最近見たもの、聴いたもの(32)


2001年7月10日アップロード


01.6.27.

ラジオ番組のために、Bordersに出かける。本とCDという、絶好の組み合わせのお店で、品揃えも、この田舎では一番。Deccaから出たIves When the Moon、Naxosから出たカーペンター交響曲第1・第2、Smithsonian/Folkwaysレーベルの「公民権運動時代の歌」などを買う(音質的には、これは記録の色合いの濃いCDだなあ。)。本当はゴスペル系が欲しかったのだが、どうも知識不足でたじろいでしまう。また来よう。夜はSmithsonian/Folkwaysの「Wade in the Water」4枚組を聞きながら、使えそうな曲を探す。Community Gospelにはいいのがあるなあ。まぶたがユルユルになってしまうものもあって、すごい。実際の礼拝からの録音だ。反復は基本、なんですね。音楽的に聞き応えがあるというのもそうだが、どちらかというと、宗教的なすごさと言う感じか。Congregational Singingも濃い。音楽というのはテクニックではない(モノによっては「テクニックだけではない」)というのが分かる。Concert Traditionが一番マトモすぎてつまらない。その他は黒人霊歌のCDを聴く。バーバラ・ヘンドリックスのCDが気に入った。適当に即興もできるところなど、なかなかクラシックのミュージシャンにはできないのではないかと思った。


01.6.28.

ラジオ番組のテープを徹夜で作ったため、今日は疲れ気味。友人と、クリスチャンの本屋に出かける。Oswald Chambers著のThe Utmost for the Highestを買う。クリスチャンの本としては、メジャーなそうだ。聖書の一句が引用され、それについてのコメントが続いている。神学的な問題よりも、おそらく信仰の助けになるような性格のものではないかと思う。1日1ページで進む、聖務日課や祈りの本のようなものなのだろうか。


01.6.29.

ブラームス セレナーデ作品イ長調作品11、悲劇的序曲、大学祝典序曲 マイケル・ティルソン=トーマス指揮ロンドン交響楽団 ソニー SK 45932

セレナーデ路線の音楽というのは、たいていBGMとして心地よいものになって終わってしまうところが私にはある。それが私がこういった作品をきちんと楽しめていない要因にもなっているのだろう。しかし、これはマジメに聴こうと思った。ティルソン=トーマスの評価がまた上がったような気がする。《大学祝典序曲》もきっちりとポイントをつかんでいるという印象。

ユージン・イザイ ヴァイオリン録音全集 ソニー(Masterworks Heritage) MHK 62337

なかなか品のいいヴァイオリンだ。こういう時代というのは、ポルタメントたっぷりのドロドロした感じの音楽作りなのだろうか、という偏見を持っていたが、それは自分の無知だと、改めなければいけない。

最近車の中で面白い演奏に出会った。一つは、ミカエル・プレトニョフの弾いた、ラフマニノフの《パガニーニの主題による変奏曲》(ただし、第2〜第3楽章のみ)。おなじみ《カプリース》の主題をつかったピアノ協奏曲風の作品だが、明るい音色と確かなテクニックによる迫力は魅力的だった。もう一つが、アーサー・フィードラー/ボストン・ポップスによる、ショスタコの《祝典序曲》。このタイトルを聴くと、「あ、またあの曲か」と思ってしまうのだが、何ともこの演奏がかっこいい。またラジオ局も狙ったのか、曲をかける前に演奏者を告げなかった。聴いているこっちは「これカッコいい、いったい誰?」と気になり続ける。運転には良くなんですけれど、それがまたフィードラーときて、びっくり。でも、これだけのためにCD1枚買うべきか、きっと迷うだろうなあ。とりあえず、モートン・グールドの演奏でがっかりした人には、これを強く勧めたい。ロシア系の演奏を聴けば、また変わるかな? まあ、そこまで熱心に聴くつもりはないのですけれど。ちょっと前やってた、カバレフスキーだったかのチェロ協奏曲もよかったなあ。


01.6.30.

