最近見たもの、聴いたもの(8)


2000年2月21日アップロード


2000.2.20.

ニューオーリンズから帰ってくる。ジャズの発祥地ということだったのだが、結局Preservation Hallには行かなかった。学会の発表は、数セッション同時進行のため、アメリカ音楽をやった私のところは、人数が少なかった。でも、好意的な反応もあり、とても嬉しかった。全く知らない人から「I enjoyed your presentation.」とか言われると、やっぱりやる気がでると言うもの。シートン博士は、発表を逃したので、ペーパーのコピーをくれないか、と言ってくれた。でも、彼の基準からは、全然ダメだろうなあ、この内容。

市街地では、古本屋やCD屋でいくらか仕入れる。タワーレコードには、地元の音楽コーナーがあって、ジャズやロック、ケイジャンやザイダコのファンには面白いところだと思う。私はPreservation Hall Jazz BandやRebirth Brass Bandの音源、バディー・ボールデンやルイジアナ・ジャズの本、ルイジアナ民謡集などを購入。地元発売のものを狙って買う。クラシックのCDも入手。

食事では、昨日の晩に食べた生ガキが最高。1ダース5ドル99セントは安い。ボストンのロイアル・オイスター・ハウスみたいな着飾った感じは全然ないのだが、やはり素材が新鮮なので良かった。

カフェ・ドゥ・モンでは、フランス風ドーナツBeignetsをいただく。同僚がからかい合いになり、beignetsの粉を掛け合って喧嘩。うしろにいた女性が残り物の粉をくれて、さらに白熱の展開。おいおい、大学院生なのに〜。冗談半分の喧嘩なんで、いいんですけど。

街ではパレードが展開。マーディ・グラとは違うものらしい。ブラスバンドが通りを練り歩く。ものすごい人だかり。危ない人もいっぱい、へんな格好の人もいっぱい、雄叫びをあげる人も、ビーズを首にかけている人も。「狂気の沙汰」とはこのことか。それにしても、おみあげ屋から流れる音楽がうるさい。

それにしても、 不思議な街だ。あんなにオンボロの路面電車が、結構人気がある。ボストンに比べても、ずいぶん遅い。大都会なのに、人がものすごく親切なのは、ちょっとアメリカでは珍しい。黒人の地位も、ここではちょっと高いのかな? 犯罪都市とはいうけれど、市民の鬱憤がたまっているというよりは、自由奔放を履き違えて犯罪に至るという印象を持った。


2000.2.15.

20世紀音楽の授業、今日はシェーンベルグ。ピアノ小品作品33a.の作風について議論する。指揮専攻のラズローが活発に発言。さすがスコアリーディングができるだけあって、面白いこと言うなぁ。でもシェーンベルグというのは、こんなに時間がたっても、やっぱりエポックメイキング。でも楽譜にdolceとか書いてあって、微笑ましいところもあるかな。あとは、ベルグの書いた文章について。彼が現代音楽を内々で楽しむソサエティーを作ろうとしていたのは、実は知らなかった。エリート主義ということはこういうものなのか。

今週末に迫ったアメリカ音楽学会南部支部会での口頭発表の準備。原稿はすでにできているけれど、気分が高揚すると、つい早口になるので、あちこちに「ゆっくり話せ!」という言葉を挿入。明日は配布物もコピーしなければ。40から45部つくればよいとのこと。ひえ〜、そんなに来るの〜?

「Breeze」への文章も推敲中。前回、評判が良かっただけに、ちょっと不安。第2弾はハズレるという、映画のシリーズみたいにはしたくないなぁ。


2000.2.14.

ワーグナー/リスト:「タンホイザー」序曲
ホルヘ・ボレット(ピアノ)
蘭Philips−米BGM 456 724-2

Great Pianists of the 20th Centuryシリーズ収録、1974年、カーネギーホールでのリサイタル。以前デッカの録音でボレットのリストは聞いたことがあったのだが、どうも印象が薄い。確かに破綻しないで曲を通すことはできても、それ以上にアピールしなかったのである。ところがこのライブたるや、音色のきらびやかさ、声部間のバランス、非の打ちどころのないテクニック、そして臨場感。どれをとっても素晴しい。この「タンホイザー」序曲のトランスクリプション、以前にも、あるピアニストがラストに持ってきたことがあったが、どうしてもスタミナ切れになってしまったことがあった。ボレはこの曲の前に、「美しく青きドナウ」などのトランスクリプションも見事に演奏したばかりなのに、これは何だろう! 名演奏というのはこういうのを言うのだろう。脱帽。

難を一つだけいえば、弱音の使い方だろうか。色彩感が急に薄れてしまうという印象も持った。しかしトランスクリプションの場合は、そういった微細なところは全く気にならない。(02.6.3.訂正)

Early Modulations: Vintage Volts.
Caipirinha Music CAI 2027 2

ほとんどが既出の音源から編集した初期テープ音楽のコレクション。ただ、リュク・フェラーリのTete et queue du dragonはたぶん出ていなかったと思う(私は、以前CandideのLPで聴いたことがある)。「ほとんど何もなし」のシリーズとはちょっと路線の違うフェラーリだが、「トートロゴス3」や「ソシエテ2」に見られたような、かみつくような鋭さは、やはりここにもある(もうちょっとはっきりとした展開のある作品だったら良かったのだが…)。ケージのImaginary Landscape第1番には、他の録音もあると思うのだが、なぜHatのを選んだのか、良く分からない。おそらくこのCDは、クラシックよりも、ポピュラーの人向けにリリースされたと思う。ジャケットがおしゃれ。クラシックの人達も真似してほしい。アメリカ中心の音源はしょうがないのかなぁ。それにしても、サバートニクのSilver Apples of the Moonってそんなにいい曲だろうか? 私はどうもあの「ビチビチ」っという感じの音が好きになれない(ポランスキーも、ちょっとそんな感じ)。


2000.2.13.

ショパン ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調作品58
エリザベート・レオンスカヤ(ピアノ)
Teldec 8.44253 ZK

こういうシンフォニックで、ストレートな演奏も面白いと以前は思っていたのだが、繰り返しきくと、若干の不満もある。音色がやや暗めなのと、単調な感じにも聞こえてしまうからだ。ただ、やたらにルバートに酔っているピアニストを聴くのなら、レオンスカヤの方がいいと思う。だがシューベルト作品の方が、彼女のとつとつとした性格がうまく生かされているのかもしれない、とも考えた。

今日も夜10時からの実験音楽の番組を聴く。しかし2週間前と同じような技法で、こんどは生の素材がやや垂れ流しのような印象。もっと集中した展開が必要だし、素材の音としての可能性に、もっと注目してほしい。コラージュを作品とするには、作者がきっちりとした耳を持ってコントロールをする必要があると思う。イタリア語の教材テープなど、それ自体で面白いものもあるのだが、それがただ断片として繰り返しでてくるだけではだめだろう。という訳で、途中でラジオを切る。


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