最近見たもの、聴いたもの(38)


2001年11月13日アップロード


01.11.01.

ラジオ番組のテープを送る。炭阻菌テロの影響で、11月分テープが間に合わず、1月に放送されることになった。内容は「アメリカらしくないアメリカ音楽」といった感じ。ヨーロッパ的と断定することもできないんだけど、アメリカ的かといえば良く分からないという感じのもの。クレストンの第2交響曲、第2楽章をやってなかったので、それを収録しておいた。送った12月の分は、もちろんクリスマス特集。ヒリアー指揮のCD、ロックハート/ボストン・ポップスの他、ハンドベルの演奏も。ロデオの《ホーダウン》は厳密にはクリスマスではないが、ハンドベルでやったというのがすごいので入れておいた。詳細はまた後のお楽しみ。


01.11.09.

きちんとした文章がかけるほど、今週はCDを聞いていない。論文に時間が随分取られてしまうものだ。

「グイド・カンテッリの伝説」第1巻という名のついた5枚組のLPを聞き流し始める。このトスカニーニ協会盤の録音は、いずれもラジオ放送からで、アナウンスも入っている。柔らかで聴きやすい音質だ。オケはNBC交響楽団、カーネギー・ホールでの演奏から。ただしベートーヴェンの第5交響曲のリハーサルをフィルハーモニア管弦楽団とやった(1956年)のも収録されている。録音がオケ向きになっているため、カンテッリの声が遠いのが残念。それに、この断片だと、彼の数重なるリハーサルのイメージが伝わって来ない。なかなか厳しそうな指摘をしているのだろうな、と雰囲気を想像することは不可能ではないけれど。

カンテッリは若くして飛行機事故にて亡くなったというが、本当にそれは惜しいことだと思う。この音の立ち上がりの良さ、鳴りっぷりというのはトスカニーニ時代にも見られたのだろうが、重厚さを持ちながら、決して足枷せにならないその機能性と、颯爽(さっそう)とした思いきりの良さが否応なしに聴き手を引き込む。ティンパニーなど、リズムの確かさも聴かせどころなのかもしれない。とりあえずはベートーヴェンの5番・1番、シューマンの4番といったドイツものから聴き始めているが、これからチャイコフスキーの4番、ラヴェルなどのフランスものと続く。この指揮者がどういった顔を見せるのだろうか。

熱狂的な聴衆の拍手に驚くが、最後の音か切れたか切れないかで拍手の始まるのには、やはり抵抗がある。


01.11.13.

論文を主任教授に見てもらう。訂正をあちこちにしてもらって、助かる。木曜日には、やはりアトランタで行われるアメリカ音楽学会に向かうそうだ。

研究室にあった、新しい音楽鑑賞の教科書をお借りしてくる。Jeremy Yudkinという中世音楽の専門家(ボストン大学)が書いたUnderstanding Musicというもの。総カラー印刷で大判。やっぱり豪華だ。CDやビデオが教師用資料として用意されていて、指導用教科書も別にある。これはまるで、日本の中学・高校の教科書のようだ。でも、やっぱり面白いのは、中世から現代の西洋音楽史の部分でよりも、導入の部分。民族音楽やポピュラー音楽を取り入れた社会的・文化的考察。やはりこの辺りは、近年の研究が教科書レベルの記述にも、否応無しに影響していることを示している。

西洋音楽の様式史なんてとおっしゃる方もいらっしゃるだろうが、こと学部生の導入レベルになると、これは学問の基礎となっている。確かに学問の流行を反映して、社会学的・文化的考察も多くなっているが、それはそのまま学習内容のシフトではなく、様式史の上に限り無く堆積して、音楽鑑賞を豊かにしていくものだと思う。民族音楽・ポピュラー音楽の割合が、クラシックに比べて低いことも指摘されるだろうが、それは「西洋音楽史」の範囲でこう扱われるべきであるという、せいいっぱいの背伸びではないだろうか。民族音楽に関しては、「世界の音楽文化」という講議があり、そちらでの扱いでは、反対にクラシックの流れはほとんどない。民族音楽学者の中には、諸民族の音楽における歴史について考える人もおり、これからますます音楽学の諸領域の交流は深まってくると思う。音楽史の地理的拡大と、民族音楽学の歴史的拡大。これは大きな目でみる音楽研究の流れなのだろう。

アメリカの音楽史の授業には3つのレベルがある。一つは学部専攻外生向きの音楽鑑賞の授業。これが西洋音楽を柱とした音楽全般の広く・浅くの概観。二つ目は演奏専攻生向けの音楽史。たいていバロックの終わりで2つに別れる。様式考察がより細かくなると「Literature」という名前の授業になる。もう一つは音楽史専攻生用の音楽史の授業で、大学院生と混ざっての学習となる。これは中世から20世紀を6つに分けた各時代史であり、教える人によって、この内容は変わるが、特定のトピックを深くやるのではなく、やはり一通りのことを勉強することになっている。いわゆるゼミの場合は、教授が実際に研究していることや、関心のあることを深く取り上げるものであり、日本でも、こういうものは多くあるのではないだろうか。

それにしても、音楽史を全部扱おうとすると、どうしてもバロックまでの流れも大きなウェイトを占めるなあ。今日実際にコンサートに上がる曲目は大半がそれ以降。このギャップはどうしたらいいんだろう。


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