メンデルスゾーン ヴァイオリン・ソナタヘ短調作品4、同ヘ長調作品番号なし シェロモ・ミンツ(ヴァイオリン)、ポール・オストロヴスキー(ピアノ)グラモフォン419 244-2

《真夏の夜の夢》や《無言歌》でメンデルスゾーンを捉えるのは、もったいないと思う。私が素晴らしいと思うのは、八重奏曲や、ピアノ三重奏曲第1番、ヴァイオリン協奏曲だ。このヴァイオリン・ソナタも、ベートーヴェン的な響きはするものの、形式観のしっかりとした、均整美のとれた作品だと思う。

コダーイ 管弦楽のための協奏曲 ヤノシュ・フェレンツィク指揮ブタペスト・フィルハーモニー管弦楽団 ハンガリー フンガロトン HCD 12190-2

《オケ・コン》といえばバルトークが有名だが、年代的にはこちらが先のようだ(1939年、バルトークのは1943年が初版)。前半楽章は19世紀的なものも感じたが、後半はやはり民族主義的味わいがあると思った。フェレンツィクは感情の高ぶりをうまくオケから引き出しているのではないだろうか。


01.7.1.

プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番 ゲイリー・グラフマン(ピアノ)、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 米CBS MYK 37806.

かっちりとしたリズム感と鮮やかなピアニズムによる好演。セルのコントロールも見事であり、全体が一丸となって迫ってくる。


01.7.2.

ショスタコーヴィチ 交響曲第4番 ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団 米コロンビアMS 6460(LP)

きっちりとしたスコアの読み込みが感じられる好演。形式的に奇抜とされる両端楽章も、主要な動機を明確に提示することで追いやすい。録音のせいかもしれないが、「厚みのある」「鮮やかな」「色彩感のある」「フィラデル・サウンド」というのは、ショスタコーヴィチの作品ゆえか、あまりこの演奏には当てはまらない。いや、むしろそういう先入観を持つことが良くないのかもしれない。フィナーレの盛り上げ方には異論があるかもしれないが、総じて上質だと思う。

ミャスコフスキー チェロ・ソナタ第1番ニ長調作品12、第2番イ短調作品81 イェフダ・ハナニ(チェロ)、ダフネ・スポッティスウッド(ピアノ) 米Finnandar SR 9022(LP)

少ない作品で、特定の作曲家全体を判断することが危険だとは知っていても、この曲を聴くまで、私のミャスコフスキーのイメージは、吹奏楽のための交響曲第19番のみでできていた。その民族主義的な、不思議な高揚感のある音楽は彼のすべてではなかったのだ。このようなロマンチックで味わい深い作品もあるのだ。良かった、聴いておいて。


01.7.3.

ラフマニノフ 交響曲第2番 ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団 1973年録音 RCA Victrola 60132-2RV

チャイコフスキー、ショスタコーヴィチ、ラフマニノフ。オーマンディのロシア物は概して良いようだ。このラフマニノフにしても、曲の構成をしっかりと捉えていることが感じられるため、聴く方も、入りやすい。また、オーケストラの音が美しく、歌い方にも説得力がある。他にもよりよい演奏があるのかもしれないが、作品の面白さが一聴して感じられる演奏というのは、やはり良い演奏というべきではないかと思った。これは持っていたいCDの1つだろう。


01.7.4.

今日はアメリカの独立記念日。朝ラジオをつけると、地元のラジオ局がコープランドの第3交響曲を放送(スラトキン/セントルイスSO)。「やっぱり」という気持ち。ちなみにこの作品、ここ3年で3回、違った演奏のエアチェックがある。やはり人気のある作品…なのか。国民的にこれを「アメリカの交響曲」として広めようとしているのか。

いわゆる3大交響曲(コープランド、ハリス、W. シューマン)ということで考えると、コープランドは圧倒的に聞かれるチャンスが高く、ハリスは地元ラジオなら可能性があるといった感じ。残念ながらW. シューマンの第3交響曲は確率がかなり低くなるのではないだろうか。彼の作品では、《ニューイングランドの三連画》が一番確率としては高いだろう。使われている賛美歌、とくに<チェスター>が有名だからだ。

11時からの番組「Performance Today」では、コンヴァースの《神秘的なトランペット吹き》がメインとなっていた。小曲としては、海兵隊軍楽隊によるロン・ニルソンの《ソノラ砂漠の祝日》とコープランドの《市民のためのファンファーレ》。後者については、これを聞くと夏を感じるというリスナーからの手紙が紹介されていた。それほどこの曲が独立記念日には欠かせないものとなっているのだろう。夜の9時半からは、海兵隊軍楽隊のライブ番組。しかしこれは去年やったものと同じではないか? 録音日がいっさい明らかにされていない。怪しい。その他はジョン・ノウルス・ペインの第1交響曲(建国100年の年にかかれたのだそうだ。あっそう)。

ポップス・オーケストラの野外コンサートも例年通り。ケーブルテレビの契約の都合で昨年は見られなかったボストン・ポップスをちらっと拝見。驚いたのはキース・ロックハートの指揮。ひどく雑に見えたからだ。そのせいか、2年前に聞いたシャープさがなくなってしまったようにも思ったのだが、気のせい? 公共放送はワシントンDCから、ナショナル交響楽団で、指揮はおなじみカンゼル。どしゃぶりの雨のなかで大変だったようだが、演奏はこっちの方がよかったかも。チャイコの《1812年》、もともとはボストン・ポップスがトリに持ってきたことから始まる企画なんだが、ワシントンの方は大砲の出る当たりから始めている。これはある意味、観客(!)にとってはありがたいのかも。

ところで、アメリカ先住民たちや黒人たちは、この日のことを、どう考えているのだろう。


01.7.5.

