最近見たもの、聴いたもの (75)


2004年9月22日アップロード


04.9.14.

ショパン ピアノ協奏曲第2番 エリザベト・レオンスカヤ(ピアノ)、カジミェシ・コルド指揮南西ドイツ放送交響楽団 エアチェック日不明

大学院受験のために習ったピアノの先生が、ケルンでレオンスカヤに教わったという人だった。その先生が勉強の参考にといって聴かせてくれたのがこのエアチェック・テープ(ドイツ語のアナウンスが入っているところをみると、ケルンで録音されたのかもしれない)。当時ショパンのピアノ協奏曲さえ知らなかった私だが、レオンスカヤのドラマティックな独奏開始が強く残った録音だった。彼女のピアノは落ち着いた中にも大胆で剛直な表現が圧倒的で、オーケストラも、これに敏感に反応している。全体としては、みずみずしい歌が爽快な印象を残す。こういう演奏がぜひ商業録音になってほしいものだ。


04.9.17.

ベートーヴェン 交響曲第5番 ロリン・マゼール指揮ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団 1986年5月5日エアチェック

カセットテープの性質なのか、やたらと低音豊かに録音されているベートーヴェンの第5交響曲。フル・オーケストラの機能を十全に使っていた頃の様式による演奏例といえるが、なかなか聴き応えはある。ゆっくり目に歌わせる箇所、ためる場所が多いのが特徴か。また楽器のバランスをうまく捉え、何度も聴いてきたつもりの名曲に新たな魅力を発見したようにも思う。マゼールはベートーヴェンの交響曲を全曲録音したのだという。彼のドイツものは概して良いのかもしれない。

マーラー 交響曲第9番 井上道義指揮シカゴ交響楽団 1993年6月1日エアチェック

ラファエル・クーベリックの代役として指揮した公演で、シカゴ・デビューだという。冒頭の不整脈とも言われる部分、独特の呼吸に、日本的なものを感じる。こういう表現はユニークで面白い。オーケストラはショルティ時代の派手な鳴り方で、井上もその性格に逆らわずに自由に作品を演出しているようだ。ただ第3楽章では、もっと強いリードがあっても良いのではないかと思われた。一方、最終楽章では自然な流れが美しく、いつの間にか深い部分にまで聴き手を運んでくれる。優しさが感じられる秀演だ。


04.9.20.

ラヴェル 《ダフニスとクロエ》第2組曲 小澤征爾指揮ボストン交響楽団、タングルウッド祝祭合唱団 1985年3月23日エアチェック

サーフェス・ノイズが聴こえるので、LPから放送したということなのだろう(ちょっと調べてみたら、ドイツ・グラモフォン2530 563という1975年の録音だそうだ)。フィナーレはアグレッシブなテンポで押されてくる。小澤はこういったオーケストラを鳴らす作品になると、本当にうまく聴かせるものだと感心。これはCDになっていないのだろうか? 同じカセットにはデュトワ/モントリオールの《ボレロ》(ライブ放送)。


04.9.21.

杜 こなて『チャップリンと音楽狂時代』、春秋社、1995年

 副題の「クラシックとポピュラーをめぐる近・現代史」が非常に興味をそそる。まだ読み始めてみたばかりだからか、肝心のクラシックとポピュラーがどのような相互作用を及ぼしたのかというところがなかなか出てこない。ポピュラー文化はポピュラー文化で一つのセクション、クラシックはクラシックで一かたまりとしては出てくるのだが。また、チャップリンや彼の映画については触れてあるが、彼の映画音楽、そして彼が受けた同時代の映画音楽についての部分をまだ発見できていない。きっとこれから読み進めていかなければならないのだろうな。BGMはロバート・ワード作曲のピアノ協奏曲(Desto)、そしてジョン・ノウルス・ペインの《テンペスト》(Music in America)。どちらもロマンチックで味のある素敵な作品だ。

今日は他に、ミルトン・バビットのインタビューを読む。アカデミズムの代表のように考えられている人だけど、ノーマン・デロ・ジョイオなど、調性音楽の可能性についても考えているとは意外だった。しかも、十二音で書いている人間など、もともと少ないのだと言っている。案外柔軟な感性の人なのかもしれないと思った。そういえばアラン・フォーテも「いいオジサン」風だったなあ。


04.9.22.

ディズニー・アニメの初期の短編シリーズに、キャラクターを中心とせず、音楽をテーマにしたものがあった。『シリー・シンフォニー』といわれるシリーズで、これをまとめたDVDが最近日本でも発売されたので、先週から少しずつ観て楽しんでいる。有名な『狼なんてこわくない』(04.9.23.訂正:『三匹の子ぶた』の中の挿入曲が《狼なんてこわくない》ですね)というのを観るのも、実はこれが初めて。アメリカ色の強さを改めて感じた。フィドルとファイフも入ったカントリー風の部分と、ラグタイム+ピアノ協奏曲が独特にミックスした部分とがあり、いろんなところに折衷がなされているものだと感心。『音楽の国』では、ジャズの王様がポール・ホワイトマンの顔を模して描かれているのが興味深い。ポピュラー/クラシックの垣根を取り除くハーモニーの架け橋には、強い共感を感じた。

アメリカからは太平洋戦争中に作られたディズニー映画を集めたコレクション『前線にて』も届いた。「空軍の力」は、日本の領域の圧倒的有利さを考慮して、これまでの戦艦中心の作戦は極めて難しく、航空技術の発達した当時だからこそ、もっと空軍を使うべきだという内容である。素人の私にもとても分かりやすく、精神主義では太刀打ちできない、「戦争の科学」というものを知った。


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