最近見たもの、聴いたもの(5)


1999年5月27日アップロード


1999.5.26.

Timothy Prepcius, piano. 8:00 p.m. Lindsay Recital Hall, The Florida State University, School of Music.

私の友人の彼氏のピアノ・リサイタル。作曲も専攻しているが、そちらもピアノも今セメスターで卒業である(学部の4年生)。彼が前半に選んだのは、シューベルトの<即興曲>作品142の3とバッハの<イギリス組曲>BWV. 807。

正直にいって、この前半のプログラムは、まだこなれていなかった。数箇所で明らかに落ちそうになったところもあったからだ。シューベルトのピアノ曲はよく「渋い」という人がいるが、それは大半がピアニストの問題ではないか、と最近は思うようになった。実は曲そのものは大変面白く響くはずなのだが、その演出法が難しいのではないか、と思うのである。この即興曲は、いわゆる「継続的変奏曲」なので、演出法がより難しいと思う。シンプルで愛らしい主題と、それから生み出されるドラマをどのように扱うのか、テクニックの問題ではとうてい手の届かない領域に音楽があると思う。ティムの演奏は、数々の変奏の中に現われる主題にもっと焦点を絞り、いかに旋律が扱われているかをもっと考えるべきであったと思う。多彩なテクスチュアの変化を何とか扱ってはいるものの、肝心の旋律が途切れ気味だったからだ。伴奏部分にも、時より面白い音型や対旋律が現われるが、そういう所にも気を配る余裕があれば、さらに音楽がいきいきしたことだろう。いずれにせよ、この作品はもっと引き込む必要がある。

2曲目の<イギリス組曲>は、急緩を交互に降りまぜた鮮やかな作品だ。プレリュードは作品の華やかさが最も顕著に、しかも小気味良く現われている楽章。やや力任せに押し通した感じもしたが、速めのテンポで快速に弾き飛ばし、聴き手を引き付けた。曲想の細かな変化にもっと目が行き届くようになると、さらに面白くなったであろう。それに続く舞曲の楽章だが、特に緩徐楽章においては、対位法と和音が微妙に絡み合うバッハ特有の音楽がもっと味わえたら、と思った。アップテンポの楽章は、プレリュードほどのインパクトが出せない曲なので、苦労したのではないかと思う。

後半はショパンの<バラード>ヘ短調作品52とラフマニノフの<絵画的練習曲集>作品39から第1番と第5番、<前奏曲>作品32の5。ショパン作品は、錯綜する感情が入り乱れる作品で、一遍の交響詩的な味わいさえあると思う。ティムの演奏には、音楽にたいしてきちんとした設計を持っていたようで、ややテクニックに頼りすぎる嫌いはあるが、前半のプログラムに比べて、安心して聴けるようになった。

<絵画的練習曲集>は、見事なピアニズムの作品だが、背景となる数多くの音型がやや濁ってしまう傾向があった。おそらくペダルをより注意深く使い、より客観的に自分の演奏を聴けるようになるといいだろう。<前奏曲>は、緊張感がややほぐれた感じがするが、表現に、前進してくるような積極さが加わると面白いのではないかと思った。

多くの知人・先生が、どしゃぶりの雨の中ホールに駆けつけて、コンサートを鑑賞した。おそらく、今日演奏した曲目も、もっと時間に余裕をもって、個々の問題点に当たれば、フレンドリーな聴き手も思わず唸らせてしまう演奏が可能だったのかもしれない。


1999.5.26.

