最近見たもの、聴いたもの(40)


2001年11月25日アップロード


01.11.25.

マーク・ターネジ 3人の叫ぶ教皇 レナード・スラトキン指揮ナショナル交響楽団 WETA-FM, Washington, DC.

世にいう「分かりやすい現代音楽作品」…フレージングや協和音の混ざり具合でこの接しやすさが決定されているのかもしれない。あるいは標題との結びつき。でもプログラム2曲目のRVW第4交響曲の方が、納得できてしまう。なぜだろう。


01.11.27.

市川幹人さんのサイトに紹介されていたので、ユージン・オーマンディ/フィラデルフィアの《新世界から》を聴いてみた(米Columbia ML 4023(LP)[私のは、おそらく再発売盤なんだろう(プレスは第1回目のようだけど)])。一番古いモノラルの録音なのだが、確かに第4楽章の終盤にシンバルが2つ余計に入っている。市川さんによると、これはストコフスキーの影響とのこと。なるほど。個人的な好みを言えば、ややもったいぶった所があるようにも思うのだが、何度も録音しているところをみると、やはりオーマンディの十八番だったのかもしれない。

この曲で一番最初に聴いたのはバーンスタインの旧録だったのだが、あの第1楽章の切迫感というのは、中学生の私には強烈な印象を与えた(もちろんケルテス/VPOも良かったけれど)。当時FM放送でやっていた諸井誠さんの番組で、クーベリックやジュリーニにも出会ったし(私は前者の方が好きだ)、その後、ショルティ、テンシュテットなど、面白い盤も聴くことができた(結構FMではかかってたということか)。レヴァイン/シカゴなんかは、さらっと通しただけという批評があって(『週刊FM』だったと思う)、確かにそんな感じだったんだけれど、都会的なセンスも私は感じていた(そのころレヴァインが誰だとかどうとか、全然知らなかったけれど)。ブルーノ・ワルターだって、旅情たっぷりという感じで(ボキャ貧!)、割と良かった記憶がある。カラヤンやコリン・ディヴィス/コンセルトヘボウの良さが分からないのは情けない限りだが。

ということで、この曲は結構たくさん聴いている。チャイコとかドヴォルザークは、「いつかは卒業すべき」だと言われるが、私はどうもだめみたいだ(そう、チャイコも)。ついこの間も、《新世界から》の終結部の和音をキーボードで叩きたくなって、スコアを借りてきた。再現部の終結主題(何げにペンタトニック調)、変イ長調から始まってホルン信号が繰り返されると、トランペットがここぞとばかりイ長調へ(すぐ短調へ戻るのだが)。おお、これはすごい転調だ。減和音の上昇と半音階の下降が目まぐるしく交替して、IVとVが執拗に提示させる。このクライマックスの作り方は、ちょっと真似するとバレちゃうくらいオリジナルではないだろうか。そういえば第2主題もG上のドリア旋法だしなあ。この辺も、何か「故郷から離れた」って感じがする。おそらくこういうのと《新世界より》というタイトルが微妙に反応しあって、「ニューヨークのチェコ人」の風情(ボキャ貧!)を出しているんだろうと思う。


01.11.29.

普段LPレコードは、公立図書館で1枚35セントのを買うか、大学図書館で借りてくるのだが、久しぶりに中古屋で注文してみた。内容としては、独立戦争期から書かれたアメリカの古いピアノ曲を、アラン・マンデールが録音したDestoの3枚組LP。アメリカの音楽史というのは、何だかんだいっても、バロック時代まで遡るので(南米ならルネサンスか)、ピアノの演奏というのは違うのかもしれないけれど、録音が少ないし、CDになっていない曲も入っているのでとりあえず。

その他Franco Columboという会社が出していたERRLという、吹奏楽作品のシリーズものから3枚。カウエルのShoonthreeの入ったもの、クレストンの前奏曲と踊りやロジャー・ニクソン作品が入っているもの、そして、ジャンニーニの作品集(レヴェリ指揮)だ。吹奏楽以外では、パーシケッティのセレナーデの入ったGolden CrestoのLPも。

在庫はあるようなので、あとは到着するのを待つのみ。

CDとして聴いたのは、フィリップ・グラスの《the CIVIL warS》の第5幕(Nonesuch)。オーケストラ作品になると、それなりに聞きごたえのあるグラスだが、やはり和声進行にお決まりなところがあって…。まあそれでも作曲家として続いているのだから、それなりの才能として認めるべきなのだろうか。


01.11.30.

ベートーヴェン 交響曲第7番・第8番 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団 CBS Masterworks MK 42013

ワルターのベートーヴェンというと、何といっても《田園》が有名。そこでまったく性格の異なった第7はどうかと期待して聴いてみた。結果的には満足。ベト7というと、自発的な音の立ち上がりやリズム的なノリを期待してしまうのだが、弦楽器と管楽器の混ざり方や、それによる微妙な陰影というものが、この演奏で発見できた。単に勢いがよいだけではないのだ。第8も、後半楽章はややくどさを感じてしまうのだが、こういった自然体の演奏で迫られると、それも心地よくなるから不思議だ。ドキドキするようなものを求めると不満がでるのかもしれないが、やはり多様な解釈の可能性を探るには、聴いておいて良かったと思った。


01.12.01.

