最近見たもの、聴いたもの(4)


1999年5月14日アップロード


1999.5.7.

Indian Music of the Southwest. Folkways FW 8850 [LP]. Recorded by Laura Boulton.

南西部の先住民の音楽は、大平原地帯とよく似た発声法を用いるが、音域が低く、うなるような音色が特徴なのだそうだ。確かに一聴して分かるのは低い音域、どっしりとした響きだ。あえてアナクロな言葉をつかえば、より男性的といえるのだろうか。それは特に1曲目のアリゾナ州のホピ族の歌に感じられる。

FolkwaysのLPはニュースレターみたいな解説書がジャケット内に挿入されているのだが、この図書館のレコードでは、それがすでに紛失してしまっている。仕方がないので聴いた感じだけでコメントするしかないが、A/4は、やや音域が高い(タオス族)。上から下降してくる音型が多く、ナヴァホ族の歌では、一度下降するとしばらく下にとどまるようだ。それにしても、どの曲も、斉唱はとてもパワフルだ。B面に収録されているアパッチ族の「馬の踊り」にはこれまでに無かった6/8拍子がつかわれている。まさか騎馬民族の3拍子系などという説を持ち出そうとは思わないけれど、他の曲とはちがって、これはリズムがとても軽くはずむような感じになっていると思った。

The Chinese Opera: Arias from Eight Peking Operas. Performers of the Fu Hsing Opera Academy, Taiwan. Lyrichord LLST 7212 [LP].

京劇(Ching Hsi)を文脈から切り離して聴くことにこれだけ意味があるのか分からないが、ライナーのタイトルの所には、それぞれの楽曲がどのような役回りの役者によってうたわれ、どのようなテンポや唱法が使われているのかが記述されているので、おそらく音楽的スタイルに焦点を当てて聴けということなのだろう。しかし「老生のスタイル」といわれても、それがどういうものなのか分からないところが厳しい。本を読まねばならないということか。私はどうしても西洋の長調・短調の概念に惑わされてしまうのだが、例えば、A面の3曲めには、『三国史』の登場人物が捕えられて、嘆くという設定の歌があるのだが、聴いた感じはいつものエネルギッシュなソーナ(リード楽器)によるメジャー・モードの歌で、単純に西洋の調性概念が当てはまらない難しさを感じた。


1999.5.2.

日本では、何やら「だんご三兄弟」というのが流行っているらしい、と日本人学生会のパーティーでちょっと話題になる。MP3ファイルをもっている人がいて、その曲を聞かせてくれた。私を含めてほとんどの人は初めて聴いたようだった。私の小さいころは皆川おさむの「黒猫のタンゴ」というのが流行ったが、しかしまた、どうしてこんな時期に? 「不況の時はタンゴがはやるんですよ」と誰かが言っていたが、本当はどうなんだろう? 私が音楽専門ということで、「どうしてこんな曲がはやるのでしょうねぇ」と質問した人がいたが、私もどうしてこんな曲が流行るのか、理由はわからない。「NHKはもともと利益追及しない放送局ですから、狙っていたとはおもえませんけどね」と、とりあえず答えておいた。後付けの理由はいくらでもつくんだろうけど、こういう社会現象というものは、本当に捉えにくい。

「日本の音楽」の授業をとっていたヴァージニア(沖縄生まれだが、アメリカで育ったのか、日本語は学校で習った程度しかできない)という学生が、ポピュラー音楽の回が面白かったと言っていた。でも「先生はビデオを早送りばかりしちゃって」と不満そうだった。私個人としては、J-Pop、結構イケると思いますよ。2年前、「民族音楽学序論」という授業でも、B'zのLove PhantomとかgloveのJoy to the Worldとか聞かせましたが、先生も「奇麗だね」といってくれたし。森進一の「湯の町ブルース」を聴いていたドイツ人が、1950年代のフランスだと、こんな曲がたくさんあったよ、みたいなことを言ってくれていたし。いまでもあの時の発表を思い出してくれる友人もいるし。やっぱお箏や三味線だけじゃないんすよ、日本の音楽って!


Borodin, Alexander (1833-87). String Quartet No. 2 in D. The Borodin Quartet. London STS 15046 [LP].

やさしい旋律が印象に残る第1楽章(ソナタ形式?)。第1主題がチェロに当てられているのは、作曲者がアマチュアのチェリストだったからかもしれないと、ライナーにはある。展開部は、呈示部に比べると旋律の聞かせどころが少ないように思われる。旋律がいいから再現部は移行部なども面白いのだが。呈示部に反復記号があるのであれば、反復すれば良かったと思う。

第2楽章はスケルツォ。アイディア的にはそれほど豊富ではないが、うまく展開することで補おうとしているように感じられる。トリオは主部と違って、様々な要素が交錯するが、整えて音楽的にするのは難しいと思った。

第3楽章は、「夜想曲 Notturne」だそうだ。チェロが主導権を握るが、ヴァイオリンがそれを引き継ぐ。オーケストレーションとしてはやや唐突な感じもするが、演奏のせいかもしれない。後半は夜想曲という親密な感じよりも、もっと情感あふれる音楽が展開される。ヴィオラや第2ヴァイオリンにも短く魅力的なパッセージが与えられ、そのためか、ライナーには「おのおのの楽器が順々に、今まで書かれた中で最も美しいこの夜の音楽の主役を演ずる」と書いてある。

第4楽章は序奏のあと、軽快な旋律に始まる。しかし形式は把握しにくい。「自由なソナタ形式」とライナーには書いてあるが、確かにストレートには分からない。どの旋律を追うのか焦点が弱くなるし、旋律そのものが印象に残っていない(私の集中力の不足のせいだと思うが)。

ボロディン弦楽四重奏は各楽器の歌わせ方がうまく、曲全体の構成をよく把握していると思う。これは演奏者に拍手だろう。1962年の録音。


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