最近見たもの、聴いたもの(44)


2002年1月9日アップロード


02.1.9.

論文指導の先生の一人にあって、今セメスターのことについて話す。一つの章がいまできつつあって、早く終わらせて次に行きたいということを申し上げたのだが、それだったら今やっている90%のはおいといて、次へいった方が良いとというアドバイスをいただく。多くの章を持つ文章の長所は後で戻ってもう一度考察を深めることだという。また、とりあえず書けるところを書いてしまわないと、100%完璧な一章を仕上げるだけで終わってしまうことにもなるのだという。確かにそれは困る。彼女によると、本にとりかかっている時など出版者から問い合わせが来ることもあるそうで、そういう時には「ここは何%、あっちは何%」という風に答えることにしているそうだ。ということで、私の方はラジオ音楽に関わる「文化的背景」の章を一旦止め、音楽的な議論に入る予定だ。

掲示板の方に、演奏会の告知が入る。掲示板の趣旨とは異なるものだったので削除してしまったが、ちょっと申し訳なく思ったので、こちらに転載しておく。

DATE:  1月10日(木)11時17分04秒
TITLE: 古川展生&稲本響クラシックライブ
NAME: (財)門真市文化振興事業団  MAIL: kadomafc@lily.ocn.ne.jp

古川展生(Vc)&稲本響(Pf)クラシックライブ 
〜21世紀を担うチェロとピアノの競演〜
 
2002年2月16日(土)18:30開演
大阪府門真市 ルミエールホール(京阪電車古川橋駅下車4分)
 
料金/2500円(全席指定)
チケットぴあ、ローソンチケット、当ホールにて好評発売中!
 
出演/古川 展生(1973年京都生まれ)・稲本 響(1977年大阪生まれ)
クラシック界を揺るがす関西出身の若き音楽家!
そんな二人が魅せる!聴かせる!すごいコンサートです。
今後の活躍が最も期待される二人。今のうちに要チェックです! 
 
曲目/フォーレ:夢のあとに、サン=サーンス:白鳥
ポッパー:ハンガリー狂詩曲、ショパン:幻想即興曲、ノクターン第2番
リスト:ハンガリアン・ラプソディ、稲本響:スペインの霧
ほか

お問い合わせ/06−6908−5300

02.1.9.

故郷のタウン情報誌のための記事を送信、ならびにデジカメの画像を送る。富山の芸術音楽シーンを全面的に肯定する内容にしてみた。まずは地域の方々の覚醒と関心が何よりも大切ではないかと考えたからだ。本当は桐朋大学院大学や呉羽にある芸術創造センター(だったかな?)についても書くべきだったんだろうが、何分富山を長く離れていることもあって、実態が分かってない。アマチュアのオーケストラや合唱団、プロのピアニストや声楽家の存在もあるけれど、あえてここは、自分が高校まで過ごした富山と、学部時代の新潟との比較を主題としてみた。編集の方に気にっていただいて、ほっとしている。

写真の方は何にしようか迷ったあげく、音楽図書館のレコードコレクションやCDコレクションの棚や引き出しを送っておいた。自分が音楽研究をしているのだし、やはりこういう図書館の存在というのは、日本とアメリカの大きな格差につながると考えるからだ。


02.1.18.
 
例1
懐かしい歌謡曲をいくつか聴く。和田アキ子の歌った《あの鐘を鳴らすのはあなた》(いや、これは長く歌われているから「懐かしい」というのは語弊があるだろうか)。作曲が森田公一(《青春時代》など)で作詞が阿久悠(美空ひばりからピンクレディーなどなど)なのだそうだ。阿久悠の公式ホームページによる発言に従えば、この和田の歌った作品は歌謡曲であるから、詩が初めにありきということなのだろう。

詩の内容も私としてはかなり斬新だと思うが、もっと驚いたのは冒頭の和音。最初の2小節だけ取り出せば、70年代のニューヨークも思い起こすようなコード進行(←例1)。  後の「街」のイメージにつながっているのだろうが、それにしても、歌との絡み合いを考えると大胆なコードの使用。ドラムがリードする部分からのコード進行というのは、すぐに覚えられそうだが、この冒頭の部分は、何回か頭にくっつけないと覚えられないと思う。1箇所、ものすごい不協和音がちらっとでるところもあり、これでいいのだろうか、とさえ思ったのだが、きっとこれが中間部やサビの、より定石を踏んだコード進行と対照させられるのかもしれない。

(02.1.19. 追記:これは鐘の音か。なんで昨日は気が付かなかったんだろう!)

