Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2000年10月6日アップロード


これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年9月に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆さん今日は。フロリダ州立大学院の、谷口です。

今月の「現代アメリカ音楽講座」は、北米大陸に戻りまして、バラエティーに富んだアメリカ音楽をお送りしたいと思います。

テーマなのですが、そのバラエティー・多様性ということに注目いたしまして、いろんなものを取り込んで音楽作品にしている興味深い作曲家を、今日はとりあげてみたいと思っています。「びっくりばこ音楽」といった感じのものといえましょうか。

まずは、ジョージ・アンタイルという人の作った交響曲第1番から、第2楽章をお送りします。

ジョージ・アンタイルは、1920年代、「音楽の不良少年」を自称した作曲家でありまして、彼の代表作《バレエ・メカニーク》は、ピアノ10台に、プロペラ飛行機のエンジン、打楽器という奇抜な編成のために書かれました。初演が行われたパリでは、もうそれは大変な騒ぎになったそうで、まさに「不良少年」の面目躍如たるところがあったということです。

そのアンタイルの音楽といいますのは、あちこち文脈のないところから、いろんな音楽を取ってきては並べる接ぎ木細工のようなものなのですが、その作品の楽しみというのは、おそらくその使った木の一つ一つ、つまり持ち込んだ音楽のオリジナルの面白さと、それをどう組み合わせるか、組み立て方の巧みさにあるのではないかと思います。これからお聞きいただきます第1交響曲などは、香り高い10・20年代の音楽が次々と現れ、その脈略のなさに、しばし、これが交響曲の第2楽章であることを忘れてしまいまうのですが、かえってその独特な音楽のつなぎ方に面白さがあるようです。また、クラシック音楽に詳しい方でしたら、この曲にイーゴル・ストラヴィンスキーや、オットリーノ・レスピーギの影響があることを感じ取られると思います。実はこの曲を書いたアンタイルにとって、ストラヴィンスキーは英雄のような存在であったと言われているのです。

では、ヒュー・ウルフ指揮フランクフルト交響楽団の演奏で、ジョージ・アンタイルの交響曲第1番から、第2楽章をどうぞ。

[ここで音源] 交響曲第1番より、第2楽章/ジョージ・アンタイル作曲/ヒュー・ウルフ指揮フランクフルト交響楽団/使用CD=CPO 999 604-2/演奏時間=9分35秒

2曲目は、ずっと最近の作品をお送りしたいと思います。カール・ストーンという人の《神谷バー》という曲です。カリフォルニアで活躍するカール・ストーン、シンセサイザーとパソコンを使って音楽作りをしてきておりますが、日本にも大変強い感心を寄せております。今日お送りします《神谷バー》という曲のタイトルも、どうやら浅草にある飲み屋の名前から来ているそうでして、内容的には、東京滞在中に、街の中で、あるいはテレビやラジオから拾ってきた音をビートに乗せて展開するといった感じの作品になっています。ストーンは、日本語が堪能という訳ではないようなのですが、そのため、日本人にとっては当り前のように聞こえる素材が、ものすごく新鮮に聞こえたりもするようです。これからお送りしますのは、全曲約50分の中から、約10分くらいの部分で、この部分では、東京は築地市場で魚をセリにかけている人の、独特なダミ声がラップ風に展開します。アメリカ人のストーンは、あまり意味も分からずにコンピュータでこの声を操作しているようですが、なかなか微笑ましいものを感じます。

では、カール・ストーンの《神谷バー》、1992年の作品から、その一部をお聞き下さい。

[ここで音源] 《神谷バー》から/カール・ストーン作曲/カール・ストーン(サンプリング、コンピュータ操作)/使用CD=New Tone 129806739 0/演奏時間=約10分

3曲目は、年代的には最も古いのですが、発想自体は飛び抜けて新しかったチャールズ・アイヴズの作品から、交響曲第2番の最終楽章をお送りします。

アイヴズはイエール大学で作曲を勉強しているのですが、卒業してからは保険会社を設立し、仕事の合間を縫って作曲をしました。会社のビジネスの方は大成功で、そのため作曲でお金をかせぐ必要がなかったアイヴズは、世間の流行にまどわされることなく、自分の思う通りの作品を書くことができました。

交響曲第2番は、社会人になってから、初めての大作でして、当時アメリカの作曲界・あるいは音楽界全体がヨーロッパ指向だったのに対し、アイヴズは、自分が幼いころに聴いた、素朴な人たちの音楽をふんだんに盛り込みました。

この結果できあがったのは、フォスターの愛唱歌、南北戦争の軍楽隊の奏でる行進曲、教会の賛美歌などで、そういったあらゆる音楽が渾然一体となって、現れては消えていく楽しい音楽になっています。

では、チャールズ・アイヴズの交響曲第2番、5つの楽章のうちの最終楽章・第5楽章をお聴きいただきましょう。演奏はレナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団です。

[ここで音源] 交響曲第2番より、第5楽章/チャールズ・アイヴズ作曲/レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=Deutche Grammophon 129 220-2/演奏時間=10分05秒

今日、いままでお送りした作品、いろんな音楽が飛び出してくるものばかりで、ちょっと目が回るような展開だったかもしれません。最後は、ちょっと一息つきまして、リラックスできる音楽を2曲ほどお送りします。まずは、デヴィッド・ローズという人の《弦楽のための休日》です。そして、それに続きまして、おなじみルロイ・アンダーソンの《舞踏会の美女》です。特にびっくりするところはないと思いますので、安心してお聴き下さい。演奏はロナルド・コープ指揮の新ロンドン管弦楽団です。[ここで音源] 弦楽のための休日/デヴィッド・ローズ作曲/ロナルド・コープ指揮新ロンドン管弦楽団/使用CD=Hyperion CDA 67067/演奏時間=3分14秒

[ここで音源] 舞踏会の美女/ルロイ・アンダーソン作曲/ロナルド・コープ指揮新ロンドン管弦楽団/使用CD=Hyperion CDA 67067/演奏時間=2分51秒


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