最近見たもの、聴いたもの(6)


1999年6月5日アップロード


1999.6.4.

Strauss, Richard. Orchestral Songs. Kiri Te Kanawa, soprano; London Symphony Orchestra; Andrew Davies, conductor. CBS Masterworks MK 35140. CD.

彼女のドイツ語はどうなんだろう。もっと子音が立つような気もするのだが。歌唱としてはあらゆる音域で、実に安定した声を聞かせていて、音的には実によく整っているという印象だ。オーケストラの音ともうまく混ざりあう。


1999.6.3.

Native American Powwow. Private Video Recording.

どこで誰が取ったのか、全く不明の音像だが、羽をつけた先住民の踊りが見られる。使われる楽器は太鼓一つだが、その丸い太鼓を取り囲むようにして、大勢の人が同じリズムを「ドンドンドン」とたたく。「ドンどっどっどっ」というハリウッド製の「インディアン音楽」は嘘だとわかる。

Native American Dance Theatre. PBS [VT].

ナレーターや先住民の話す場面が多く挿入されているため、音楽に集中できないという気もするが、それにしても、ここで踊られているダンスは、通常のパウワウには見られない見事なもの。舞台上演で、フィールドの文脈からは離れてしまっているけれど、一見の価値はある。それにしても音楽はシンプルだ。

Folksongs of Hawaii. Tradewinds Records TS-111 [LP].

ジャケットには、ハワイのみにて入手可能、などと書いてあるが、なぜかここフロリダの図書館にもあるぞ。

こういう観光ショーにでも流れていそうな、のんびりとした音楽はいつごろできたのだろう。1778年にジェームズ・クックがハワイ諸島を「発見」したということになっているが、それ以前にも誰かが住んでいて、音楽文化が育っていたと思うのだが、それはこのレコードに入っているものとは違うのだろう。


1999.6.2.

Two Faces of Thailand: A Musical Portrait. Beats of the Heart Series. Shanachie 1214 [VT].

前半しか見ていないのだが、冒頭から、タイの音楽がいかに西洋音楽の影響を受けたのかがはっきりする。テレビCMなども流れるが、ハイテンションのそのCMは、第一製薬のものだった! その他には、タイの貧しい人々は、ボクサーになるか、歌手になるか、という夢を持っているという。どうやったら歌手になれるのか、そのへんのプロセスは前半にはあまりでてこなかったが、ボクサーになるのは大変なようだ。小学校の低学年くらいから、すでに競争が始まっているようだから。タイ・ボクシング、私も以前その過激な試合を日本のテレビで見たことがあったが、バックグラウンドに伝統楽器を使った音楽が流れているところまでは気が付かなかった。


1999.6.1.

Bach, Johann Sebastian. French Suite No. 5 in G Major. Wilhelm Backhaus, piano. London STS 5065 [LP].

私は、こういった演奏も好きだ。素直にピアノの音楽として楽しめるからだ。グレン・グールドも一つのやり方として、評価しているが、彼のやりかたを踏襲すると、たちまち真似事に終わる可能性もある。バックハウスのは、おそらくオーセンティックという言葉からはやや離れているのかもしれないが、今日的な意味で、ピアニストがバッハを演奏するということならば、こういうアプローチもあるのではないかと思う。


1999.5.31.

Memorial Day Concert. United States Coast Guard Academy, New London Connecticut. Live broadcasting on NPR.

戦没者記念日は、墓地でささやかな追悼が行われたり、パレードがあったりする。先日ユーゴから解放された米軍の捕虜も、地元のパレードで英雄扱いだ。日本はお盆と重なっており、雰囲気的により厳粛だし、音楽で思い出す戦争やその戦没者というイメージはないように思われる。正午の黙とう、あの無言さが、私にはとても深遠に感じられる。アメリカの場合は、メンタリティーがまた違うのかもしれない。あちこちのテレビチャンネルで、おもにベトナム戦争を物語とした映画をやっているが、日本が戦後と言っている時代にも、アメリカでは常に戦争があったのだな、と思わずにはいられなかった。歴史チャンネルでは、第2次世界大戦の秘密、というシリーズをやっているようだが、やはりナチや日本軍が主なようだ。このチャンネルのおハコだ。