そして歌詞。初めは阿久悠ということを知らずに聞いていたのだが、素人っぽさが全くなくて、プロだな〜っと思わせる内容(「希望の匂い」というのは、現代の我々にはちょっと分かりづらいかもしれないが、それは時代性という壁であり、ポピュラー音楽の生命でもある)。最初は冷めているようでいて、しかし歌が進むにつれて、ぐいぐいと迫ってくる。特にリフレインの部分=サビの部分は本当に一気に持っていかれるような感じだ。

サウンドとしても、冒頭のアメリカの都会を感じさせるものと同時に、熱いロック調、そしてさり気なくバックにホルンやストリングスが入ってくるなど、いい時代の歌謡曲だな〜、と思わせる(「ウ」から「ア」へのバックコーラスのハーモニーも聞かせる)。もちろん和田アキ子の歌唱が優れているのは言うまでもない。そしてこの曲は、彼女の楽曲では、音域が広い方ではないだろうか。低声から高声へと、配分もうまくなされて、ヴァースの前半と後半、リフレインと、非常に分かりやすい構成になっている。名曲だと思う。

続いてクリスタルキングの《大都会》。ポップシンガーで、あれくらいの高音域を歌える人は、本当はそれほど少なくないのかもしれない。しかし冒頭からいきなり来るのは型破りだったろう(ある意味禁じ手だったようにさえ思う)。あのインパクトを超える次作というのは、誰でも作るのが大変ではないだろうか。歌い方のコントラストも面白い。リフレインの突き抜けるような洗練された滑らかなテナーと、アウトローでこぶしも若干はいったヴァースの部分。デュエットの部分は、そういった面でニュートラルになるんだろうか(こういった男性デュオでは、当時は何と言っても《あずさ2号》の狩人ということになるのかもしれない)。

この曲はアレンジの人も大変うまいと思う。ヴァースの1番と2番のベースの入り方、ストリングスの使い方など(暖かさではなく寒さや風を演出する不協和な音など)、キャラクターが微妙に変わっている。例の高声のリフレインがヴァース1番の後に使えないこともあって、その分、ヴァースを面白さを何とか確保しなければならないということなのだろう。センスがいいな、と思う。リフレインも最後に現れるが、あのしつこい前置きも、「待ってました」の期待を持ち上げるのに、かえって効果的だ。

(02.1.20追記) ちょっと調べたところによると、この《大都会》という楽曲、何でも出身地博多ではすでに売れていたクリスタルキングが全国区進出を狙って世界歌謡祭の審査を受けたものだそうだ。第10回世界歌謡祭グランプリ受賞というのはたしかにこの録音の完成度からも大いに推測できるが、「田中昌之のハイトーン」が審査員へのアピールともなっていたそうだ。確かにそれは一つの戦略として成功だったし、結果としてこの《大都会》という名作が生まれたことは高く評価できるだろう。それが、彼らのその後のキャリアにどのように響いたのか、もちろん私は知らないのだが、それほど容易な道が引かれていなかったように見えてしまうのは、私の無知のせいだろうか。これを機に、彼らの他の楽曲も聴いてみる必要性を感じた。

1つの曲が永遠と語り継がれるというのも、もちろん名誉なことだと私個人は思う。

……と、以上、シロートが専門家ぶって戯言を書くという試みをやってみました。個人のサイトならではの恥かき文として、ここまで読んで下さった方には深く感謝!

(02.1.21.追記)上記私の戯れ文の誤りを、ののさんが丁寧に指摘下さったので、以下に掲示板から転載しておきます。

クリスタルキングの思い出 投稿者:のの  投稿日: 1月22日(火)11時18分35秒 

『大都会』がヒットした時は、少なくとも谷口さんは小学生だったと
思いますが、記憶にありませんか?次作はたしか資生堂のCMソング
で、前作ほどのヒットではないものの、チャート1位は取ったはず。

ただこれは、「前作の雰囲気を残してところどころ変えた曲」だった
ので、シングル3枚目で行き詰まったように記憶しています(この頃
はこういうのが多かった:松田聖子の『青い珊瑚礁』→『風は秋色』
とか)。聖子はその次からユーミンに作曲者を代えて成功したけど、
クリキンは自作自演だったからしかたなかったのでしょう。その後、
『北斗の拳』の主題歌で一度スマッシュヒットを飛ばしたものの、
その後間もなく田中氏は脱退(ソロ活動中)。バンドとしては、
まだ活動していると思います。

当時はヴォーカルばかりに気を取られていたけど、今ではむしろ、
バンドサウンドがどんな感じだったのかに興味があるんですよね。
キング・クリムゾンにあやかってバンド名を付けたくらいだから。
(02.1.3.29.追記) 「ストリングスの使い方など(暖かさではなく寒さや風を演出する不協和な音など)」の部分ですが、よく考えてみたら、これは和音が不協和な訳じゃないですね。ハーモニクスの使用による音色的な工夫とすべきでした。
 
 

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