少時代を回想して作られたそうで、全体は6つの楽章からなっております。今日は、そのうちから、まず第1楽章、<乳母車に乗って>。赤ちゃんは、本当は自分一人で広い外の世界を楽しみたいんですが、残念ながら、その願いはかなえられません。でも、やさしい看護婦さんが一緒です。たのしそうな看護婦さんの足音を聞きながら、わくわくした冒険の感じが表現されています。

続いて第5楽章の<ワンちゃんたち>。ちいさい犬・おおきい犬。姉妹の犬・親子の犬。笑ったり、けんかしたり、はしゃぎまわったり。最後は一列になって、さようなら、そんな感じが曲になっているそうです。

では、ジョン・オーデン・カーペンター作曲の《乳母車の冒険》から、<乳母車に乗って>と<ワンちゃんたち>を、ハワード・ハンソン指揮イーストマン管弦楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] 《乳母車の冒険》から<乳母車に乗って>と<ワンちゃんたち>/ジョン・オーデン・カーペンター作曲/使用CD=Mercury 434 319-2/演奏時間=2分57秒、3分42秒

乗り物の特集、今度は蒸気機関車を取り上げます。1970年生まれの作曲家、エリック・ウィタカーの《幽霊列車》です。

この「幽霊列車」、見捨てられたゴースト・タウンや人気のない峡谷に、夜になると現われるそうで、何やら不気味な音を出して「ばく進」します。全体は3つの部分からなる吹奏楽の大曲なのですが、今回はそのうち、もっとも蒸気機関車の描写がはっきりと楽しめる第1部をお送りします。

では、ジョン・ロック指揮ノース・キャロライナ大学グリーンズボロー校ウインド・アンサンブルの演奏で、エリック・ウィタカーの、《幽霊列車》から、第1部をどうぞ。

[ここで音源] 《幽霊列車》から、第1部/エリック・ウィタカー作曲/ジョン・ロック指揮ノース・キャロライナ大学グリーンズボロー校ウインド・アンサンブル/使用CD=ノース・キャロライナ大学グリーンズボロー校音楽学部 CD-102/演奏時間=5分35秒

乗り物特集、最後は、飛行機とまいりましょう。ノーマン・デロ=ジョイオの《空軍》という作品です。これは、CBSテレビと米国空軍とが共同で制作したテレビのドキュメンタリー番組だったのですが、デロ=ジョイオのその音楽をまとめて、交響組曲を作りました。番組は、飛行機の発明から、太平洋戦争における米国空軍の活躍を描いた、歴史的なものだったようですが、今回お送りしますのは、デロ=ジョイオが作った40分弱の交響組曲から、3つの部分を選んだものです。

まずは、空を勇壮に行く飛行機の姿が浮かんできそうな美しいメロディーが印象的な<序曲>、2つ目は一転して、命をかけた激しい闘いの場面を描いた<空中戦>、そして、闘いのあとの静けさが戻る<無事帰還>。今日は、この3つの部分を、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏でお楽しみいただきます。

では、ノーマン・デロ=ジョイオの《空軍》をどうぞ。

《空軍》から<序曲>、<空中戦>、<無事帰還>(注1)/ノーマン・デロ・ジョイオ作曲/ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団/使用CD=Albany TROY250/演奏時間=2分27秒、8分23秒

注1)2曲目、3曲目は切れ目なしに演奏されている。


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