最近見たもの、聴いたもの (74)


2004年9月11日アップロード


04.9.2.

モーツァルト ピアノ協奏曲第26番ニ長調K. 537《戴冠式》 ウィリヘルム・バックハウス フリッツ・ツァウン指揮Stadlisches Orchester Berlin(1940年録音) グリーグ ピアノ協奏曲イ短調作品16 サー・ジョン・バルビローリ指揮新交響楽団(1933年録音) 伊The Piano Library

バックハウスについて、デッカのステレオ時代を中心に知っていたので、こういう演奏を聴くと、まるで別人のように思えてしまう。第1楽章など大きなミスタッチはないが、何とも大胆でアグレッシブな演奏。モーツァルトのモダン演奏は、どうも禁欲的に音を絞って透明感を追求するものが多いように思う。しかし本当はもっと噛み付くような、爆発するようなところがあったんだと感ぜずにはいられなかった。第2楽章などは、反対にあっさり過ぎてしまったように思われた。

グリーグの方は、オケの方もどっしりと構えたところがあり(ちょっとアンサンブルは粗いかも?)、瞑想的な雰囲気が強くなっているように思う。


04.9.9.

林 光 アメリカ・アメリカ(佐藤 信 作詞)1989年4月28日エアチェック

タイトルを見ると、アメリカを題材にしていることが分かる。確かに《ウエスト・サイド・ストーリー》の<サムシング・カミング>や<アメリカ>も引用されている。ジャズのスイング感やシンコペーションもある。ブルージーなコードもある。しかし歌詞が日本語というだけでなく、ペンタトニックな旋律線も聞こえてくる。また、なんとも庶民的な味わいのするところが林っぽく、それゆえ、どうしてもこれが日本の作品であるという気持ちが抜けない。彼のオペラも思い出す。作品中盤からの盛り上がりがちょっと予想しにくいのが面白さの一つかも。歌い手にとっては一大芝居とも思える大曲。演劇的な才能と多彩な声色が要求されそうだ。演奏者をカセットのカードに書かなかったのは不覚。当時はすでにCDの時代だったけど、これはLPだった。

林 光 コメディア・インサラータ 岩城宏之指揮東京混声合唱団、林光(ピアノ) 1988年6月11日エアチェック

俵万智の『サラダ記念日』などからの短歌を歌詞にした合唱組曲。ピアノの使い方が面白い。例えば有名なサラダ記念日を歌詞にした第1曲ではポリフォニックなア・カペラ合唱が一段落したところでピアノ独奏が思わせぶりな後奏を加えている。このように、ピアノは単なる和声的な支えでなく(むしろ東混の音程がぶら下がり気味であることが露呈する箇所さえある)合唱で歌われている歌詞の意味に違った角度から光を当てたり、ドラマ的効果を生んだりする。

この曲は大学3年の時室内合唱団で歌った。しかし、それがこの曲をエアチェックした理由ではなかった。録音した理由というのは、実ははっきり覚えていない。まあ有名な『サラダ記念日』の合唱曲だから、なんとなく、という感じでなかったかと思う(実はこの短歌集は、いまだに読んだことがない)。録音テープを、当時学生指揮をしていた先輩(作曲科)に貸したところ、定期演奏会の演目として選ばれたんだったと思う。そういうことで、個人的には懐かしい作品である。

三枝成章 映画『光る女』から《炎のアリア》 常森寿子(ソプラノ)、大友直人指揮篠崎正嗣管弦楽団 エアチェック日不明

映画の中で演奏された架空のオペラからのアリア、といったところなのだろうか。ちょっと調べたところ、後に三枝のカセットブックに収録されたが、映画のサントラというものは存在しないとのこと。吹奏楽曲《オーヴァーチュア・ファイヴ・リングス》の前半を想起させる楽想が聴かれる。テレビの司会のイメージと違って、重厚で「本格的」な音楽に当時は感心したんだったと思う。

ただこの録音では大オーケストラに歌がほとんどかき消されてしまっていて、歌詞の単語(おそらくイタリア語)を聴き取るのも難しいのが残念である。

三枝成章 クリプトガム(陰花植物) 常森寿子(ソプラノ) エアチェック日不明

クラシックばかりを聴いていた当時の私には、このドラムマシンが入ったというだけで、結構抵抗があったように記憶している。今は《ラジエーション・ミサ》も一通り聴いたということもあり、フツーの曲のように聞こえる。いや、あるいは最近の「クロスオーバー」(かつてはこれ、フュージョンに当てられた言葉ではなかったか?)の先駆けなのかも。

矢野顕子 ねこは、ねこは、ねこ 矢野顕子(ピアノ、歌)、田中信昭指揮東京混声合唱団 1989年11月7日エアチェック

冒頭はポーリン・オリヴェロスの《サウンド・パターン》を思い起こさせるような、ヴォーカブルを使った音楽。救急車とドップラー効果の模倣も面白い。中間部は手拍子の中から矢野が即興的に入ってくる(ライヴ会場のノリ?)。当時の田中信昭の解説だと、確か作品には確固とした楽譜もなく、矢野が合唱団員と一緒にその場で作り上げたところがあるという。もちろん放送当時オリヴェロス作品(と矢野顕子)を知らなかった私にとっては、かなり刺激的な作品だったし、今聴いても充分面白い。


04.9.11.

ブラームス 交響曲第1番ハ短調作品68 カラヤン指揮ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団 1984年8月28日、ザルツブルグ 1984年12月11日エアチェック

ブラームスの交響曲なるものを初めて聴いた演奏だと思う。しかしシャイー/WPHのチャイコフスキー/5番ほど「作品と演奏を一緒に記憶」していない。それでも演奏としては気に入っていて、重厚ながらも気性の激しさと気迫が感じられる。当時吹奏楽のホルン吹きだった私は、第4楽章のホルンの美しさに酔いしれていたことを思い出す。

しかしまあ、当時のTDKのODというカセット、すでに重ね録りしたものなので、どうもボケた音で録音されていて、残念。ドルビーCなるものを使ったのも災いしているようだ。海賊盤では発売されている(た?)ようだが…。

ムソルグスキー(ラヴェル編曲) 組曲《展覧会の絵》 クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団 1983年11月15日エアチェック

アンサンブルの粗さ、管楽器奏者の技術的不安がないこともない。しかし華やかで切れ味が良く、ダイナミックな演奏だ。スマートで輝かしいオーケストラの響きにも好感を持った。しかしまあ、いつの演奏か記録していないのは不覚だ(中学の私は、こういったデータの重要さを認識していなかったということもある。録音日だけは、後々の記念にと書いておいたんだと思う)。それにしても、ジョン・フレッチャー、目立ってますねえ。


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