最近見たもの、聴いたもの(63)


2003年12月11日アップロード


03.10.18.

富山ジャズファンクラブの10月(第82回)例会に出席。富山県における音楽クラブとしては唯一のものだそ うだ。大沢野町の一軒家に集まり、前半は「旅」をテーマにした楽曲の音源を持ち込み聴かせる企画。後半は会員の一人がDJとなり、1時間あまりのプログラ ムをみんなの前で行う。今回のテーマは女性の名前を配した楽曲の特集。

アメリカでジャズ史を勉強したり、実際にライブに触れたことはあった。しかしこのクラブはなかなか緊 張した。それは会員の人たちの真剣でひた向きな聴取の態度に圧倒された…ということだろうか。クラシック音楽は「ゲージュツ音楽」として知られているけれ ど、ジャズだってもう立派な「ゲージュツ」なんだなあと思った。

アメリカではスイングはかなりエンタメ色が濃いし、モダン・ジャズでさえお酒を飲みながらというとこ ろがある。日本はやっぱりジャズ喫茶の流れなのだろうか?


03.11.1.

マーラー 交響曲第9番 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団 米Columbia M2S 676

私はいわゆる「初期盤コレクター」ではないが、タラハシーの公立図書館には、おそらく地元の誰かが昔購入したLPレコードが寄付されていて、その中 に年代ものの盤もあったようだ。このLPも、インターネットで調べた限り、ワルター/コロンビア/マラ9のオリジナル・ジャケットのようである。中身の LPは「2 eyes」なのだが、家のプレーヤーで再生したところ「古いレコードにもこんなに良い音が入っているのか」とほとほと感心するばかりであった。ワルターの マラ9というと、1938年のウイーン・フィルとの演奏が有名で、この新しい録音の評価はそれほどでもないようだが、私は食い入るように聴き入ってしまっ た。

ちなみにこのLP2枚組にはボーナス盤が付いている(ダブルジャケットの間にはさみ込まれていた)。薄っぺらい紙に入ったこの30センチLPのA面 はArnold Michaelisのインタビュー、B面はマラ9のリハーサル風景のようだ。ジャケット(→写真)の裏にはGoddard Lieberson、マスターワークスA&Rの監督という肩書きのSchuyler G. Chapin、そしてJohn McClureの3人による「追悼の辞」が載せられている。

なおタラハッシーの公立図書館で購入したこの2枚組LP+ボーナス盤の価格は70セントだった。


03.11.10.

金曜日から昨日まで日本音楽学会@神戸大学へ行ってきた。数年前の京都以来の関西。JR特急サンダーバードで大阪まで約3時間、そして大阪から神戸までは快速電車。昼のびわ湖がとても美しかった。JRというと新潟・東京方面の景色に慣れているので、西路は新鮮でもある。大阪駅の乗り換えは極めてスムーズ。東京駅のバカバカしいほどの複雑さが分かろうというものだ。神戸行きの快速はクロスシートになっていたのもとてもうれしかった。宿泊した三宮ターミナルホテルはJR西日本系列で、三宮駅構内といった趣。

三宮は繁華街でもあるので、センター街(といったかな?)にあった古本屋を訪れた。2階へと続く階段のおどり場にスコアがたくさん置いてあったが、値段が高かったので音楽関係の古書のみ購入。買った内容はエドウィン・フィッシャーの『音楽観照』、パーシケッティの『20世紀の和声法』、戸澤義男/庄野進編『音楽美学』、ジョセフ・レヴィーン『ピアノ奏法の基礎』、細川周平『音楽の記号論』、ザックス『世界舞踊史』・『音楽の起原』。合わせて1万円ちょっと。神田神保町の相場からすれば、かなり割安。『世界舞踊史』だけで1万円近くする店もあるからなあ。レコード店も回ったが、収穫なし。

日本音楽学会には最近入ったばかり。懇親会はあったけれど、知らない人の方が圧倒的に多い。芸大や東大の人はいいなあと思った。でも以前からお世話になった方々にお会いしたり、その関係で素晴らしい音楽学者の方たちを生で拝見することもできた。発表の長さはアメリカの学会の2倍の40分。読み上げ原稿を読む人もいたけれど、そうでない人の方が多かった。レジュメも丁寧。アメリカの場合は参考文献も引用された「文言」も書かれていないし、そもそも要点を書いたものも配布されない。図表や譜例だけというのが大半で、まったくない人もいる。

発表のレベルは様々だったが、やっぱり学会は刺激になる。


03.11.21.

