Mr. Tの現代アメリカ音楽講座



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2000年3月2日アップロード



これは新潟県新津市にあるFM新津の番組「ドクターヨコサカのくらくらクラシック」において、2000年2月末に放送されたアメリカ音楽紹介の原稿です。


皆さんこんにちは、フロリダ州立大学院の谷口です。

今回の現代アメリカ音楽講座は、テーマを特に設定せずに、私の独断偏見でお送りする、徒然なるままのアメリカ音楽紹介です。

アメリカの音楽というのは実に多彩でして、一つの型に押し込めようとしても、こぼれ落ちてしまうものも多いんです。特に時代の流行のスタイルで曲を書いていない人など、あまり人から注目されずに終ったり、評論の対象にすらならなかったりします。

しかし、そういう音楽の中にも、もっと評価されてもいいもの、あるいは実際にたくさんの人に演奏されているものもあります。

今日はそういうものの中から3人の作曲家による作品をお送りします。

まずは、アメリカ本国でも、あまり名の知られていないトーマス・カニングという人の作品をお送りします。タイトルは、ジャスティン・モーガンの賛美歌による幻想曲といいます。カニングという作曲家、アメリカ音楽の辞典にもなぜか載っていないのですが、どうやら1911年生まれで1951年に亡くなっています。イーストマン音楽学校などで正式に作曲を習ったようですが、今日聴いていただく作品からも、カニングが、しっかりとした作曲技法を持っていることが分かります。

この幻想曲のもとになっているのが、18世紀後半のアメリカに活躍した作曲家、ジャズティン・モーガンという人の賛美歌のメロディーです。このモーガンという人の賛美歌はたった9曲しか残っていないそうなのですが、カニングは、そのうちの「アマンダ」という曲を使い、これを自由にアレンジしています。クラシック音楽に詳しい方ならば、もしかしたら、イギリスの作曲家、ヴォーン・ウィリアムズ作曲の「タリスの主題による幻想曲」をご存じかもしれません。この曲も、それに似て、ソロの演奏家と大編成の弦楽合奏とが時には相対し、時には一緒に響きあったりします。また、大変叙情豊かで、瞑想的な側面も持っています。

では、トーマス・カニング作曲によります、ジャスティン・モーガンの賛美歌による幻想曲をお聴きいただきましょう。演奏は、スズキ・ヒデタロウのヴァイオリン独奏、アルカディ・オルロフスキーのチェロ独奏、レイモンド・レッパード指揮のインディアナポリス交響楽団です。

[ここで音源] ジャスティン・モーガンの賛美歌による幻想曲/トーマス・カニング作曲/演奏=スズキ・ヒデタロウ(ヴァイオリン独奏)、アルカディ・オルロフスキー(チェロ独奏)、レイモンド・レッパード指揮のインディアナポリス交響楽団/使用CD=Decca 458 157-2/演奏時間=10分13秒

今日2曲目は、サミュエル・バーバーの弦楽四重奏曲をお送りします。ペンシルヴァニア州生まれのバーバーは、20世紀のアメリカの作曲家の中で、ひときわロマン的な色の濃い音楽を書いてきたのですが、そういった彼の音楽を、かつて、時代遅れだと批判する人も少なからずいたようです。しかし、アメリカの演奏家は、彼の作品をよく取り上げるみたいですし、日本でも「弦楽のためのアダージョ」の作曲家として、すっかりバーバーの名前は知られているように感じます。

今日お送りする弦楽四重奏曲作品11は、彼の初期の作品なのですが、3つの楽章のうちの真ん中の第2楽章が、じつは有名な「弦楽のためのアダージョ」のオリジナルなのです。後に弦楽の大オーケストラで演奏され、名指揮者アルトゥーロ・トスカニーニが指揮したことで、アメリカでもおおいに話題になった「弦楽のためのアダージョ」、少ない楽器で、そして、ちょっと速めのテンポで演奏されると、これはこれで、格別な響きがします。また、その「弦楽のためのアダージョ」が、本当はどういう文脈の中で書かれたのか、作品全体を聴けば分かるのではないでしょうか。特に全曲を聴きますと、バーバーが単にレトロ趣味に走って、古い音楽をやっていたのではなく、やはり20世紀の作曲家として、より新しい響きにも興味を持っていたことが分かるのではないかと思うのです。今日はエマーソン弦楽四重奏団による、集中力のある演奏を用意しました。それではサミュエル・バーバーの弦楽四重奏曲、16分ほどの作品をどうぞ。

[ここで音源] 弦楽四重奏曲作品11/サミュエル・バーバー作曲/演奏=エマーソン弦楽四重奏団/使用CD=Deutsche Grammophon 435 864-2/演奏時間=7分34秒、6分53秒、2分09秒

今日最後は気分をがらりと変えまして、ピアノとオーケストラの楽しい作品をお送りしましょう。19世紀アメリカの作曲家、ルイ・モロー・ガチョークの、「大タランテラ」という作品です。

1829年、ニューオーリンズに生まれたガチョークは、幼い頃からピアノの演奏に優れ、ヨーロッパにおいても、その優れた技巧が大いに認められました。また、エキゾチックな音楽にも興味を持っておりまして、曲のタイトルのタランテラというのも、イタリアはナポリの踊りの名前です。この名前、イタリア南部の地名タラントから由来しているという説もあるのですが、実は毒ぐものタランチュラにかまれたときに、その曲を踊るという伝説もあるようです。そのためか、これからお送りするガチョークの大タランテラも、ちょっとテンションの高い音楽になっています。

なお、この作品、本国アメリカでは、ボストンなどのポップス・オーケストラがしばしば取り上げて、コンサートに華やかさを加えています。もちろん、アメリカらしさとはちょっとはずれてしまうのですが、異国情緒のある音楽だと思います。

それではルイ・モロー・ガチョークの大タランテラ、レイド・ニブリーのピアノ独奏、モーリス・アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団でどうぞ。

[ここで音源] 大タランテラ/ルイ・モロー・ガチョーク作曲、ハーシー・ケイ編曲/レイド・ニブリー(ピアノ)、モーリス・アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団/使用CD=Vanguard Classics SVC-9/演奏時間=7分19秒(2000.1.14.)


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