最近見たもの、聴いたもの(39)


2001年11月25日アップロード


01.11.21.

論文指導の先生の1人と雑談。ウィリアム・グラント・スティルの《リノックス通り》の資料(原稿)を借りてコピー。デューク・エリントンの《ハーレム》と比較するのだそうだ。最終的にはグローフェなども含め、アメリカの風景と音楽といった一冊の本になる予定だとか。一方でご主人と一緒にレオン・オルンスタインの本にも着手しておられるという。こちらも楽しみ。前者は2003年に、ノースイースタン大学出版局から発売の予定だ。

昨日は、とある掲示板で話題になっていた、ベートーヴェンの第4交響曲を聴く。4番というのは、ベートーヴェンの中では、非常にやりにくい曲ではないだろうか。第1楽章の、訳の分からない序奏からして、一体これは何だろう、と思わせる(「これ何調だっけ?」というアレだ)。そうでなくとも、気品とユーモアの間で、物語と詩との間で、重厚さと軽妙さの間で、どう切り込んで行くかが、ひどく困難な作品だろう。しかも、第7とちがって、そのバランスの取り方が、各楽章で、かなり細かく要求される。クライバーのCDが出た時は、あのテンポにみんな驚いたと思うのだが、今日では、もはやその驚きもなくなり、スタンダード名盤とさえなりつつあるように思う。しかし、あのCDの最大の問題は、あの演奏以外の演奏が聴けなくなるということだろうか。それだけインパクトのある演奏だ。 今聴いているのはアーノンクールだが、これもそんなに悪くない。


01.11.23.

ブラームス 交響曲第3番 レオポルド・ストコフスキー指揮ヒューストン交響楽団 米Everest SDBR 3030(LP)

エヴェレスト録音ゆえ、音がやや押し付けがましく聞こえるが、実演ではもっとずっしりとした落ち着いたものだろう。「あれ、ここ、こんな響きだったっけ」と驚く箇所もあるが、それはおそらく彼お得意の改変ではなく、ストコフスキーによる魅力の発見ではないかと思う。オケの響きも確かに気になるかもしれないが、それはヨーロッパのオーソドックスを持ち出してとやかく比較すべきではない。まずはどれだけ音楽そのものに感動したか、それを考えるべきではないだろうか。私の感じる問題は、弱音の扱い方だろうか。しかし全体としては分かりやすく、充実した秀演だ。

ブルーノ・ワルター:アーノルド・ミカエリスとの対話 米Columbia BW 80(LP)

おそらくワルター80歳の誕生日を記念して作られた、非売品のLP(近年CDになったようだが)。モーツァルト、ブルックナー、マーラーの諸作品について、自由に語り、時にはミカエリス(ニューヨークのラジオWXQRのプロデューサーのようだ)が、しらじらしく録音セッションの問題に導いたりする。ワルター自身の音楽に対する構え方も面白いが、「歴史の語り部」としての証言に、私は耳を惹かれる。音楽学者がホコリの中から文献を探し出して事実を客観的に探究する過程とは違い、歴史の動いていたその場に直接居合わせたこの音楽家が何を観たのか、何を聴いたのか。その肉迫感と言葉の重みに、感動してしまう。

細かなところでは、ミカエリスがワルター(ヴァルターと発音している)を「ドクター」と呼んでいるのも、耳に残ったし、モーツァルトの《リンツ》交響曲のリハーサルを無断で録音したエピソードも面白かった。あれは「罠」だったとワルターは言うが、後世の音楽家のためにもなるし、それなりの価値を見い出したために、その商業発売は承諾されたのだという。なるほど、それは一度聴いてみたい。

なお、このLPには「Special Bruno Walter Tribute」という25センチ・ボーナス・レコードが付いている。ロッテ・レーマン、ジョセフ・シゲティ、レナード・バーンスタイン、ジョン・コリリアーノ(父)などが、短い誕生日記念メッセージを添えている。この中では、バーンスタインが、妙にエリートっぽく気取って聞こえたのが、「とても彼らしいなあ」と、私を微笑ませてくれた。


01.11.24.

フレデリック・ディーリアス 人生のミサ トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団ほか 米Columbia SL-197(LP)

もう10年以上前、ビーチャムの指揮したディーリアス選集のCDを買ったことがある。EMIの国内盤だったと思う。その音楽に、静謐(せいひつ)さは感じていたのだが、どうも起伏に富んだドラマに欠けると、勝手に思っていた。その偏見は、ここにかくも無惨に打ち砕かれる。ワーグナーやマーラーさえ思わせる大管弦楽と合唱、豊かで爽快な和声、そして、この包容力と生命力。やれらた! なお、ビーチャムがこの曲を全曲録音しているのは、これが唯一なのだとか。

参考サイト:www.chihiro.net


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