これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年7月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。
日本は今、夏本番といった感じなのでしょうか。私が住んでいるアメリカ南部のフロリダは、春が短く、5月半ばくらいから、クーラーのいる生活が始まっています。
こういった暑い季節には、冷たいものを食べるのが、涼しくて良いのでしょうけれど、あえて熱いものを汗をかきながら食べるというのも、これまた一興ではないかと思います。そこで、今回の「現代アメリカ音楽講座」は、そんな暑い毎日にぴったりの、血湧き肉踊る、ラテン・アメリカ、つまりポルトガルやスペインの色を持った南アメリカの音楽、あるいは北アメリカ、アメリカ合衆国の作曲家による、ラテン・アメリカを題材とした作品をお送りしたいと思います。
まずは、メキシコの作曲家、カルロス・チャベスの交響曲第2番<<シンフォニア・インディア>>をお送りしましょう。シンフォニア・インディア、文字通り訳しますと、<<インドの交響曲>>ということになるのでしょうが、もちろんこれは、アジアの国インドのことではなく、南米の先住民族インディオのことを指しています。北米大陸では、俗にインディアンと呼ばれている人たちのことです。
実際に作品を聴いていただくと分かるのですが、音楽的には、元気の良いメキシコのリズムが前面に出てきています。しかし、例えば、打楽器の中にシャラシャラ・ガラガラと鳴るものが入っています。これは、南米の先住民族インディオが水晶の玉を瓢箪(ひょうたん)の中に入れて鳴らす楽器で、インディオの神聖な儀式には欠かせないものなのだそうです。ラテン・アメリカの音楽は、北米の人間から見ると、エキゾチックな響きがするんですが、この作品は、そこに、もうひとひねりしてある、といった感じでしょうか。
では、レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、カルロス・チャベスの、一楽章形式の交響曲、<<シンフォニア・インディア>>、12分あまりの作品をどうぞ。
[ここで音源] シンフォニア・インディア(第2交響曲)/カルロス・チャベス作曲/レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/使用CD=Sony Classical SMK 60571/演奏時間=11分58秒 |
今日第2曲目は、北アメリカの作曲家、モートン・グールドの<<ラテン・アメリカン・シンフォネット>>です。
1913年に生まれ、1996年に亡くなった、モートン・グールド。実は本国アメリカでは、名前のよく知られた作曲家です。ナチス・ドイツのホロコーストを扱ったテレビ番組の音楽など、シリアスな作品も書いておりますが、おそらく彼の名が知られているのは、南北アメリカのポピュラー音楽・ダンス音楽を使った、親しみやすいオーケストラ作品を通してではないでしょうか。
これからお聴きいただきます<<ラテン・アメリカン・シンフォネット>>、おそらく<<ラテン・アメリカ風の小交響曲>>といった訳になるんでしょうが、ルンバ、タンゴ、コンゴといった、香り高く、時に過激なダンスの雰囲気を、良く伝えております。
では、モートン・グールドの<<ラテン・アメリカン・シンフォネット>>から、今回は時間の都合で、アルゼンチンのタンゴを使った第2楽章、黒人キューバの踊り、コンガを使った第4楽章を聴いていただきましょう。演奏は、作曲者モートン・グールド指揮、ロンドン交響楽団です。
[ここで音源] <<ラテン・アメリカン・シンフォネット>>から、第2楽章<タンゴ>、第4楽章<コンガ>/モートン・グールド指揮ロンドン交響楽団/使用CD=Citadel CTD 881301/演奏時間=5分22秒、5分33秒 |
3曲目は、ちょっと雰囲気を変えましょう。ブラジルの作曲家、エイトール・ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ」第5番です。1887年生まれで、1959年に亡くなったヴィラ=ロボスは、ほとんど独学で作曲を学んだそうですが、自国ブラジルの音楽伝統に魅了され、やがて国立音楽学校の創設にも一役買いました。彼は南北アメリカ大陸・あるいはヨーロッパで、自分の作品を指揮してまわったようなのですが、その作品には、つねに故郷への思いが現われていたようです。1930年から45年にかけて、ヴィラ=ロボスは、西ヨーロッパのバロック時代を代表する作曲家バッハの音楽様式で、ブラジルの心を表現する<<ブラジル風バッハ>>というシリーズを作っておりまして、そのシリーズの一つ一つが、違った編成で書かれています。例えば第1番は、チェロ合奏、第6番はフルートとファゴット、第9番は無伴奏(ア・カペラ)の合唱のために書かれております。そして今日お送りする第5番は、ソプラノと8台のチェロのために書かれているのですが、冒頭のスキャットに引き続き、スペイン語の歌詞、1題目はこんな感じです。
夕べに、薔薇色の雲が、ゆっくりと光沢を持って、素敵な夢心地の空に浮かんでいる。その無限の世界に、月がやさしく昇ってくる。夜を賛えるために。それはまるで、やさしい少女が、夢見心地に着飾り美を添えるかのようだ。心の中で、自分が美しく見えますように、と願いながら。そして、天と地に向かって、自然のすべてに向かって涙を流しながら。
では、ヴィクトリア・デ・ロス=アンヘレスのソプラノ、作曲者ヴィラ=ロボス指揮フランス国立放送管弦楽団の演奏で、<<ブラジル風バッハ>>第5番から、第1楽章<アリア(カンティレーナ)>をどうぞ。
[ここで音源] <<ブラジル風バッハ>>第5番から、第1楽章<アリア(カンティレーナ)>/エイトール・ヴィラ=ロボス作曲/ヴィクトリア・デ・ロス=アンヘレス(ソプラノ)、エイトール・ヴィラ=ロボス指揮フランス国立放送管弦楽団/使用CD=EMI Classics 7243 5 66964 2 6/演奏時間=6分21秒 |
今日最後は、シンシナティー・ポップス管弦楽団による、ラテンアメリカのポピュラー音楽のアレンジをお楽しみいただきましょう。まずは1939年、アリー・バローゾがヒットさせたサンバ
<<ブラジル>>、2曲目はバリー・マニロー、1978年の<<コパカバーナ>>です。にぎやかな打楽器と独特の興奮感をもったラテン・アメリカの世界に浸ってください。それでは、以上2曲を、エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス管弦楽団でどうぞ。
[ここで音源] ブラジル(サンバ)/アリー・バローゾ(トミー・ニューソム編曲)/エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス管弦楽団/使用CD=Telarc CD-80235/演奏時間=3分22秒 [ここで音源] コパカバーナ/バリー・マニロー(トミー・ニューソム編曲)/エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス管弦楽団/使用CD=Telarc
CD-80235/演奏時間=3分45秒
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