Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2000年5月21日アップロード



これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年5月第3週に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆様こんにちは、フロリダ州立大学院の谷口です。

今回の現代アメリカ音楽講座は、新しい年度になってから最初の回ということで、アメリカのクラシック音楽では、すっかりのおなじみの曲をあえてお送りし、日本で有名なアメリカ音楽を、とりあえず押さえておこうという企画です。

アメリカのクラシック音楽、そういうものがそもそもあるのか、という風に思われる方も、実は多いのかな、と思う時があります。アメリカといえば、何といっても、ジャズやロックといったポピュラー音楽を現在もリードする存在です。一方でニューヨーク・フィルやボストン交響楽団といったオーケストラやメトロポリタン歌劇場のような立派な演奏団体を持ったアメリカ、ヨーロッパの音楽を堪能するには、充分手応えのある国なのですが、それでは作曲家というと、どういう人が浮かび上がりますでしょうか。もしかすると、こういうイメージかもしれません。

[ここで音源] ケンタッキーのわが家(冒頭)/スティーヴン・フォスター作曲/ロジェ・ワーグナー合唱団/

いまお送りしましたのは、スティーヴン・フォスターの「ケンタッキーのわが家」でした。この作品、テレビコマーシャルにも使われているため、すっかりおなじみになってしまいました。特に日本では、今聞いていただいたロジェ・ワーグナー合唱団による演奏が広く知られているため、フォスターはクラシックの作曲家ということになっていますが、本国アメリカで、このロジェ・ワーグナー合唱団のフォスターを聴く人はあまりいないようです。どうやらこういう重厚フォスターはちょっと感覚的に違うそうで、もっとポピュラー音楽のように捉えられているようなところがあります。

今度は、フォスターの生きていた当時の楽器、フィラデルフィアで1832年に作られたピアノを伴奏にしたフォスターの歌曲を聴いてみましょう。ジャン・デガエタニのメゾ・ソプラノで、「金髪のジェニー」です。合唱とはちがった素朴な感じがします。

金髪のジェニー/スティーヴン・フォスター/ジャン・デガエタニ(メゾ・ソプラノ)/Nonesuch 9 79158-2/演奏時間=3分16秒

次は、アメリカを題材にした作品として知られているファーディ・グローフェの「グランド・キャニオン」組曲からお送りしましょう。おそらく、クラシックをかじった方ならば、耳にされたことがあるかもしれません。

アリゾナ州の大峡谷、グランド・キャニオン、途方もないくらい深く、広いその光景は、やはりアメリカを満喫するには、有名な場所であるようです。ファーディー・グローフェという作曲家、この自然の景観をうまくとらえ、粋な音楽的な絵画を作り上げました。今日でもオーケストラの名曲としてしられている、この「グランド・キャニオン」は、もともとはポール・ホワイトマン楽団というジャズ・オーケストラのためにかかれておりました。今日は、そのポール・ホワイトマン楽団によるオリジナル版をお送りしましょう。1932年4月27日(にじゅうなのか)に録音された、たいへん音の古い録音ですが、普段聞くオーケストラの演奏とはちょっと違った、なつかしい響きがします。使われている楽器も、普通のオーケストラ版とは若干ちがっています。

それでは、ポール・ホワイトマン楽団による、ファーディ・グローフェの「グランド・キャニオン」組曲、今回は時間の都合で有名な「山道を行く」と「日没」をお送りします。

「グランド・キャニオン」組曲から、「山道を行く」、「日没」/ファーディ・グローフェ作曲/ポール・ホワイトマン楽団/使用CD=Preamble PRCD 1785/演奏時間=7分27秒、3分59秒

今日最後の曲ですが、アメリカのクラシックといえば、何といってもガーシュインなんかを思い浮かべられる方がいるかもしれません。アメリカといえば、ジャズ、そのジャズをクラシックとまぜあわせるとどうなるか、その傑作が、ガーシュインの代表作、「ラプソディー・イン・ブルー」です。ジャズがアメリカのポピュラー音楽として華開いていた1924年、ニューヨークで初演されたこの「ラプソディー・イン・ブルー」、ポピュラー・ソングを書いていたガーシュインが初めて大規模な音楽作品にトライしたもので、ピアノとジャズ・オーケストラの協奏曲といった感じです。しかし当時のガーシュイン、これまで、オーケストラの作品を書いたことがなく、どういう風に楽譜を書けばいいのか、具体的な方法に悩んでいたようで、たった今聞いていただいた、「グランド・キャニオン」の作曲者、ファーディー・グローフェに助けてもらいました。この、グローフェという人、ポール・ホワイトマン楽団所属の編曲家で、「ラプソディー・イン・ブルー」もこの楽団によって初演されているんです。

この「ラプソディー・イン・ブルー」、今回は、1924年の初演の時の編成、楽譜を現代に蘇らせた演奏でお送りします。実はこの曲を初演したポール・ホワイトマン楽団というのは、さきほどお聞きいただいた「グランド・キャニオン」でもおわかりの通り、現代のクラシックのオーケストラとはちょっと違っておりまして、人数も少なめですし、ジャズの香りがあるんですね。この録音では、当時の編成に従い、「ジャズ・エイジ」とも言われた1920年代のスピリッツを彷彿とさせてくれるだろうと思います。また、この作品の編成に含まれている、バンジョーが聞こえてくるのも素敵なところです。それでは、イヴァン・デイヴィスのピアノ、モーリス・ペレス指揮の特別編成のオーケストラで、ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」をどうぞ。

ラプソディー・イン・ブルー/ジョージ・ガーシュイン作曲/イヴァン・デイヴィスのピアノ、モーリス・ペレス指揮のオーケストラ/使用CD=Music Masters Jazz 01612-65144-2/演奏時間=16分21秒


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