Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2000年10月1日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年9月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆さん今日は。フロリダ州立大学院の、谷口です。

今月の「現代アメリカ音楽講座」は、昨年秋にニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団から、自主制作盤として発売された10枚組のCD、「アメリカの祝祭」から、私が独断と偏見で選んだ、アメリカ音楽をお送りいたします。

ニューヨーク・フィルは、ここ数年、自主制作のCDに力を入れておりまして、これまでも、「歴史的ラジオ放送1923年から1987年」というのと、「マーラーの歴史的放送」と、2つのシリーズを出しております。今日お送りするのは、第3弾「アメリカの祝祭」で、1940年代から昨年99年までの録音の中から、アメリカ音楽のみを集めたシリーズなのです。

実は、こういった自主制作のCD、他のオーケストラも創立記念の年などに発行してきたことがあるのですが、アメリカ音楽だけのものは、これが初めてだろうと思います。アメリカ音楽の録音というのは、商業的に出回っているものも少なくないのですが、なぜか旧ソビエトや東ヨーロッパの、録音に比較的お金のかからないオーケストラが演奏しているものが多く、アメリカの作品を演奏するアメリカのオーケストラがいないと、しばしば批判されてきたんです。

そういった文脈で捉えますと、このニューヨーク・フィルの10枚ものアメリカ音楽のCDというのは、実に画期的な企画と言えましょう。事実、これまで、アメリカ国内で、大きな話題になっております。

今日はその中10枚組のCDの中から、レナード・バーンスタイン1958年の録音で、ジョージ・チャドウィックの《メルポメネ》序曲というのをお送りしましょう。

チャドウィックはマサチューセッツ州に1958に生まれ、1931年にボストンで亡くなった作曲家で、アメリカのクラシック音楽の基礎を作り上げた人の一人といってよいでしょう。ニューイングランド音楽院で学長をしていたこともあります。これからお送りします、《メルポメネ》序曲の「メルポメネ」というのは、古代ギリシャの女神で、特に悲劇を司る役割を果たしているのだそうです。それ以上詳しい作品内容について、チャドウィックは語っておりませんが、入念なドラマ作りが作品を聴いただけでも、ある程度はつかめるのではないかと思います。また、曲の題材ですが、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、アメリカの教養人の知的な関心が、自国アメリカよりも、ヨーロッパ文化に向いていたことが、音楽の響きからも、分かると思います。

では、レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団で、ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックの演奏会用序曲《メルポメネ》をどうぞ。

[ここで音源] 序曲《メルポメネ》(演奏会用序曲)/ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィック作曲/レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=New York Philharmohic: An American Celebration, Vol. 1, Disc 1/演奏時間=13分11秒

次は、ピエール・モントゥー指揮で、ウィリアム・グラント・スティルという人の《古き良きカリフォルニア》という曲をお聞きいただきます。スティルは、アメリカクラシック音楽史の主流に登場する、数少ない黒人の作曲家なのですが、持ち前のアフリカ系の音楽伝統を、ヨーロッパのクラシックに織り込んだ作品を多く書いております。しかし一方で、スティルは、アレンジャーとしても腕がありまして、《古き良きカリフォルニア》におきましても、管弦楽の色彩豊かさや、鳴らせ方のうまさに感心いたします。

曲はまず、打楽器のリズムによる、先住民(いわゆるインディアン)の音楽によって始まります。続いて南米経由のスペイン人が移住。民族音楽マリアッチの音楽を背景に、祭がはじまります。やがてイギリス系移民がやってきて、戦争のつらさを体験し、それがやがて、現在へと感動的につながっていきます。

では、ピエール・モントゥー指揮のニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ウィリアム・グラント・スティルの《古き良きカリフォルニア》をどうぞ。1944年の録音です。

[ここで音源] 古き良きカリフォルニア/ウィリアム・グラント・スティル作曲/ピエール・モントゥー指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=New York Philharmohic: An American Celebration, Vol. 1, Disc 4/演奏時間=8分40秒

最後は、ジャズのミュージシャンの中で、演奏家としてだけでなく、斬新な作曲家として有名だった、デューク・エリントンの作品を聴いてみましょう。曲名は《音によるハーレム》といいます。ニューヨークの黒人居住地区、ハーレムは、エリントンがかつて住んだこともある、心の故郷でありまして、その地に因んだ曲も随分作っているようですが、この、ジャズ・アンサンブルとオーケストラのための《音によるハーレム》は、もともとアルトゥーロ・トスカニーニとNBC交響楽団によって委嘱されたのだそうです。

お送りする演奏ですが、昨年デューク・エリントンの生誕100年を記念して行われたコンサートのライブ録音です。ジャズのミュージシャンは、古いジャズのスタイルを現代に引き継ぐウィントン・マルサリスのリードによる、リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ、そしてオーケストラの方は、クルト・マズア指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団です。音楽のジャンルの壁を超えた、コクのある作品です。

[ここで音源] 音によるハーレム/デューク・エリントン作曲、ウィントン・マルサリス補作/クルト・マズア指揮リンカーン・ジャズ・オーケストラ、ウィントン・マルサリス(トランペット、ジャズ・オーケストラのリード)、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=New York Philharmohic: An American Celebration, Vol. 2, Disc 1/演奏時間=13分24秒


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