NPR、夜7時からは、沿岸警備隊軍楽隊によるアメリカ音楽のコンサート。バーバーの<コマンドー・マーチ>に始まる。なかなか引き締まった良い演奏だ。それに続いてロジャー・ニクソンのMusic of Appreciation。これは湾岸戦争に動機づけられて書いた曲だそうだ。和音の使い方などが、やはり彼の曲だな、という感じ(<パシフィック・セレブレーション>第1楽章の中間部のようだった)。

ちなみに、今日のPerformance Today(こちらもNPR)では、コソボにちなんだ曲の初演が放送された。

その後は、第2次世界大戦関連の歌を集めたメドレー。ただし、「ジャップを倒せ」とかいう歌は一切なく(こういう歌は、当時たくさんあった)、<ラジオ時代のメローな音>というタイトルで、ラブ・ソング中心。もう第2次世界大戦はノスタルジーなのだろうか、と思った。

その他には、大胆にも、アイヴズの<戦没将兵記念日>のアレンジ(<休日交響曲>)や、ギリガムという作曲家のベトナム戦争に関連した吹奏楽作品が演奏された(これは、打楽器の音が面白かった。シュワントナーほど洗練されてないかもしれないけど)。

沿岸警備隊軍楽隊のコンサートは無料で一般に開放されているらしい。コネチカットに住んでいる人がうらやましい。


1999.5.30.

Bach, Johann Sebastian. English Suite No. 6 in D Minor. Wilhelm Backhaus, piano. London STS 5065 [LP].

モダンのピアノならではで、無理のない、なめらかな演奏。ペダルをうまくつかっている。控えるべきところは控え、使った方がピアノとして有利になる箇所ではきちんと使っている。時に和音が大胆に古典派的に聞こえたりするが、決して嫌味にはならない。ただソプラノ声部にやや重点がおかれ過ぎている感じもしないではない。当作品には対位法的な側面もあるのだから(たとえ舞踊のための曲がホモフォニックであることが多いとしても)、中声部や低声部との旋律の絡み合いの妙技も、もっと楽しみたいところである。Prelude--Allemande--Courante--Sarabande--Gavotte--Gigue。


1999.5.29

Mahler, Gustav. Movts. 4 and 5 from Symphony No. 7. Kolner Rundfunk-Sinfonie-Orchestre; Gary Bertini, conductor. EMI CDC 7 54184 2. CD.

最終楽章は、初演当時から現在に至るまで、賛否両論があったようだ。快楽的な趣をベートーヴェンやブルックナーの第7に求めた人もいれば、そのあまりにもダイアトニックな響きに驚き、落胆した人も少なからずのようだ。個人的には、日本でつけられている「夜の歌」というサブタイトルはないほうがいいと思う。作曲者が正式に標題性を認めた訳でもないし(むしろ、嫌がっていたようですね)、静かな音楽を連想してしまうからだ。しかしこのロンドは実にややこしい。確かに、何度も旋律は繰り返し現われるのだが。

Coltrane. John. Giant Steps. Rhino (Atlantic) R2 75203. CD.

「至上の愛」をいきなり聴いて、コルトレーンはものすごく濃厚で深遠だと考えていたので、これはそれに比べれば、まだリラックスして聴ける。最近はライナーの質も上がりました。よい傾向です。ボーナストラックは、過去にLPやCDでも発売されたようですが、ありがたいものです。


1999.5.28.

Bach, Johann Sebastian. English Suite No. 2 in A Minor, BWV. 807. Wanda Landowska, harpsichord. Educational Media Associates IGI-273 [LP].

歴史を感じささせる1947年3月9日のライブ録音。モダン・チェンバロによる慎重な趣のある演奏。しかしその着実さにより、安心して聴けることも確か。やや重厚になりすぎることもあるが、かく楽章の性格がうまく対比させられているのは、作品をきっちり手中に収めているということだろうか。やや生真面目な演奏だと思うが。

Strauss, Richard. Violin sonata in E-flat Major, Op. 18. Riggero Ricci, violin; Ferenc Rados, piano. Qualiton LPX 1165 [LP].

ピアニストには大変酷な曲。ソナタと題には書いてあるが、実質的には協奏曲並みのスケールがあるからだ。歌曲のピアノ伴奏を考えた時もそう思うのだが、リヒャルトは本質的にオケのために書く時の方が本領を発揮できるのではないだろうか。

比較的伝統的な3楽章のモデルにのっとり、第1楽章がソナタ形式、フィナーレがロンドというのも定番。しかし形式にかなり肉付けがしてあり、彼の交響詩における形式観を考えながら聴いた。


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