私の論文は、主題が「アメリカのネットワーク・ラジオ局によって委嘱されたアメリカのクラシック音楽」なのですが、それに使う資料はかなり限られています。そのため、必然的に一時資料(当時の書簡・自筆譜)を使うことになります。しかし、これが結構大変なんですね。

まず、どこに何があるか分からないといけない。最近はインターネットや各種データベースも便利になりましたが、それでも特定の資料となると、結構時間がかかるもんです。そして生資料ですから、使用にはそれ相当の書類仕事があるんです。

しかし、その資料集めも、いよいよ楽しい段階に入ってきました。2週間程前、国会図書館からメイルが届き、コープランドやカウエルの資料使用の許可申請先を教えてくれました。いま手紙を書いているところです。一方、ブリッツスタインの<その曲知ってる!>関連資料に対するお金もウィコンシン歴史協会に送ったので、あとはマイクロフィルムを待つばかり(と、これは以前にも書きましたね)。CBS Entertainmentもニューヨーク公立図書館所蔵の楽譜使用についてはとても簡単に承諾してくれました。問題はこの許可の手紙を送って当のニューヨーク公立図書館が資料のコピーをどれくらいで作ってくれるのか、その反応の速さです。

それにも増してうれしかったのは、作曲者の家族の方々からのお知らせ。ルイス・グリュンバーグの娘さん(?)からは、大変フレンドリーが返事が! 私が論文で扱うオペラの録音も持っているんだけど、CBSからもらった? みたいなことも書いてあって(CBSがそんなことするはずない、と分かっているので)、心の中では、もうぜったい欲しい、なんですよね。あとは、あのウィリアム・グラント・スティルの娘さんジュディスさんが今朝いきなり電話下さって、いろいろお話しを伺いました。いや〜皆さんとても親切ですね〜。もっと怖いものだと思っていたんですが、こういう風に対応していただくと、こちらもやる気が起ります。ジュディスさんも、<リノックス通り>の録音があるんじゃないかって話になって(Bay Citiesのはナレーターが入ってないという問題があるそうです)、いろいろ教えていただきました。どうもありがとう(って日本語で書いてもしょうがないか!)。


1999.5.18.

友人の情報によると、アドルノ著の『マーラー』に新訳がでたそうだ。これは妥当だと思った。何しろ、以前出ていた法政出版社の訳は読みづらくって。これで英語版を読む必要もなくなる訳だ。今のマーラー研究にアドルノを使う人はいないかもしれないけれど、日本にはそれ以上まともな研究がない、と彼は言う。そんなもんか。

先日バーンスタインの公式HPをみてたら、いろいろ未出版の資料があるのに驚いてしまった。「ミサ」関連の資料をいろいろ眺めていたら、バーンスタインが父親の反戦平和主義的な影響を強く受けたことが分かって面白かった。日本語のライナー(CBS ソニー)はレニー賛歌みたいで、作品論としてはちょっと物足りないと思った。「レニーは鬼のように忙しかった、しかし彼は遂にやった」みたいな感じだったと思う。 外盤のライナーには何か面白い情報があるのかな、と思って今日図書館でLPを見たら、テキストが載っているだけだった。だけど、きれいな写真がたくさんあって、結構イメージが湧いてきた。アメリカには、60年代の思想の反映としての「ミサ」って感じの論文があるらしいので、ぜひ一度取り寄せて読んでみたいところだ。

また、今日、Lycosジャパンという会社から、突然リンクを張ってくれとの依頼。う〜ん、こういうのって喜ぶべきなんだろっか? エンターテイメント > 音楽 > クラシック、のずっと下の方に あるみたい。

それに加えて、今日はアルカンソー大学から論文用の資料が届いて、刺激的な一時をすごした。ウィスコンシンの図書館からマイクロフィルムが届くのも待ち遠しい。


1999.5.15.

Smetana, Vaclav. Vysehrad "The High Castle" and Vltava "The Moldau" from My Country (complete recording). Chicago Symphony Orchestra; Rafael Kubelik, conductor. Mercury OL-2-100 [LP].

音こそモノラルだが(しかし、クリアな録音だ)、作品に強い共感を感じさせる素晴しい演奏。しかしこの音の鋭さ、スピード感は、彼の指揮による他の録音にはないと思う。それでいて、表情にしなやかさもあり、コントラストがはっきりしている。スメタナの交響詩が安易な描写音楽に過ぎないという人は、この演奏を聴いて、19世紀の作曲家が作り上げた偉大なドラマを味わってほしい。すでにCDも発売されている。


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