Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2000年5月28日アップロード



これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年5月第4週に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆さん今日は。フロリダ州立大学の、谷口です。

先週の放送では、日本でもおなじみのアメリカ音楽を、現代アメリカ音楽入門編といった感じでお送りしました。すこしでも、アメリカのクラシック音楽の感じが分かっていただけると幸いです。懐の暖かさを感じる素朴なフォスターの歌曲や、アメリカの壮大な自然を題材にしたグローフェの「グランドキャニオン組曲」、ジャズを使ったガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」をお送りしました。

クラシック音楽というのは、ヨーロッパから来たものであることは皆さんも、よくご存じのことと思いますが、そのヨーロッパからの移民が多数民族となったアメリカが、前回お送りしたような、アメリカ独自のクラシックを作り上げようと努力したというのは、興味深いですね。私は、時々漠然と「欧米」という言葉を使ってしまうことがあるんですが、アメリカの作曲家の中には、そういう風に、ヨーロッパとアメリカをひと括りにして考えてほしくない、という考え方があったのでしょうか。

しかし一方でアメリカのクラシック音楽の歴史をひもといてみますと、耳にははっきりと分かる形で、そういうアメリカらしさがわかるクラシック音楽というのは、20世紀に入って2、30年くらいたってからのことでした。それまでは、アイヴズという作曲家をのぞいては、作曲の世界では、いかにヨーロッパ流の音楽を書くのか、というのが大きな課題になっていました。

以前にも、ヨーロッパ流のアメリカ音楽についてはお送りしたことがありましたが、どうやら、この辺りの音楽、あまり日本では知られていないようですので、今日はその「ヨーロッパ流のアメリカ音楽」第3弾をお送りしたいと思います。

まず最初は、1853年、マサチューセッツ州に生まれたアーサー・フートという作曲家をご紹介しましょう。オルガニストとしても才能があり、ニューイングランド音楽院の先生でもあったフートは、シューマンやブラームスを思わせる、かっちりとしたロマン派の音楽の流れを汲んでいるようです。これからお聞きいただきます、ヴァイオリン・ソナタ ト短調作品20でも、ヨーロッパ流の音楽を端正に消化吸収し、表情豊かな音楽が聞けると思います。それでは、1889年に書かれたアーサー・フートのヴァイオリン・ソナタから、アレグロ・アパッショナートと題された第1楽章をお聞きいただきましょう。演奏は、ケヴィン・ローレンスのヴァイオリン、エリック・ラールセンのピアノです。

[ここで音源] ヴァイオリン・ソナタから、第1楽章 アレグロ・アパッショナータ/アーサー・フート作曲/使用CD=New World 80464-2/演奏時間=6分02秒

次は「アメリカの印象派」などとも呼ばれる、チャールズ・トムリンソン・グリフィスの「フビライ汗の快楽殿」という作品をご紹介しましょう。グリフィスは、初めドイツに留学し、オペラ「ヘンゼルとグレーテル」で有名なフンパーディンクという作曲家に師事しました。後期ロマン派から世紀末のドイツ文化にどっぷりつかったグリフィスは、リヒャルト・シュトラウスやマーラーを思わせるような和音を使って、オーケストラ伴奏つきの歌曲などを書いていました。しかし、途中で方向転換し、今度はフランス・印象派、ドビュッシーやラヴェルのニュアンスを彷彿とさせる音楽を書き始めます。これからお送りします、「フビライ汗の快楽殿」という作品、フランスの印象派の特徴の一つ、「異国趣味」の影響を受けたのかもしれません。13世紀モンゴル帝国の創始者のフビライ・ハンの宮殿、快楽殿を扱ったこの作品、幻想的な風景が物語風に展開すうで、宮殿近くを流れるアルプ川、城壁や塔によって守られた快楽殿、曲がりくねった小川のせせらぎも美しい庭園、樹木(じゅもく)生い茂る森、宮中で催されている宴(うたげ)の様子などが綴られています。

それでは、チャールズ・トムリンソン・グリフィスの表情豊かな作品、「フビライ・ハンの快楽殿」、ジェラルド・シュワルツ指揮シアトル交響楽団の演奏で、どうぞ。

[ここで音源] フビライ汗の快楽殿/チャールズ・トムリンソン・グリフィス作曲/ジェラルド・シュワルツ指揮シアトル交響楽団/Delos DE 3099/演奏時間=10分48秒

今日最後は、1839年にメイン州ポートランドに生まれた、ジョン・ノウレス・ペインの作品をお送りします。ペインは地元ポートランドで、ドイツ移民の音楽家たちに音楽を学んだ後、18歳には、自らドイツに渡り、1861年に帰国しています。それからはハーヴァード大学に職を得たのですが、彼の業績として忘れてはならないのは、このハーヴァード大学に音楽科を創設したことでしょう。ここからは、今日、はじめに聴いていただいた、アーサー・フートやレナード・バーンスタインなどが輩出しているからです。

今回お送りしますのは、1878年に書かれた、ペインの第2交響曲です。「春に」と題された、4つの楽章からなる交響曲の、それぞれの楽章にも、タイトルがついておりまして、例えば、第1楽章は、「過ぎ去る冬」、第2楽章は「自然の目覚め」、第3楽章は「五月の夜の幻想曲」そして、これから聴いていただきます第4楽章は「偉大なる自然」となっております。

音楽的には、ドイツ留学の成果が遺憾なく発揮されており、ペインがアメリカ生まれであることを知らなければ、19世紀ヨーロッパの交響曲と思われるかもしれません。しかし、1878年のアメリカに、すでに、こういう作曲家がいたということは、注目しておいてもいいのではないかと思います。

それでは、ジョン・ノウレス・ペインの交響曲第2番「春に」から、第4楽章をお聞きいただきましょう。演奏は、ズビン・メータ指揮のニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団です。

[ここで音源] 交響曲第2番「春に」から、第4楽章/ジョン・ノウレス・ペイン作曲/ズビン・メータ指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/New World/演奏時間=10分35秒


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