今日も「Performance Today」の前半の1時間はアメリカ音楽。大植英次さんのグローフェ《山道を行く》が聴けるとは思わなかったが。


01.7.6.

リスト ハンガリー狂詩曲(第1番〜15番)、スペイン狂詩曲 ジョルジュ・シフラ(ピアノ) 仏EMI 5 69003

民族主義的なものに対する関心。後にそれはもっとラディカルなものとして結晶することになるが、リストらしい技巧の面白さが民「俗」的な音楽との接点となったのも興味深い。演奏技術の巧さを見せつけるのは、ストリート・ミュージシャンが人目を引くためにもよくあること。もちろんリストの場合は、ステージにさっそうと現れたに違いないのだが。

おそらくそいった民俗音楽の伝統をコンサートホールの伝統に入れていったのが、19世紀作曲家としてリストの貢献でもあったのだろう。しかしこの15曲を続けて聴くのはちょっとつらいかな。いや、曲の善し悪しというよりも、類似の発想・音楽語法のものを立て続けに聴くことの不自然さというべきか。

[メモ] サラサーテの《ツィゴイネルワイゼン》の後半に出てくるハンガリー舞曲が13番に。

これはジョルジュ・シフラの代表盤の一つだそうだが、私にとっては「まあまあ」くらい。確かにうまく弾いているのだけれど「見得」の切り方がもっとうまいといいのだが。せっかくいいテクニックを持っているのだから、もっと派手にアピールすることを考えてもいいと思う。ちょっとテンポを落として引き締めるとか、特定の旋律をわざとらしく露出させてみるとか。もっと一回性のような、ワクワクしたものがほしい。「遊び心」でもいいんだけれど(ホロヴィッツはこの点で抜群)。

あとはリズム感に(「揺れ」と言うよりは)ふらつきが聞き取れてしまうことと、声部間のバランスの取り方に確固としたアイディアが感じられないことが問題なのかもしれない。


01.7.7.

J. S. バッハ フルート協奏曲ホ短調BWV 1059/35(ウイニフリード・ラデケによる編曲) ジェームズ・ゴールウェイ(フルート)、ザグレブ・ソロイスツ 米RCA Papillon Collection 65172-2

BWV1059はオーボエ協奏曲第8番だそうだが、これはすでに失われたのだそうだ。そこでチェンバロのトランスクリプションやカンタータ第35番の両端楽章などを参考して復元したのが、このフルート協奏曲とある。

個人的にはゴールウェイの太いフルートの音は好きなので、客観的な評価はできないかもしれないが、しかし聴いた感じ、その骨太さというのは、音色だけでなく、彼の音楽全体のリードにも反映されているように思う。同時収録の管弦楽組曲第2番にもこれは良い方に出ている(テンポの速さに、やや行き過ぎの感もあるだろうか)。しかし、キョン・ホワ・チュンやフィリップ・モル、モレー・ウェルシュとの共演によるトリオ・ソナタ(BWV1030、1079)の方になると、ゴールウェイの「一人勝ち」になってしまうような印象も持った。多声音楽は「副声部」も主張すべきであるから、これはちょっと問題かもしれない。もっとも、「これはスター奏者ゴールウェイの録音だ」とプロデューサーが押したのなら、私は文句は言わないが。

吉田秀和『LP 300選』(新潮文庫)をちらっと読む。大学学部時代、生協で立ち読みして買ったんだと思うが、某掲示板で話題になっていたので、読んでみる。さすがに独断的なところもあるけれど、当時ならばコンパクトで、良く書けた音楽ガイドだと思う(こういう良いレベルで、しかも新しい情報を踏まえて書ける人が現在必要だと思う。ガクシャには難しいかなあ)。ロマン派の冒頭部分はフリードリヒ・ブルーメ?


01.7.8.

『グラモフォン』誌を買う。オマケにナクソスの「アメリカ音楽の古典」シリーズのサンプラーCDがついて来た。これは面白そう。


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