Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2000年11月25日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年11月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


みなさんこんにちは。フロリダ州立大学の谷口です。

今月の現代アメリカ音楽講座は、久しぶりに、テーマを決めないでお送りする、いわゆる「徒然なるまま」のアメリカ音楽のご紹介です。

まずは、1961年、ミルウォーキー生まれのマイケル・トーキーの作品から、ご紹介しましょう。

マイケル・トーキーは、最近アメリカで、最も人気のある作曲家の一人で、昨年は、あのウォルト・ディズニー社から、新ミレニアムを祝う交響曲の作曲を依頼されたほどでした。その作風は、たいへん親しみやすく、楽しいもので、いわゆる「現代音楽」の枠組みの中ではとらえにくい作曲家ではないかと思います。

今日お送りしますのは、《ジャヴリン》という1994年の作品なんですが、このタイトルのジャヴリンというのは、作曲者トーキーのお父さんが1970年代に乗っていた車のなまえだそうです。そのタイトルが、具体的にどう音楽に反映されているのかは、ちょっと分からないんですが、曲自体は、さわやかですがすがしいものです。もともとは、ジョージア州にあるアトランタ交響楽団の創立50周年を記念して委嘱されたものなのですが、その委嘱先というのが、アトランタのオリンピック委員会でした。みなさまご存じの通り、4年前のオリンピックはアトランタで行われたんですが、トーキーがジャヴリンという曲を作った時、すでに彼の頭のなかには、お父さんの車だけではなく、オリンピックで勇敢に活躍する選手たちのことが頭にあったようです。それは実際に音楽を聴いてみると分かるのではないかと思います。

では、マイケル・トーキー作曲の《ジャヴリン》を、ヨエル・レヴィ指揮アトランタ交響楽団の演奏でどうぞ。

[ここで音源] ジャヴリン/マイケル・トーキー作曲/ヨエル・レヴィ指揮アトランタ交響楽団/使用CD=Argo 452 101-2/演奏時間=8分30秒

2曲目は、ポール・シェーンフィールドという人の作品をご紹介します。1947年生まれのシェーンフィールドは、大学時代に数学を勉強していたそうなんですが、音楽にも強い興味をもっていたようで、その関心はジャンルの枠を超え、幅広いものになっていたようです。

今日お送りしますののは、特にアメリカのポピュラー音楽の影響の強い、オーケストラ作品、《4つの寓話》から、2つの楽章です。

最初は第1楽章で、タイトルは「あの殺人者が俺たちを殺すまでのそぞろ歩き」となっています。これは、刑務所で70歳を迎えた連続殺人犯の釈放を巡って持ち上がったディベートに対する、作曲者シェーンフィールドの思いをつづったものとされています。犯罪者にあふれたアメリカの刑務所で、おそらく年老いた囚人をやむなく出所させることがあったのでしょうけれど、そういった警察なり、裁判所の判断というのは、仕方がないのかもしれませんが、それでは犠牲になった方々は浮かばれないし、出所した犯人が、たとえ老人であろうとも、どれだけ安全なのか分からない。おそらくそういった問題が曲のテーマになっているのではないでしょうか。

続きまして第2楽章は、「老齢者の行く末」というタイトルがついています。作曲者シェーンフィールドの友人に、随分年輩の方がいらしたようですが、この曲は、そのご老人が若かりし頃のことをノスタルジックに回顧している様子が描かれているようです。元気いっぱいだったころの自分、ダンスが大好きだった自分、南アメリカで楽しい生活をしていた自分。いまはそのすべてが失われてしまった、そういうことを表現しているようです。

こういった内容を知らず曲を聴きますと、いま申し上げた、社会的問題の重みや、老いた人の悲しさなどというものは、もしかすると、ちょっと伝わりにくいのかもしれませんが、しかし音楽をただ聴くというだけでも、ポピュラー音楽の影響が色濃くでた、一種のピアノ協奏曲といった趣のある作品だと思います。

では、ポール・シェーンフィールド作曲の《4つの寓話》から、第1楽章「あの殺人者が俺たちを殺すまでのそぞろ歩き」、第2楽章「老齢者の行く末」をお送りします。演奏はジョン・ニルソン指揮ニューワールド交響楽団です。

[ここで音源] 4つの寓話から、第1楽章「あの殺人者が俺たちを殺すまでのそぞろ歩き」、第2楽章「老齢者の行く末」/ポール・シェーンフィールド作曲/ジョン・ニルソン指揮ニューワールド交響楽団/使用CD=Argo 440 212-2/演奏時間=5分30秒、7分36秒

3曲目は、ハリウッド映画「ベン・ハー」でおなじみの、ハンガリー系の作曲家、ミクロス・ローザの作品をお送りします。タイトルは、《ハンガリーの夜想曲》です。

ご存じの通り、アメリカは多国籍国家でありまして、さまざまな民族の人たちがあつまっております。ミクロス・ローザ、ハンガリー風にはミクロシュ・ロージャと発音すべきなんでしょうが、彼は1907年4月18日ブタベストにうまれ、ドイツに学び、フランスにも渡っております。ですから、作曲のテクニック的にはヨーロッパのいろんな音楽の影響を受けており、一慨にハンガリー人だから、というのは単純すぎるのかもしれません。

今日お送りする《ハンガリーの夜想曲》なのですが、タイトルを見れば、確かにこの作品がハンガリーを意識した作品であることは間違いないし、音の響きにハンガリーを聴くことも不可能ではないのでしょう。しかし作曲者のローザは、特定のハンガリー民謡を印象した訳ではありません。そういった意味ではバルトークが、自国の民謡の音を詳細に研究して新しい音の響きを作り出そうとした動きとは直接関係しておりません。むしろヨーロッパの主流の音楽を学びながら、その中で自己の表現をしていく、いわゆる国民楽派風なアプローチをしているといえると思います。

では、そんなミクロス・ローザの、映画音楽作曲家らしい香り豊かなオーケストラ作品、《ハンガリーの夜想曲》をお聴きいただきましょう。演奏はジェームス・シダーレス指揮ニュージーランド交響楽団です。

[ここで音源] ハンガリーの夜想曲/ミクロス・ローザ作曲/ジェームス・シダーレス指揮ニュージーランド交響楽団/Koch International Classics 3-7191-2 H1/演奏時間=9分39秒

今日最後は、レナード・バーンスタイン作曲の《スラヴァ!》という曲をお送りします。題名のスラヴァというのは、世界的に有名なチェロ奏者ムスティスラフ・ロストロポーヴィチのあだ名で、彼が1977年、ワシントンにあるナショナル交響楽団の音楽監督になったのを祝って書かれたのが、この《スラヴァ!》という曲です。

副題には「政治的序曲」とありまして、実際、政治家の演説なども聞こえてくるのですが、これはおそらくワシントンという土地柄を意識したものでしょう。

では、作曲者レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、《スラヴァ!》をどうぞ。

[ここで音源] スラヴァ!/レナード・バーンスタイン作曲/レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=Deutsch Grammophon 447 955-2/演奏時間=4分08秒


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