最近見たもの、聴いたもの (71)


2004年7月19日アップロード


04.7.4.

「バーンスタイン先生と私」テレビ朝日系『題名のない音楽会』1992年10月4日放送

佐渡裕という指揮者を初めて知った番組。当時の印象をこのビデオを観ながら思い出した。おそらく「なんだ、バーンスタインの真似じゃん。」と感じたと思う。佐渡さんには大変失礼ではあるが。実際、《キャンディード》序曲の指揮ぶりを観ると、改めて「やっぱり似ているなあ」と実感を新たにした(鳴っている音楽は別として)。ただ《ウエスト・サイド物語》からのシンフォニック・ダンスの方は、オケの演奏がかなりはじけていて、こちらはかなり評価を改めることになりそうだ。念のため、テレビの画像を消してもう一度聴いてみた。通常の(当時の平均的)『題名のない音楽会』の演奏に比べれば、なかなかイケるかもしれないとは思った。

この番組を観てから、彼の名前はなんとなく残っていたのだが、彼の出したエッセイ『僕はいかにして 指揮者になったのか』が面白くて、本屋で数ページ読んで、そのままレジへ持って行ったことを思い出した。

さて、改めて『題名のない…』の演奏を聴きながら考えていたのは、確かにバーンスタインは自分の持つ音楽を伝えようと躍起になっていたことは確かであるが、その一方で恐ろしいくらいに冷静で知的な側面を、あの爆発する指揮をしながら保持していたということである。リハーサルで彼が求める音が非常に具体的で、その場で鳴っている音に惑わされず、自分がスコアから想起した音に少しでも近付けるように、いろんな比喩を使っていた。もちろん指導法もユニークだが、音に関するしっかりとしたアイディア、そして確実にそのアイディアに持って行く耳の良さも忘れてはならないと思った。


04.7.8.

「山本直純 ポップス決定版」『題名のない音楽会』1989年12月7日放送

アーサー・フィードラーとボストン・ポップスによって演奏された演目のうち、今日「セミクラシック」と日本で分類されている種類の音楽を集めて演奏したという趣旨の番組。不思議なことに、番組はいきなりスーザの《星条旗よ永遠なれ》から始まる。独立記念日のポップス・コンサートのアンコールの定番をいきなり番組の頭に持ってくるのは大胆だなあと思っていたら、ボストンではこの曲でコンサートを始めるという黛氏のコメント。残念ながら、これは当たってないようだ。山本氏の「いつもじゃないんだが」という趣旨の発言も、多分間違っていると思う。独立記念日以外のコンサートにしても、このスーサのマーチを最初に持ってくることはあり得ないからだ。通常のポップス・プログラムの第1部はクラシックの小品か一楽章などを演奏するからだ(当番組で紹介されたセミクラシックもここで演奏されるはずだ)。なおアメリカ国歌の《星条旗》ならば、独立記念日のコンサートではオープニングの定番である。もしかしたら、これと勘違いしたんだろうか???

ポップスとは本来こういうものだという言葉が黛氏から出ている。おそらくかつてはそうだったのだろう、少なくともアメリカでは。イギリスではおそらく「light music」という言葉がより広く使われているのではないかと察するのだが、詳しい方にお聞きしたいところだ(先日Light Music Society発行の冊子が届いたところだ)。なお山本氏が出した「スイート・ミュージック」や「ホーム・ミュージック」という言葉は、筆者がいたアメリカでは、聞いたことがなかった。50年代にはよく使われていたのだろうか(地元のフクロヤには、確かに「ホーム・ミュージック」と分類されているCDが並んでいる。ロックハート/ボストン・ポップス、カンゼル/シンシナティ・ポップスに加え、テーマ別にクラシックの名曲をぶつ切りにして集めたようなCDが並んでいる)。

番組の最後に演奏されたルロイ・アンダーソンの曲も、今日ではどのくらい演奏されているのだろう? 時々『Evening at Pops』というPBSの番組も覗いていたが、一度も聴けなかった。CDとしては、カンゼルやスラトキンなどもあるのだが。やっぱり古いんだろうか???


04.7.11.

諸井三郎 『ベートーヴェン絃楽四重奏曲:作曲学的研究』 音楽之友社 1966年

骨のある作品分析の本。非常に勉強になる。『名曲解説全集』はおおまかな形式を掴むにはいいが、この本では小節番号で重要箇所が詳述されているので、楽譜とにらめっこしながら自学することができる。もちろん書かれていること全てに同意する必要はないが、特にこちらが注意すべきこともみつからない。ジョセフ・カーマンにも弦楽四重奏を扱った本格的な研究書があるが(一般の人にはつらいかも)、諸井さんのは純粋に分析を志す人向けといった感じだろうか。井上和雄の『ベートーヴェン 闘いの奇跡』(音楽之友社)は学術的な問題に答えてくれるタイプの本ではないが、一愛好家が作曲家・作品にかける想いは十二分に伝わってくる(個人的好みでいえば、こういう内容の本は苦手)。セイヤーの伝記本はすごいが作品論というアプローチではない。ソロモンの著書の方が、まだそういう点では楽しめる。


04.7.12.

ポップス・コンサートの映像はないかとある方に訊かれて、家にあるビデオテープを探していたら、ジョン・ウィリアムズ(JW)の来日コンサート、キース・ロックハートのボストン・デビューのコンサート、ゴスペル・プログラム(すべて抜粋)などが出てきた。JWのコンサートはエスプラネード・オーケストラではあるが、おそらく通常よりもかなり力が入った演奏をしていたように思う。やはり彼の映画音楽が素晴らしかった。《ペール・ギュント》組曲のようなものだと、やはり物足りない(ロックハートはこういう曲もそつなく聞かせるだろうからなあ)。ロックハートのデビュー・コンサートでは、冒頭にロックハートの簡単な紹介がついている。小澤征爾の顔もあった。オープニングはドヴォルザークの《謝肉祭》序曲。オーケストラの響きが薄くなったように感じたが、これはロックハートが主要な楽器をきちんと全体の中で配分しているからではないかと思う。気のせいか、演奏者の表情が、かなり真剣である。こんなにきっちりタクトを振るべきかなあという気もする(まあフィードラーも、けっこうカチっとした棒を振る人だったんだろうけど--ドキュメンタリー映像を見る限り)。

ビデオで一番感動したのは、ゴスペル特集の回。パティ・ラベルの絶唱がなんといってもすごいが、エドウィン ・ホーキンズという歌手も初めて知った。チャールズ・フロイドという地元のリーダーが臨時編成のゴスペル・クワイヤを指揮していたのだが、なかなかレベルが高く、吸い込まれるように観てしまった。最後にはラップもちょっと入るあたり、さすがロックハートの若さが反映されているんだろう。会場の聴衆にも黒人の人が多かった(普段は白人の年輩の人が大半だ)。


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