最近見たもの、聴いたもの (66)


2004年2月8日アップロード


04.1.26.

ベートーヴェン 交響曲第9番 フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団ほか 伊EMI 7243 57417327(交響曲全集)、CD 5 of 5

フルトヴェングラーの第9イタリアEMI
これまで第9の前半楽章というのは、冒頭に提示されるリズム動機が楽章全体を強く支配するものだと考えてきた。しかしフルトヴェングラーの場合、例えば第1楽章にしても、セクションごとに細かく、そして大きくテンポが変化する。しかもあたかもその場で作り上げられたようなテンポの変化が多い。楽想を細かな単位に分けており、それぞれの中に揺れやうごめきがある。おのおのの箇所に、たっぷりと情感が込められるという点では大変効果的であるが、楽章全体として多少凹凸ができてしまうのは致し方あるまい。第3楽章はリズム動機がそれほど重要ではないため、この問題はあまり表面にはでないし、第4楽章において、各セクション間のコントラストはむしろ効果的である。

私が第4楽章で違和感を感ずる箇所は、二重フーガのクライマックスの部分でティンパニーにフーガ主題の一つを強く叩かせる箇所と、オーケストラが振り乱されるエンディングである。これはこれで面白いのだが、やはりやり過ぎの感は免れまい。録音としては、木管楽器が引っ込みがちなのと、ティンパニーがやたらと大きく収録されているのが特徴か。ティンパニーが大きいのは他の録音にも聴かれるが、これはフルトヴェングラーの演奏法か?


04.2.3.

Le Gallerie dell'Accademia di Venezia.  Venice: Electa, 1998.

アッカデミア美術館カタログ
昨年の暮れから正月にかけてヨーロッパを旅行された方から、ヴェネツィアのアッカデミア美術館のカタログをいただいた。ものの本によると、16世紀のヴェネツィアは東西の文明が交差する商業都市であった。そして周囲を水に囲まれていたため火災の被害に遭いにくかったとされ、名著を多く所蔵した図書館もあるのだという。

絵画の世界ではベッリーニ、ジョルジオーネ、ティタンなど、ルネサンスのマネリスム絵画が有名というが、このカタログには中世から19世紀にいたる、より多彩な様式の絵画がサンプルされている。Electaというのは日本の文部科学省のような存在であると、本をいただいた方から教わったが、このような美しい出版物を役所が発行しているというのは、やはりヨーロッパの見識の高さを示している。最近は日本の印刷技術も美術書の世界では重宝されているときくが、やはりイタリアのカラー印刷は美しい。ヨーロッパで楽譜の印刷が始まったのも、ヴェネツィアではなかったか。


ヴェネツィアの晩課 ポール・マクリーシュ指揮ガブリエル・コンソート&プレイヤーズ 独Archiv 437 552-2

Venetian Vespers LP
アッカデミア美術館の美しい絵画の世界を1ページずつ辿りながら、ヴェ ネツィア楽派の音楽のCDを再生してみる。イタリアの音楽史でヴェネツィアというと、まずウィラールトのいたサンタ・マルコ寺院から始まる。ローマは反宗教改革のあおりで、パレストリーナに代表される端正でポリフォニックな無伴奏合唱曲が主流だし、ナポリといえば、後のオペラが知られるようになる。ヴェネツィアというのは、どちらかというと、このルネサンスとバロックの橋渡し的な存在であるコンチェルト様式を確立したということになるようだ。実際に聴いた感じでは左右に合唱や楽器を分割する演奏法だけでなく、エコーを模した作品もあるようで、とても興味深い。

ヴェネツィアをテーマにしたCDでは、英ASVレーベルから出された『Venice Preserved』とともに、とても品の良い演奏をまとめているものだと思う。


04.2.8.

俚謡(りよう) 越中おわら節 宵まち・せんまい会議
音源入手のための参考サイト
 

俚謡 越中おわら節CD
SPレコードに収録された、いろんな演奏による八尾町の《おわら節》を 収録したもの。昨年11月には、神保町のSPレコード専門店にも置いてあった。

古い録音で印象的だったのは、なんといってテンポの速さだろう。日本には「踊」と「舞」があるが、音楽のみから判断すれば、昔のは「踊」に近く、現在のは「舞」に近い。また、囃子の入りと唄のタイミングが、現在のはきっちり決まっているようなのに対して、この録音にある古いものは、どれも微妙に違っている。囃子言葉の入り方も、ずっと自由のようだ。現在の演奏の方が芸術的完成度は高いのだろうが、古い録音は、民謡の素朴さがダイレクトにでていて、また別の魅力があるようだ。口承音楽らしさがにじみ出ている。

ちなみに現在の《おわら節》のように、ゆったりとしたテンポに変わるのはトラック7。昭和13年の邑崎清次郎さんが歌ったものだ。同じ楽曲でも、踊りのリズム的要素から、唄の旋律的要素が強調されてくるのは興味深い(大坪美代子による昭和26年録音のトラック13もゆっくりしたテンポで、現在のものにかなり近い。胡蝶亭君子さんによる昭和10年録音のトラック14もゆっくりだ)。ここで胡弓が前面に聞こえてくるように思う(間奏部分など)。音をつないで演奏できるのは、楽器ではこれが唯一だから当然なのかもしれないが、通常民謡では尺八が行う役割を胡弓が行っているということになる。

トラック9のように、そもそも楽曲としてかなり違うものも収録されている。

このCDにおけるSPの復刻の仕方の詳細は書いてないのだが、どうやらトラックによって様々な方法が用いられているようだ。例えばトラック1・2はステレオ感があるが、トラック3以降はダイレクトで回路を通して録音しているように聴こえる。面白いことにSPの面のつなぎ目はそのまま正直に分かるようになっているようだ。

歴史的に極めて重要なドキュメントである。

参考サイト:ふるさとに謡ありて〜富山の民謡〜


クセナキス 作品集 独Edition RZ 1015-16

ed. RDクセナキス選集
今さらながら、話題のクセナキス作品集。以前仏Eratoの5枚組LPにも収録されていた《ノモス・ガンマ》や、ファンからリリースの待望されていた《クルーニのポリトープ》に強い感銘を受けた。クセナキスといえば、アメリカのノンサッチLPで電子音楽を聴いて衝撃を受けて以来、少しずつ音源を集めている。作曲の背景には緻密な数学的背景があるようなのだが、電子音楽作品を聴いた時、そんなことは全く考えなかった。いや、むしろそんなことを考える余裕さえないのかもしれない。《ノモス・ガンマ》にしても、この爆発するエネルギーにすごさを感じる。内容充実のCD。池袋WAVEにて3600円で購入。

参考サイト:st. xenakis



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