英オリンピアのアルバム「The Essential Gorecki」を聴く。作曲者が選定した5つの作品をおさめているが、いわゆる前衛の作風のものが集まっている。演奏のせいもあるのかもしれないが、どうも曲に入り込めない。

グレツキの作品に出会ったのは、東京で修士の学生をしていた時代だが、出会ったのは福島大学の作曲科研究室。中にはヨーロッパを中心とした現代音楽のカセットが350本あまりあって、その中から友人が「ヨーロッパでは昔から隠れた名曲だ」といって紹介してくれたのが、グレツキの第3交響曲だった。かなり授業で聴かれたらしく、テープもあまり状態が良くないといっていたけれど、私はどうもその時どう思ったか、覚えていない。その友人は曲をかけながら旋律の堆積するのを説明してくれたのだったと思うのだが、私の覚えているのはそれくらい。確か初演者による録音だと聴いて、私も後にkoch Schwannから出たCDを秋葉原で買った。例のノンサッチのが出る、数カ月前だったと思う。ジンマンのCDを聴いたのは、レコード店の視聴機だったと思うのだが、混沌とした感じは、KochのCD以上だった。

メデスキ・マーティン・アンド・ウッドの夜 タラハシ、フロイズ・ミュージック・ストア 午後9時

開始予定の9時から1時間半も待たされてのライブだったが、おそらく私がタラハシで体験した音楽では最良なものの1つだったと思う。即興法はジャズ、リズム系はロック、サンプリングはテクノ、ハモンド・オルガンはファンク系、ンビラ(アフリカの指ピアノ--なんて書くと民族音楽学の人からお叱りを受けるが)などはワールド・ビート、その他にもラップ系DJが使いそうな音(?)も入る(???)。これは面白いバンドだ。ロックのリズム系といったが、いわゆるフリービートになるところもあり、まぜ方にも面白さがある。

でも、そんなことよりも何よりも、彼らが多様な音楽的影響の中から、何の変哲もないかのように自分たちのスタイルを確立しているのがすごい。特にキーボーディストは多時代にわたるテクノロジーを一手に背負い、鮮やかな即興技術で聴かせる(アコースティック・ピアノの即興は、完全にジャズの世界)。ベーシストについては、おそらくこの3人の中では音色が限られている分一番難しいのかもしれないが、サポーターとしての役割はしっかりしている(ソロはPAのきき過ぎで、聞きにくかったけれど)。クラシックと違って、気の知れ合ったミュージシャンが相互に絡み合って音楽作りを続けているところに、強く共感する。

アヴァン系の音響を最初に持ってくることもあると友人が行っていたが、このコンサートでは、前半は割と即興の流れが分かる、分かりやすいもの。タラハシの登場が初めてということもあって、とりあえず聴衆の興味を引き付ける必要もあったのかもしれない。

ただ、冒頭からネタを一気にだしてしまったからか、私のような無知な聴衆にはサンプルとしてありがたかったのだが、後半の展開に若干難しさが出てきたような気がした。ンビラを1曲目から出していたこともあり、ペース配分の難しさを感じたりもした。

聴衆は95パーセントが白人。最近はこういう演奏会場には録音機材を堂々と持ち込めるそうで(クラシックでは考えられない!)舞台後方で、4人が、高価なマイクとスタンド、DATレコーダーをセットアップしていた。機材を置くためのテーブルも会場のものを使っていたようだ。中にはコンサートのあるごとにこういう録音をしている人もいるそうで、家にはたくさんの私蔵テープがあるとのこと。ある程度ミュージシャンとの信頼関係があるからこそ、こういうことができるのか。はたまた商業的な利益ばかりは考えていないぞということなのか。

それにしても、こういう音楽でビートに合わせて首を振るのは、やはり因習的なロックの流れを、このバンドが持っているからなのか、あるいは聴衆がそういうのを期待してるということなのか。その辺も、シロートの私としては興味のあるところだ。踊っている人もかなりいた。会場のざわめきも、クラシックの人間にとっては新鮮。

ちなみに入場料は20ドルで「再入場なし」。この小さな町では異例の高値だそうだ。そのためか、当日券も楽々手に入ったという。しかし、チケットを入手してくれた友人によると、ワシントンDCなどでは発売2日でチケットが全部はけるのだとか。チケットの容易な入手は小さな町に住む利点と考えるべきか否か。ここに来る前は、日本でコンサートをしていたという情報も耳に挟んだ。ブルーノートからCDも出ていると言う(へ〜、ハードコアーなジャズ・レーベルだと思ってたけど)。かなり有名なのだろうな。12時前後を見計らって、途中退場。


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