アナログを語る会 11月例会 福光町の喫茶店ラモヴェールにて、午後6時。今月もいろいろなアナログレコードが持ち込まれた。その中で録音の良さが印象に残ったのは、12インチ45回転盤の『デューク・エイセス「ドライ・ボーンズ」から「女ひとり」まで』という第一家庭電器のもの(DOR-0040)。中学・高校の頃は『ステレオ』というオーディオ誌と読んでいたが、第一家庭電器のLPは、よく広告に出ていたと思う。この頃はドイツ・グラモフォンのカタログにも45回転盤がいくつか掲載されていたし、ダイレクト・カッティングなども話題になっていたと思う。ジャケットには録音方法のディテールが配線図(?)の詳細とともに書かれていた。結局私はオーディオ・ファンにはならず、音楽重視になったが、良い録音を立派な装置で聴くと、レコード鑑賞というのも奥が深いものだと思った。

その他印象に残ったのは『日本のサム・テイラー』(MGM [日本コロムビア] YS-5042)、金子由香利の2つのアルバム『金子由香利 ベスト・コレクション』(日Trio 3A-2029)や『じっとこうして』(日Philips 18PC-9)。金子由香利は、なんでも日本のシャンソン歌手の中では、もっとも語り調言葉をうまく音楽表現として獲得している歌手なのだとか。私はシャンソンといえば越路吹雪しか知らず、早速お御借りしてきた。

なお私が持ち込んだのは、日本音楽などのLP。そのうちの一枚は『弥生の笛』というタイトルで東芝からリリースされたもの(TW-60020)。音楽考古学は現在笠原潔さんなどが立派な学術研究にされているだろうし、演奏としては土取利行さんが有名。このLPは田村洋さんの作曲・演奏によるもので、復元楽器は松岡敏行さん提供とある。聴いた感じ、とても幻想的な古代の日本という印象だった。土取さんなどに比べると、聴きやすく作られているのかもしれない。「なかなか深い音がする」という反応もあった。

もう一つは日本コロムビアからリリースされた『江戸吉原の遊芸』。何よりもタイトルが興味を引く。あまり「お色気路線」を期待されると困るくらい、現在の耳には伝統的で折り目正しい音楽だ。解説書の文章では詳しいことは分からないのだが、そのうち郡司正勝さんの『歌舞伎と吉原』でも読んでみたい。今回の例会では最後の方にかけていただき、「話のタネ」として使っていただいた。


03.12.10.

網走管内教育研究紋別集会セミナー「文部省の音楽はおもしろくない」(1993年10月2日、録画場所不明、講師=繁下和雄 [国立音楽大学教授]) VHSビデオ(プライベート録画)

掲示板にご投稿 いただいた野崎優子さんから送っていただいたもの。繁下和雄さんのお名前はどこかで拝見していたと思っていたが、冒頭《君が代》のお話をされていて思い出した。彼は『君が代資料集成』という、学術的に重要なアンソロジーを編集された方だったのだ。でもビデオのメインは《君が代》ではなく、学校で行われている音楽が、いかに音楽を知らない教師によって教えられており、またそれがいかに危険であるかを実演(素晴らしい!)を交えて楽しく問題提起するものだった。

例えばハーモニカというのは一音一音を探しながらさみしく吹くのではなく(そういった表現の音楽もあるが)、「ハーモニー」から「ハーモニカ」という言葉が生まれたように、豪快に和音を鳴らすことがハーモニカの極意であるという説明がある。そして半音階の2段のハーモニカなど使わなくとも、調性に合わせたハーモニカがあるし、半音をスライドさせるハーモニカもある、などなど。

つまりハーモニカを愛好する人たちから見れば、学校のハーモニカというのはいかに楽器を生かしていないかということなのである。

その他にもタンバリンやトライアングルというのは、そもそもどんな音楽に適しているのか、どうすれば、同じ楽器から音楽の面白さを十全に引き出せるのかについて、楽器の性質から紹介するものであった。

非常に面白かった。そして、これを見て、大学の教員養成課程というのは、いかに教員を養成していないかを実感することにもなった。

私もかつて大学で教員養成課程にいたが、教材研究や指導法、楽器の基本的知識にしても、学校の現場で必要なことは、ほとんど教わってこなかったように思う。ピアノ科の学生も声楽科の学生も、やっていることは「音大縮小版」で、しかもその音大は西洋クラシック音楽を個人レッスンを中心として学んでいるのである(お箏や日本音楽史は選択科目で、民族音楽の講義はなかった)。つまり芸大や音大のような「プロの音楽家」を養成するほどではないが、学校の先生なら何とかなる、という程度(これも全く失礼なこと?!)のこと(?)をやったというのが、私の例だった。もちろん私自身はそれが大いに楽しかったし、先生方には感謝している。良い音楽家でなくて、どうしてその音楽を教えられるのかというのも、正論であろう。

一方でこのビデオは、音楽を専門に勉強している私にもいろいろ知らないことがあり、大変勉強になった。実習校の事情によりギターを教えることになり、教育実習の2週間前にギターの独習本を買って、高校のクラスでエラソーに教えたことも思い出した。

とにかく、これは大学で音楽教員を養成する人たちにはぜひとも一度観てもらいたいビデオだと思う。送っていただいた野崎さんに感謝!


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